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    彰冬(完全固定)、ときどきカイメイ(VBS)

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    喫煙と彰冬 2000字ほどのお話です。
    (先日ふせったーに載せていたものからほんのり調整しております…)
    ※喫煙 ※同棲 ※成人 捏造3点盛り

    #彰冬
    akitoya

    けぶりは天に届くのか
    夜の帳が下りる頃、冬弥はライブハウスから地上へと降り立った。
    夜は冬弥を迎え入れるように心地よい風を送った。冬弥は好きになびく髪を気にかけることもなく、夜を受け入れる。
    「お、青柳君じゃん」
    外の暗闇から不意に声をかけられる。振り返り音の発信源を探せば、そこには今では馴染みとなったライブハウスのオーナーがにこやかに手を振っていた。
    「お疲れ様です」
    「さっきのBAD DOGSのパフォーマンス、最高だったぜ! 相変わらずやるな」
    「ありがとうございます」
    生真面目に軽く頭を下げた冬弥に、オーナーは豪快に笑う。頭をもとの位置に戻した際、風が気まぐれに運ぶ硝煙の匂いに、冬弥は気づかないふりをしようとした。
    「それで早速なんだが…ちょっと向こうで一服しながら話さねぇか? 実は打診してもらいたいことがあってな。お前らにとっても悪い話じゃないと思うぜ?」
    「それ、は」
    「ああすいません。こいつタバコ吸ったら咽せちまうんすよ。だからオレだけ行ってもいいすか?」
    「彰人」
    「おお! 東雲君おつかれ、さっきのパフォーマンス良かったぜ」
    後ろから突如出された助け舟は冬弥にとってちっともありがたくなかった。不明瞭なこころのかたちに漣の音を聞いた。
    「つーわけで冬弥、お前は先帰ってろ。いいな?」
    「だが」
    「この辺の喫煙所って撤去されてませんでした?」
    「んや、向こうのコンビニ近くにまだ生き残りがあるんだよ」
    「へぇ、そうだったんすか」
    知らなかったなあとにこやかにオーナーとの会話を進める相棒は、既に冬弥のことを置き去りにして歩み出してしまった。
    何か小言のひとつやふたつを聞かせて引き留めようとしたが、冬弥にはその言葉たちが夜の闇の中では見つけられなかった。
    また、離れてしまった。
    冬弥は煙草を吸わない。吸えないことも彰人の言うことも嘘ではない。しかし、彰人も同様に煙草は吸わない。
    それなのに、二十歳という節目を迎えてから彼は付き合いのための煙草を覚えた。実際、彰人のおかげで出演の話が舞い込んできたり、自主企画の話が通りやすいこともあった。
    それでも冬弥は、彰人が紫煙を燻らしひとり帰宅する姿を見てはいられなかった。



    彰人と冬弥が共に暮らす一室には小さいながらもベランダが備わっている。高所が苦手な冬弥に配慮して部屋を決めたため、まったく見晴らしがいいとは言えないが、冬弥はその外とも内ともつかない世界の狭間を気に入っていた。
    ふと見上げると星が僅かながら瞬いている。月は翳っていて見えないが、それは後ろめたい気持ちがある冬弥をひどく安心させた。
    「ただいまー…冬弥?」
    相棒の声に振り返りそうになるが、ぐっと堪えた。真っ暗な室内に彰人は、冬弥がもう寝たのかもしれないと考え声量を抑えたらしい。何をしているのだろう、と冬弥は自身をひどく惨めに感じた。
    「げほ、」
    「っ、冬弥!?」
    思わず咽せてしまった冬弥の声を、彰人は聞き逃さなかった。打って変わって音をバタバタと立てながらベランダへと近づく気配を冬弥は背中越しに感じていた。

    冬弥の手は、煙草を持つその手は、僅かに震えていた。

    「おまッ…、なにしてんだよ!」
    その震えた手を力任せに掴んだ彰人は、ひどく焦燥した顔をしていた。
    「…けぶるのなら、一緒がいいんだ」
    「は? それって、どういう…」
    「、げほっ」
    「バカ、それ以上はやめろって」
    彰人は冬弥の手から煙草を引ったくると、それをベランダ用のスリッパで踏みつけた。
    冬弥は一連の流れをただぼんやりと眺めることしかできず、ちっぽけな勇気も今し方灰になって消えてしまった。
    「…はあ、お前が吸うことねえだろ。こういうのはオレに任せときゃいいんだよ」
    「……」
    「……冬弥?」
    彰人は冬弥のことを理解している。理解しようとしてくれている。それは冬弥本人よりも冬弥のことをわかろうとしてくれていると言っても過言ではなかった。

    (でも、この気持ちだけは、まだ、見られたくない)

    きっと彰人ひとりではそんな悲愴的な思考に陥ることはないだろうから。
    彰人は、純粋にただ付き合いで煙草を嗜んでいるだけだ。日頃自ら吸うところを冬弥は見たことがなかった。冬弥が見たことがないのだから、きっと日常的には吸っていないのだろう。
    だが、こうして付き合いでは吸うのだ。それが冬弥よりも彰人の方が適任だ、という彰人の言い分は理解していた。冬弥も彰人ほどの気さくさを持ち合わせていないことを自覚している。

    それでも納得が出来ずにいるのは、こころとの折り合いが未だつけられずにいるのは。

    彰人が冬弥の知らないところで、命を削ることが、ひどく悲しかったのだ。
    冬弥だって、彰人のことを理解している。だからこそ、彰人がそんなこと意にも介していないことを理解していた。
    離れていくいのちの距離が、冬弥には耐えられなかった。

    「…すまない。おかえり、彰人」
    「…ただいま」

    少し不服そうではあるものの、彰人は憤りを抑えたようだった。
    部屋に戻ろう、と冬弥が促すと、彰人はひとつ短く返事をして部屋に入る。冬弥もそれに続いた。

    ポケットには開けたばかりの煙草がまだ残っていた。
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