冬玄が風邪をひいたらしい。
「ということで、嫌がらせにお見舞いに行こうと思います。」
「はい!」
「はい、虎白くん」
「お見舞い用のもの買ってってもいいですか」
「それは行きがけにみんなで買いに行こうと思います」
「は〜い」
「南香ちゃん」
「お見舞いは分かるんですけど、なんで嫌がらせなんです?」
「あぁ、それは...」
事の経緯はこうだ。
今日の朝、冬玄から用事があるので今日は休むという連絡が入った。
そこまでは別にいい。
個々の用事があるのは仕方ないことだし、あいつはバイトもやってるからそっち方面だろうと思っていた。
けど、昼頃にあいつのバイト先に用事があったので向かうと、
「冬玄くん風邪なんだって?お大事にって伝えといて!」
と言われた。
つまりあいつは俺達には風邪であることを隠していたのだ。
「まぁこういう感じ」
「なるほど〜」
「行かない?」
「行きましょう!」
道すがらお見舞い用のあれこれを買い(お見舞い品を虎白くんに選ばせたらお高めのやつになった)冬玄の家に向かう。
チャイムを押して数秒待つと、冬玄本人が出てきた。
「なんでいんの...」
「よっ」
「やっほ〜」
「リーダーお見舞いに来たよ!」
心底嫌そうな顔をしてるが、髪はボサボサだし顔は赤い。
「バイト先を口封じするのを忘れたな」
「あそこか...」
「お邪魔しま〜す」
「しま〜す」
冬玄が頭を抱えたすきに2人が家に入る。
「ちょ、おいこら」
「お邪魔します」
「お前も...!離せよ!」
俺が入るのを防ごうとした冬玄の体を抱えてそのまま家へ。
「結構熱高いのな」
「歩けるから降ろせよ!」
「ろくに抵抗できてない時点で元気ないんだから大人しくしてろよ」
「くそ〜...」
じたじたしてる間に体力が無くなったのか、大人しくなった冬玄を連れて部屋に向かう。
ベッドに乗せて、布団をかけるが即座に起き上がろうとする。
「寝てろよ」
「寝てられるか!なんで来てんだよ...」
「お見舞いと嫌がらせ」
「嫌がらせ」
「俺達には隠したから」
「...だってさぁ...」
「だっても何も無いよ」
そう言って1度閉めた部屋のドアを開けば、果物を持った虎白くんと着替えを持った南香ちゃんがいる。
「お見舞い来ちゃダメだった...?」
「ぐっ...ダメじゃないけどさ...」
「やった〜!」
そのまま2人が部屋に入るのと入れ替わりに部屋から出ていく。
後ろから「重い!降りろ!」「元気なんでしょ?」「限度がある!」なんて聞こえるけど、叫べるなら大丈夫だろとスルーしてキッチンへ。
材料を用意してお粥を作る。
切って、入れて、煮込んで...と進めてる間に、虎白くんが来た。
「どした」
「お皿とナイフ貰いに来ました」
「あぁ、果物用の...」
探して渡してやるが、戻らない。
「まだなんか探してる?」
「ううん...ただ...」
「うん」
「何で冬玄先輩は風邪ひいてるの隠そうとしたのかなって」
心配するのはダメなのかな...。と虎白くんは言う。
「そんな事ないよ。」
その頭を撫でながら答える。
「あれはあいつの意地とプライドと、一応遠慮と優しさだろうから」
「うん...」
「気に食わないなら持ってきた果物全部食わせな」
「ふふ...先輩そんなに食べれないよ」
気分が戻ったのか、元気よく切ってくるね!と戻って行った。
それを見送ってお粥作りを再開する。
ああは言ったが、多分八割くらいは意地と遠慮だと思う。
1人でも平気という気持ちと迷惑かけるしという気持ち。
迷惑くらいかければいいのに。
それくらいで離れる気なんてさらさらないんだから。
考えながら作ってる間に結構な量になってしまった。
まぁ最悪持ち帰ろうと、お粥を皿に入れて持っていく。
「おら食え」
「なに...お粥か」
「おいしそ〜」
「先輩食べれる?」
「リーダーにあ〜んしてあげな」
「あ〜ん」
「やめろやめろ!自分で食えるわ!」
「固まるからはよ食え」
わいわい騒いでるのに一言注意を入れる。
大人しく食い始めたのを確認して、自分も座る。
「父親もいないんだから大人しく頼ればよかったのに」
「うるせ...1人でも平気だし...」
「着替えれてないし、夕方にもなって飯も食ってなかったのに?」
これはさっき確認した。
鍋どころか食器を使った形跡すらなかった。
「次も言わなかったら同じことするからな」
「...分かったよ...」
ぶすっとした顔のままお粥を食べるぬを見ている。
別にそういう所を直せとまでは言わないけれど、こいつが俺達には遠慮をしなくなって、弱ったところを簡単に見せられるようになればいいなとは思う。