間接キス(ver.銀時)「金時!帰りにゲームセンターに行かんか?」
「あー今日は無理。」
「何だ、またアイツか?」
「おう。」
「俺達以外に友達が出来るとは…俺は嬉しいぞ!」
「はいはい。っていうか残ろうとするなよ。散れ、帰れ。」
ガヤガヤと騒ぎ立てる幼馴染たちを追い払い、1人静かになった教室で息を着く。
カラカラと窓を開けると、蝉の声と共に入ってきた風がカーテンを揺らした。
3階の1番奥、俺らの教室の窓際の椅子。そこは俺だけが知る秘密の特等席。野球部の副キャプテンであるアイツがよく見える場所。
窓の外へ目をやると、グラウンドでは野球部がピッチングの練習をしているようだった。その中でも一際輝いているように見えるアイツ。
全員同じ帽子、同じユニフォームに身を包んでいるはずなのに、どこにいても分かってしまうのは、この叶わぬ想いからだろうか。
もしこの気持ちを伝えたら。いや、結果は目に見えてる。関係が悪化するのは耐えられない。
じゃあ捨ててしまえば。いや、簡単に捨てられていたらこんな事にはなっていない。
…はぁ、やめやめ。考えたところで何も変わらない。友人というポジションのまま卒業を迎えるのが最善だろう。
幾度となく繰り返した問答と導き出した正解にため息をついて、考えるのを止める。
あぁ。今日は風が気持ちいいしこのまま眠ってしまおうか。
廊下に響く、バタバタと階段を駆け上がる音で目が覚めた。窓の外を見ると、もう夕暮れ時。あれからかなり時間が経過したようだった。
「ハァ…悪ぃ坂田遅くなった…。」
「お、土方。お疲れ様さん。」
ゆっくり振り向くと、そこに居たのは汗だくのアイツ。俺の為なんかに、そんなに急いで来なくても良いのに。
もっと涼しいところで待てよと土方が言う。そういう細かい気を遣える所がモテる所以なのか。
気を遣ったのが自分だというだけで、ただでさえ暑いのに周囲の気温が1度上がったような気がする。
「あっちーね。」
誤魔化すようにそう言って、鞄からスポドリを取り出した。ゴクッと1口飲むと、火照った身体に染み渡っていく。
ふと、視線を感じて隣を見ると土方がボーッと此方を眺めていた。
「おーい、土方生きてる?」
「いや…俺も喉乾いたなって。」
スポドリを見ていたのか。そうだよな、俺の為に走ってきてくれたんだもんな。
「これ飲む?」
反射でそう聞くと、土方は何故か遠慮しているようだった。近藤たちなら遠慮しねぇのに。それが何となく癪で適当な理由をつけてボトルを押し付ける。
「お、おう。」
土方は一瞬躊躇して、ボトルに口をつけた。
ゴクリと喉が動くのを何となしに眺める。横顔もイケメンだなぁ、そんな事を考えていると俺はある1つの事実に気付いた。
これって……間接キスじゃね?
無理やり渡したの、変に思われたかな。いや、友人同士なら普通の事のはず。
「んじゃ帰るか!」
火照る顔を隠すようにわざと明るく言う。
「なぁ坂田。」
「んー?」
この気持ちを知られないように。
隠し通せるように。
「なぁ、課題見てやるからこのままウチ来ねぇ?」
土方が俺と同じ気持ちな訳がないのだから。