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    kanaemon302

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    kanaemon302

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    あの日のもしもを夢に見る

    夢を見た。
    内容は、少し前にあった不思議な出来事。
    自分たちの命を、音楽を、夢を守るために戦っていた時だ。
    夢の中での自分たちは、あと一押しが足りずそれでも負けてたまるかと、見えない敵を睨みつけていた。
    向かうから攻撃が来て、それを相殺するために音楽を奏でる。
    必死にドラムを叩くも、消しきれなかった攻撃が後輩2人の方に向かった。
    とっさに2人を庇おうとした時、前に立っていた冬玄が何かを掲げた。
    それはあいつの首にかかっていた黒い石、確か、姉の形見だと言っていたもの。
    石は甲高い音を出したかと思うと、強い衝撃波を放った。
    それは確かに目の前にいる不可視の怪物に届いたらしく、叫び声をあげる。
    同時に風が止み、圧迫感が消えた。
    勝った。生き残った。
    嬉しさに腕の中の2人を抱きしめて、冬玄にもハグをしてやろうと振り返った。
    あんなことできるなら早く使えよ!なんて軽口を叩こうとして、
    いなかった。
    正確にはいるはずの場所には何かが落ちていた。
    あいつのベースと服と、血と肉だけがそこにあった。
    「なんで…?」
    疑問の声が口から出たが、頭では理解してしまった。
    あの時使っていた石は、効果は強くとも反動が大きいものだったんだと。
    あいつは、それを承知で使って死んだんだろうと。
    理解に感情が追いついて絶叫する。
    同時に、頭のやけに冷静な部分が気付く。
    音が遠い。
    琥珀くんが冬玄だったものに駆け寄る音も、南香ちゃんがあげる泣き声も全ての音が遠くに聞こえる。昔のように。
    立て続けに起きる理不尽に心が崩れる感覚がする。
    ふと、ろくに聞こえないはずの耳に声が届く。
    やけにハッキリ聞こえるその声曰くは、俺に残った聴力を捧げれば冬玄を生き返らしてくれるらしい。
    選ぶまでもない。
    残ったところで何の役にも立たない俺の耳なんかより、冬玄の命の方が大事に決まってる。
    俺の答えを聞いた声は、愉快そうに嗤う。
    薄れる意識と同じように、俺の世界から音が消えた。

    次に目が覚めた時は病院だった。
    全身傷だらけだし、やっぱり音は聞こえないけど、同じ病室に冬玄がいた。
    あいつの姿を確認した瞬間みんなくっついて泣き出した。
    あいつは訳分からんみたいな顔をしてたけど、俺はみんなで帰ってこれたのが嬉しくてしょうがなかった。
    でも、そこからは上手くいかなかった。
    俺の耳は聞こえないし、琥珀くんは前ほど上手く楽器が扱えないという。
    琥珀くんのものは努力次第でどうにかなるかもしれないが、俺のはどうしようもない。
    暫くは続けてみたけれど、やっぱりバンドを辞めようと決めた。
    メンバーのみんなは引き止めてくれたけど、俺自身がみんなの足を引っ張って、前に進めなくなるのが許せなかった。
    だから、荷物をまとめてバンドから出ていった。

    そこで目が覚めた。
    ベッドから飛び降りて、録音してある自分たちの音源を流す。
    聞こえる。
    大きく息を吐いてへたり込む。
    そうだ、あれは夢。
    現実では誰も欠けなかったし、俺の耳も治ったし、バンドはみんなで続けてる。
    ただ、とベッドに頭を預けながら思う。
    多分、あれは可能性として有り得たことだ。
    冬玄の石にそういう効果があったのは知ってるし、あいつだけじゃなく、誰が死んでもおかしくない状況だった。
    最後の声あたりのはよく分からないけど、分からないことは沢山あったし、深く考えないことにする。
    あの時誰かが死んでたら、夢と同じ選択はするだろう。
    たとえバンドを辞めることになっても、誰かがいない方が辛い。
    でも、ここは夢じゃなくて現実だ。
    仮に今耳が聞こえなくなっても、絶対にバンドを辞めるものか。
    難聴でもやりようはいくらでもあったんだ。
    耳が聞こえないくらいで辞めてたまるか。
    意地でもこの場所にしがみついてやる。
    明日も明後日も、みんなでバンドを続けて、いつか1番のロックバンドになるんだ。
    誰にも言ったことは無いけど、それが今の俺の夢。
    さぁ、明日も練習だからとベッドに戻る。
    もうあの夢は見ない。自分たちはあそこを乗り越えた。
    あとは全員で先に進むだけだ。
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