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    PostTakahiro

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    以前に書いたセレブ平勇の、尾鯉設定のお話です

    時には贅沢も許される俺たちが出会ってから二十年の付き合いになるなんて、あの時は思いもしなかった。
    幼い頃、母親同士が知り合ったのがきっかけの付き合いだ。
    俺は他人に親切な子供ではなかったし、自分より小さな子供の世話をするのなんて初めてだった。
    母親に連れられてやってきた鯉登は4歳の子供で、俺は10歳だった。商談の間の相手を頼むと言われて、俺は鯉登の母親が持参してきた絵本を読んでやったのだ。
    鯉登は終始楽しそうにしていて、その後も母親について店に来るようになり、俺によく懐いたが、小学生にでもなれば、他に目が向くだろうと思っていた。
    それが、今では月の半分は互いの家を行き来しているのだから不思議だ。
    「今年のゴールデンウィークの休みはどうなっている?」
    「ここに休みを集中させるとか言って、10連休になってる」
    「本当か!?」
    しがない会社員の俺の勤める職場は、日祝は休みだが土曜は半分程度という具合だ。それが今年は取らせねばならない休みを強制的にそこへ突っ込んできたということらしい。まぁ、こっちは休めるならばどうでもいい。
    「それじゃ、兄さあ逹の旅行に一緒に行かないか?」
    今年は南の方へ行くと言っていた。と鯉登は明るい声で言う。
    今ここが春だから、南ならば秋だ。あの人たちの言う南は鹿児島とか沖縄とかじゃなく、オーストラリアとかニュージーランドとかそっちのことだから。
    「別荘でも買ったのか?」
    「知り合いの別荘を借りられるんだって言ってた。管理人も料理人もいると言っていたから、ホテルみたいなものだと思っていいと思う」
    金持ちネットワークというと言葉が悪いが、人間関係というのは大体同レベルの生活をする人間の間で結ばれるものだから、そこに自分が片足を突っ込んでいるのが、俺には信じがたいものがある。
    母が個人でジュエリーショップを始めたのは、元々宝飾品が好きだったのが理由だが、商売の相手が富裕層になったのは、愛人関係にあった俺の父親に知人を紹介させたからだという話だ。
    鯉登の母親は父の親友の妻という関係で、よくもまぁ、それを紹介したもんだと後になって呆れた。だが、鯉登の母親のような善良な人は、愛人の立場に理解があるのか、何かと俺たち親子にも親切だった。育ちがいいというのはこういうものかと思ったと母は語ったことがある。俺にしても、異母弟の勇作に会う度に、その時の母の言葉と同じことを思う。
    余裕のある人間は、本心から人に親切になれるのだ。多分。
    「特に予定もないし、行ってもいいぞ」
    鯉登をどこかへ連れて行ってやる計画を立てていたわけでもないし、既にある計画に乗った方が楽だ。
    先祖代々の資産を受け継ぎ、それを使い生活の糧を得ている鯉登家の人間の中で、次期当主になる鯉登の兄の平之丞は、弟に甘く、自分の恋人に甘い。そしてその両方と関係のある俺に親切だ。
    会社員の俺が一生かかっても得られない額の資産を持つのは、兄だけでなく弟である鯉登もそうだが、彼らは財産を食い潰しているのではない。株などの投資運用や所有する固定資産の賃貸などでそれを増やしつつ、パトロンとして新しい才能や研究開発への投資を行なうなどの社会貢献的なこともしている。
    そういう人間だからなのか、彼らは金を使うことに躊躇いがない。使うべきところに金を注ぐことが正しいと考えているから、金遣いが荒いわけではないが、額に糸目をつけないところがある。
    それは当然自分の娯楽や、友人知人への祝いなどにも表れて、旅行先から送られてくる土産などは、時々値段を考えたくないようなものの場合もある。先日は小さなダイヤのついたピンが送られてきた。だが、俺は布や毛糸の値段がわからないから、やたらに着心地の良い気に入りのセーターが、意外に一番高い贈り物だったりしないかと思っているところもある。
    そういう人間と過ごすのは、金遣いのおおらかさにストレスを感じないではないが、それ以外では快適なものだから、最近では快適さに身を任せるようになってきていることに、俺は少しばかり恐れを抱いている。
    一般人の俺はそんな金の使い方はできない。他人の金をあてにして贅沢するようなことが当然だと思ったら、俺の人間性は崩落する。たまの親切に甘えることがあったとしても、日々の生活は自分の身でなんとかしなくてはならない。それは彼らと関わる度に自分に言い聞かせることだ。
    それでも今回は別だ。10連休なんていう、今後あるかないかわからないこの時を、楽しまなくてどうする。そうも思う。年に一度くらいならこれは許されるべきだ。多分。
    「楽しみだな!」
    何があるのかは知らんが、何かあるだろう!と、適当なことを言う鯉登には笑うしかないが、そこに相手がいればそれでいいということだ。他人の別荘でのんびりダラダラ過ごしているのでも楽しくなるのは間違いないなら、いる場所が良ければ良いだけいい。
    「そうだな」
    どうしてこんなに続いているのか、確かにそれは不思議だが、こいつと一緒にいるのが楽しいから。ただそれだけのことだ。




    「ニュージーランドって言えば、ホビトンだろう?」
    映画ロードオブザリングとホビットの撮影に使われた、ホビット庄を観光用の施設として公開しているのだ。映画に詳しくなくても、旅行先の話題としては申し分ない。
    「そうなのか?」
    尾形はあまり興味がない風だが、反対をしないということは、付き合ってくれるということだろう。こういう時、嫌ならば嫌だというのが尾形の良いところだ。
    「そうなんだ」
    だから私が重ねて言うと、じゃぁ、行くか、と返してくれる。
    「ツアーを予約する必要があるらしいが、滞在中のどこかには行けるだろう」
    「俺はオーロラが見に行きたい」
    南半球のオーロラは北半球のオーロラとは違うらしい。尾形がそう言うのを聞いて、この旅行を楽しみにして調べてくれたのだと思って嬉しくなる。
    「星空の綺麗な湖もあるらしいな」
    この季節は紅葉が美しいとか、とにかく自然を満喫できるらしいというのが、私が事前に手に入れた情報だ。あとワインが美味しいとか、コーヒー好きが多いとか。
    「平之丞さん逹はどういう予定なんだ?」
    「何か計画しているみたいだが、その日の朝に思いついて変えたりするから」
    朝起きて、シーフードが食べたいと思い立ったら港町へ行く、そういう展開になるのは目に見えているから、あまり旅行の目的を立てないのが兄逹のやり方だ。美味しい食べ物や美しい場所についての情報は集めていたが、別荘にいる執事にでも聞いた方が有用な情報が多い可能性もあるから、こちらもそれくらいの気でいた方がいいかもしれない。
    「オーロラについても聞いてみれば手配してくれるだろう」
    「そうだな」
    尾形も最近はそうして人に頼むことを覚えたようで、人任せは気楽すぎて良くねぇな、と時々こぼしている。何せ彼らはプロだから、行ってみたら失敗、なんてことが起きないのも有り難い。
    「別荘と言っても街中にある家のようだから、近くを歩き回るだけでも色々楽しめそうだぞ」
    「そういうのが気楽でいいかもな」
    「うん」
    夕方発の直行便というのは、朝から落ち着かないもので、空港に向かうタクシーの中も、なんともソワソワした気分だ。
    「楽しい旅行にしような」
    私は尾形がいればそれで十分楽しいけれど、でもどうせならもっと楽しい方がいい。美味しいものを食べたり、綺麗なものを見たり、楽しい気持ちを盛り上げるものは多ければ多いほどいいものだ。
    「そうだな」
    きっと楽しい日になる。尾形の穏やかな声を聞けば、それは明らかだ。
    「帰って仕事に行きたくないって言い出すのが、今から予想できるぜ」
    きっとそうだろう。だからそれを機に、あんな無茶な勤め先を変える気になってくれるといいなと思う。最近の尾形はいい具合に余暇を楽しむようになってきたから、きっとこの旅行は良い変化をもたらしてくれるはずだ。
    それは私の身勝手な望みだから、口に出したりは絶対にしないけれど、毎日家でゆっくりできる時間がある程度の勤務時間になってほしいし、もう少し健康的な顔色でいてほしい。
    それがどんな職になるのか私には想像ができないけれど、そんな日が来ると良いなと思う。
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