間接キス「土方センパイお疲れ様ッス!」
「おう、お疲れ。」
「トシ!今から俺ん家でゲームしないか?」
「あー。今日は先約あるからパス!」
昇降口で声をかけてくる部活仲間たちの誘いを断って、1段飛ばしで階段を駆け上がっていく。
はやく、はやくアイツの所へ。
「ハァ…ハァ…悪ぃ坂田遅くなった…。」
3階の1番奥、俺たちの教室の扉をガラッと開けると窓際の席の生徒がゆっくりこちらを向いた。
「お、土方お疲れさん。」
声をかけてきたソイツは坂田銀時。俺の想い人だ。
「おう。っていうか、あっちーな。もっと涼しいとこで待ってりゃ良かったのに。」
「んー。でもここなら土方よく見えるし。」
ニコッと笑う顔が可愛い。男相手に可愛いなんて変だと思われるかもしれないけど、それでも坂田は可愛いと思う。
「でもやっぱ、あっちーね。」
鞄からスポドリを取り出す坂田。
教室の窓から風が吹いて、カーテンがはためく。太陽の光が反射して癖毛の銀髪がキラキラ光る。その様子は舞い降りた天使を描いた、一枚の絵画みたいだった。
ゴクゴクとスポドリを飲む、その喉元をツーっと汗が伝っていく。
天使みたいなんて言っておきながら、その天使の胸元に視線が吸い寄せられている俺は、きっと聖職者には向いてないんだろう。そんな取るに足らない事をぼーっと考えながら、坂田に見とれていた。
「おーい土方?生きてる?」
目の前で手をフリフリさせて、首を傾げる坂田。
「あっ…いや…俺も喉乾いたなって思って。」
まさか貴方の姿に見とれていました、なんて言えないから咄嗟に取り繕う。
「ふーん。じゃあ…これ飲む?」
「えっ!」
にっこり笑って差し出されたのは、さっきまで坂田が飲んでいたペットボトル。
これって…もしかして…。
「別に遠慮しなくていいって!その代わり、後で課題教えてくんね?」
「お…おう。」
俺の動揺も知らず俺の手にボトルをグイグイ押し付ける。これはいいのか。いや、本人がいいって言ってんだから…。
意を決してスポドリを1口飲む。
「美味い?」
「…おう。サンキュ。」
正直味なんてわからなかった。
坂田と間接キス。
そんな事くらいで喜ぶなんて中学生みたいだけど、俺には夢みたいな出来事。
大それた望みだって分かっているはずなのに、良かったって笑う坂田の顔が赤いような気がして。ひょっとしたら、なんて考えがチラつく。
「んじゃ帰るか!」
「なぁ坂田。」
「んー?」
浮かれてるのは分かってる。それでもこの機を逃したら2度と言うチャンスなんて来ないかもしれない。
この誘いに乗ってくれたら、二人きりになったら。
「なぁ、課題見てやるからこのままウチ来ねぇ?」
俺の気持ちを伝えてみてもいいかもしれない。