黒猫は嫉妬するパチンコの帰り道、路地裏から誰かを呼ぶような声が聞こえた。もう一度耳を澄ますと、奥の方から小さく小さく猫の鳴き声が聞こえてくる。
弱々しく、それでいて必死さを含んだその声は、まるで助けてと言っているようだった。
注意深く辺りを見回すと、ゴミ箱とビールケースの隙間に怪我をした黒い子猫がいた。
「…それで完治するまでウチで面倒見てるってワケ。」
「なるほどな。」
「もうさ、神楽と定春は構いたがるし、コイツはコイツで怯えて俺から離れねぇし。ギャーギャー大騒ぎで、もう大変だったんだよ。」
「それでアイツらは?」
「散歩行かせてそのまま新八んとこ。なークロ?」
そう言いながら優しく黒猫の頭を撫でる。猫は目を細めて喉をゴロゴロ鳴らしたあと、銀時の手に頭を擦り付けた。
「名前付けたのか。」
「呼ぶ時に不便だからな。クロ可愛いだろ?」
首を傾げながら抱き上げたクロを俺に近づける。鼻先にそっと手を近づけると、灰がかったブルーの瞳がこちらを向く。こちらを向いたまま暫く匂いを嗅いでいたが、プイッと逸らされてしまった。
「あちゃー土方くんでもダメか。」
「"俺でも"って?」
「新八とかもダメだったんだよ。俺以外ダメみたいで。」
土方くんならワンチャンいけるかなと思ったんだけどな、そうさして残念でもなさそうに言う。
「そうか。」
正直面白くない。最近忙しくて会えていなかった。2週間ぶりの逢瀬だ。必死に仕事を終わらせて休みを作ってきた。
それなのに、銀時は猫に夢中で。一瞬俺を見たものの、それ以外視線は猫に注がれていて。
俺を見ろと、俺以外見るなと言ってしまいたくなる。それでも楽しそうな銀時と子猫を引き剥がすことなんて出来なくて。
複雑な気持ちのまま、少し離れた位置で二人を眺めていた。
猫を撫でながら気づかれないように向かいのソファを盗み見る。土方の口数が少なくなった。段々と眉間のシワが深くなっていく。
あれは明らかに嫉妬だ。本人は解ってないようだが。
本当は神楽たちを預ける必要なんてなかった。構いたがるのは事実だが、ペットを預かる依頼なんていくらでもある。扱いだっていい加減慣れてる。
こんな簡単な事も見逃すほど、今の土方には余裕が無いらしい。かーわいいの。
強引にこっち見ろって言えばいいのに。
まぁ彼本来の優しさが邪魔して言えないんだろう。
こういうところが好きで、ついついイジワルしてしまう。これも愛だよ?まぁ歪んではいるけど。
何かを察したのか膝の上の猫がチラリと土方を見て、満足気にソファに戻っていく。
ふふ、俺はいいからアイツの相手してやれってか?随分と気が利くヤツだ。
そうだな。意地悪しすぎると後の仕返しが怖いし、今度はこっちの猫を構ってやるとするか。