【ハヅヨシュ短文】ジグソーパズル「珍しいね」
今日も、まるで自分の管轄が渋谷かのよう、当たり前な顔をしてヨシュアの元へ訪れたハヅキ。けれども彼はヨシュアに挨拶をするだけすると、何かをテーブルに広げて黙々と作業を進める。
ヨシュアからはハヅキの手元はよく見えない。あまりにも真剣にテーブルの上を見つめるハヅキに、ヨシュアは少し興味がわいた。なんせ興味を持つ対象が狭い彼なのだから、何に興味を持っているのか気になっても仕方がないであろう。
彼に近付くタイミングでハヅキが何をしていたかは分かったが、その様子をそばで見てみようとヨシュアは彼の向かいのソファに腰を落とし、声をかけた。
「珍しい?」
珍しいと告げたヨシュアに、ハヅキは確認の問いを掛ける。
「お前、そういうの好きじゃないでしょう」
やることなすこと色々と雑なハヅキである。そんなハヅキが集中力を使う細かい作業をあまり好まないのがヨシュアの認識だった。
ーー彼の手の先にはジグソーパズル。しかも真っ白の180ピース。
未だ外枠すら完成されていないソレに、ヨシュアはハヅキが完成させられる気もしない……というか、既に違っているような。
「そうだね。好きではないかな」
それでは何故、真剣に遊んでいるのか。
「これを遊んでいたら、物珍しさに振り向いてくれるかなって」
RGを散歩している最中に遭遇したジグソーパズル。ハヅキは彼が好きだと、彼は自分が好きでないと知っているから、これで遊ぶ自分が居たら興味を持つんじゃないかと考えて選んだのだ。ただちょっと、ハヅキ自身も思っていたより熱中しているけれど。
「ふうん、面白くないね」
ヨシュアとしては、罠に嵌められてしまったのだ。彼の思惑通り気にかけ、目の前にまで出てきてしまった。
「僕は面白いよ」
ヨシュアをちらりと見て、再びジグソーパズルを続けるハヅキ。ジグソーパズルに夢中になり自分をぞんざいに扱う事もまた、ヨシュアにとって面白くはなかった。
「何が面白いんだ?」
高圧的なヨシュア声音に、パズルのピースに目を向けたまま、ピース同士を重ねて合うか合わないかを確認していたハヅキの動きが止まる。
「見てわかるでしょ」
弾むハヅキの言葉に、自分がここに来たことも、ジグソーパズルも、やはりハヅキは両方楽しんでいるのかとヨシュアは悟った。
パチリ、また新しくピースが埋まっていく。
「ほら、コレ」
負けたかのような悔しさに、ヨシュアはせめて仕返しが出来ないかと考え、外枠のピースを1つ渡す。他者からの手助けを得て完成させるジグソーパズルほどつまらないものは無いと思ったからでーーでもそれは、ヨシュアの持つ価値観でしかなく、ハヅキには通じない。
「ありがとう、ヨシュア」
結論として、彼には3つ目の楽しいが追加されたーーヨシュアと一緒に遊べて、嬉しい。
ああ、そうだ、彼の性格を一瞬でも忘れるなんて。ヨシュアの完全敗北である。
「珍しいね」
僕がしてやられるなんて。
脱力気味のヨシュアの言葉に、ハヅキは笑みを増す。
「珍しい?」
今までだって何度かはあったはずなのにね。
口元の緩みきったハヅキに、ヨシュアはため息をついた。
ヨシュアもまた、完成に向けてピースを1つ手に取った。