春驟雨の帳に隠れて――桜流しの雨――そろそろ、起きたらどうだ。
絹のように柔らかな蕾をそうっと雨粒で揺らせば、ようやく、待ち臨んだ時がおとずれる。
「――あ、とらおだぁ」
ほころぶ花のうちで大きなあくびを一つ零した桜の花精のふにゃりとした笑みに、暗色のフードをおろしたローも薄い笑みを返し手を差し伸べた。
起き抜けこそローの懐で二度寝を決め込んでいたが、一夜明け、すっかり目が覚めたらしい。
地上に降りたローがその姿を定位置である小高い丘の上に探していると、遠くから、呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、とらお!こっちだ!」
視線を向ければ、桜だけでなく、こぶしに木蓮、つつじ、それに人里から賑やかな声に惹かれてやってきたらしい蓮華に菜の花——春が来た喜びを共に祝う花精達の宴が開かれていた。
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