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    misora0111

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    一燐Webオンリー展示小説です。

    『恋愛とはなんたるか』
    付き合い始めたばかりの恋愛初心者な一燐。書きたい所だけ書いた少女漫画な短い話です。

    ##一燐

    「僕に恋愛とはなんたるかを教えて欲しい!」
    「お、お、おう、お兄ちゃんに任せとけよ」
     ──この日、故郷の次期君主にして『Crazy:B』のリーダー、天城燐音は人生で一、二を争うピンチが迫っていた。
     燐音はつい十分ほど前に人生初めての恋人が出来た。相手は事もあろうか同じ血を分けた弟である天城一彩、しかし兄弟同士である事に関しては長い時間を掛けてさんざん悩み抜いた後でありその辺りの葛藤は割愛するが、紆余曲折あって晴れて結ばれる事の出来た二人──特に燐音にとっての新たな難題が待ち受けていた。
     誰もいない夜の空中庭園で、一彩を呼び出した燐音は弟に向かって愛の告白をした。燐音が腹を決めるのに非常に時間を掛けただけで一彩が燐音に向ける愛情は兄弟愛だけではなく、恋情が含まれている事には気付いていたのでこれは賭けでも何でもない勝ち確。予想通り一彩はそれはもう嬉しそうに表情を輝かせて告白を受け入れた。
     そうして結ばれた二人は抱き締めあったりなどをして、互いに幸福に浸っていたがふと一彩は顔を上げてこう問い掛けてきた。
    「兄さん、恋人になれたのは嬉しいけれど、恋人とは具体的に何をするものなんだ?」
    「えっ」
     らしくもなく素っ頓狂な声が出た。一彩が恋愛に疎いのは想定内だし、それでも恋人という関係を望んでくれた事は運が良かったとしか言いようがないが。
    「そりゃあ……こうして触れ合ったり、一緒に出掛けたり、色々するんだろうよ」
    「あまり兄さんと二人で出掛ける機会はなかったからそれが出来るようになるのは嬉しいけど、触れ合いなら故郷でよくしてたよね。こうして抱き締めあったり、たくさん撫でてくれたよ」
    「い、色々順序ってもんがあるんだよ。ただでさえ俺っち達は兄弟なんだから、ゆっくり時間を掛けて恋人ってのになってきゃ良いんじゃ……ねェの……」
     じわじわと羞恥が込み上げるのを感じながら何となくそれっぽい事を言ってみると、一彩からいつもの尊敬の眼差しを向けられた。
    「なるほど! 流石兄さんだ、僕はそういった事には疎いから勉強になるよ。これから僕に恋愛とはなんたるかを教えて欲しい!」
     こうして冒頭に至る訳だが、──恋愛経験値に関して燐音は一彩と同レベルである。


    * * *


    「ど〜〜すんのォ!? 恋愛とはなんたるかなんて俺っちが聞きてェよ! キスは結婚してからとか言う時代錯誤な21歳童貞ナメんな!!」
    「あ、そこは自覚あったんすね?」
    「見栄張るからやろが、素直に自分もよく知らんっち言えば良かったやろ」
    「全くです、妙なところで格好を付けるからそのような事になるのですよ」
     振り入れのためにレッスン室に集まった『Crazy:B』のメンバーに開口一番泣き付いたが、慰めのひとつもなく漫画のように吹き出しから伸びた矢印が体に刺さるような錯覚を感じた。
     情けない事この上ないが、弟との事を知っているこの三人以外に話せる相手はいない。とはいえ燐音は自分の恋愛事情について話した記憶がないのだが──酒に酔ってべらべらと喋ってしまったらしく、翌日には全てが筒抜けになっていた事実を知り頭を抱えて一生酒など飲まないと誓った。その半日後には忘れてビールの缶を開けていたが。
    「なァ伊達男〜、こういうのはおめェの得意分野っしょ?」
    「伊達男とはHiMERUの事ですか? 得意なわけないでしょう、その手の事なら椎名の方が適任では?」
    「んぐっ……えっ僕っすか!?」
     思わぬ矛先を向けられたニキは口いっぱいに頬張った栄養バーを慌てて飲み込んで声を上げた。確かにニキはシャッフル企画でデートプランを練っていた事があったが、具体的に参考になるようなアドバイスが出て来るとは思えず燐音は首を振る。
    「駄目駄目こいつは、どうせ食べ歩きデートとか食う以外のコミュニケーションの引き出しはねェよ」
    「言い返せないっすけど! 僕にだってちょっとくらい思い付くっすよ、えーっと、手、手を繋ぐとか……」
    「小学生かよ……」
     無学歴なので完全にイメージで呟いたが、実際のところ幼い頃以来手を繋いでいない事を思い出す。男同士で、しかも兄弟で、それなりの年になって手を繋ぐような関係は稀だろう。しかし今は恋人同士、確かにまず一歩を踏み出すならそこかもしれない。
    「……後でたい焼きでも奢ってやるよニキ」
    「えっなんで!? 怖っ! でもやったーありがとうっす!!」
     難しく考え過ぎていた燐音に、ニキの何も考えていないシンプルな意見は思ったより参考になった。癪だったので前言撤回せず食べ物で誤魔化されてくれるニキに感謝しつつ、想像する。一彩と手を繋ぐ、ただそれだけの事。一彩には幼い頃抱っこしたり一緒に眠ったり、愛らしいあまり額や頬にキスさえもした。あの頃は純粋な兄心だったが、そこに恋心が加わった今はどうだろう。
     立派に成長し、まだガキだとは思うが我が弟ながら男前になったと思う。そんな一彩と手を繋ぐ事を想像しただけで──顔から火が出そうな心地がした。


    * * *


    「兄さん、何をそわそわしているの? さっきからずっと上の空だよ」
    「えっ? あー……そうだったか?」
     一彩と街で買い物中──恐らく初デート、と呼んでも差し支えないこの日。一彩は服だの好きなシルバーアクセサリーだのを見て楽しそうにはしゃいでいたが、燐音はこれまでどんな店でどんな商品を見たのかほとんど思い出せない。指摘されて気付いたが、一彩の手の平ばかりちらちらと見ていて思ったより骨張ってるなぁとか昔は握り潰してしまいそうなほどに小さかったのになぁとか、そんな事ばかり考えていた。
    「そうだよ、話し掛けても気のない返事ばかりだ。……僕は何か粗相をしてしまったかな?」
    「ちっげェよ、えーと、その、なんだ、ついおめェの事ばっか見てて」
    「……僕の事?」
    「……あっ!? 違ェ! いや違わなくはねェんだけど!」
     本当の事とはいえ咄嗟に出て来た言葉にかっと顔が熱くなる。一彩の前だと調子が狂う、もっと格好を付けて兄らしく彼氏らしくスマートに振る舞っていたいのに。ただ一彩が隣にいるだけで、目が合って、声を聞くだけで心臓がうるさいほど高鳴って何もかもが思い通りにいかなくなる。一彩はいつも通りのように見えるのに。
     これでは恋愛とはなんたるかどころではない、自分の一彩に対する感情を制御するのに精一杯だ。
    「……いや、悪かった、ただ手ェ繋ぎてェなって思っただけでよ」
    「手? ……なんだそんな事! 繋ごう、嬉しいよ兄さん!」
     観念して正直に胸の内を明かすと、一彩はきょとんとした後なんの躊躇いもなく燐音の手を握った。想いが通じ合って抱き締めあった日は比較的大丈夫だったのに、たったこれだけの事で燐音は心臓が爆発しそうになる。直接肌が触れ合うから意識するのだろうか。
     そのまま、人気の少ない方へのんびりと歩いていく。兄弟なのだから人に見られたり撮られたりしても言い訳はきくが、やはり気恥ずかしさはある。一彩は機嫌よく繋いだ手を揺らしていて、やはりまだ無邪気な子供だなという微笑ましさとどこか安心感もあった。あまり、知らない間に一気に大人になってしまわないで欲しい。これからも一彩の成長は一番近くで見届けていたいし、そうでなければこっちの心臓がもたないから。
    「ごめんなァ一彩、あんま格好付かねェお兄ちゃんでよ」
    「うん? どういう意味だろう、兄さんはいつも格好良いよ。今日の兄さんは何だかこう、……そう、ラブい? 気がするけど」
    「…………」
     一彩に独特な語彙を身に付けさせたであろう、彼の親友の顔を思い浮かべた。可愛いと言われるならまだしもよりにもよって『ラブい』と表現されるのは複雑な気持ちになる。
    「俺も恋愛がどうのってのに関しちゃあ、一彩と同じスタート地点なんだよ」
    「ああ、そうだったのか。そういう事は教えて欲しいよ、誰だってどんな事にも初めてはあるだろう?」
     ──いつの間に、そういう言葉が出て来るようになったのだろう。視野が広くなったと思う、もう兄は何でも知っている、分からない事は何でも教えてくれると後ろを着いて来てくれた頃とは違うのだろう。
    「じゃあ恋人としては、兄さんと肩を並べて学んでいけるんだね。嬉しいよ」
     後ろに着いて来るのではなく、今度は隣に立って。
     それは寂しさもあり、それ以上に嬉しかった。自分の持つ大事な物や幸福を、全てこのたった一人の可愛い弟に与えてやりたいと思っていたけれど、今は二人で同じ目線で幸せの道を辿っていけるのだと。燐音はそれを欲しいと思ってしまったし、一彩はそれに応えてくれたのだ。
    「きゃはは、そうそう! これから恋人一年生として一緒におベンキョーしていこうなァ〜」
    「ウム! 僕も兄さんにばかり頼っていてはいけないと思って少し勉強してきたんだよ。兄さん、こっちを見て」
    「あん? 何だよ」
     言われた通りに一彩の顔を覗き込む。一彩の手が肩に伸びて来て、そのまま引き寄せられたかと思えばお互いの唇が合わさった。──顔が近過ぎるとか、初めて知る他人の唇の感触や温もりだとか、様々な情報が一気に押し寄せて心臓が爆発するのを通り越して一瞬呼吸を忘れた。
    「〜〜ッッ!! ばっ……か! てめ、何しやがる!?」
     あまりの衝撃を受けながら辛うじて突き飛ばすのは堪えたが、磁石で弾かれるかのような勢いで三歩ほど下がる。一瞬止まった気さえした心臓が馬鹿みたいに騒いでいる燐音の気も知らず、一彩はぽかんと首を傾げた。
    「何って……藍良が言ってたんだ、『付き合い始めたのォ!? ラブ〜い! どこまでいった? もうちゅーとかしちゃった!?』って……」
    「……藍ちゃんよォ〜〜……」
     こっちは手を繋ぐ所からとアドバイスを受けたのに、思わぬ伏兵によって弟に余計な知識を植え付けていた事実にその場に座り込んで顔を覆ってしまう。スタート地点は同じでも成長速度まで同じとは限らない、元々の性質だったり周囲の人間関係によっても変わるものだ。それでも隣に立って歩み続けるために一彩の速度に着いて行かなければならないのであれば──
    「ごめん、嫌だった?」
    「……嫌とかじゃねェよ、そうじゃねェけど」
     心の準備とかあるだろ、という女々しい言葉は飲み込みながらぶつぶつと呟いていると、座り込むままの燐音の目の前に片手を差し出される。見上げれば、眩しいほどの笑顔を浮かべた愛しい弟の顔。ああ、良い男になったな、なんてこんな時でも頭に過ぎる。
    「良かった、兄さんが嫌がる事はしたくないよ。……こうやって、一緒に恋愛とはなんたるかを知っていこうね、兄さん!」
    「…………」
     ──頼むからあまり早く成長しないでくれ。燐音は心の底からそう願った。


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