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    鴉の鳴き声

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    鴉の鳴き声

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    いぬさんとのうちよそなヤツ

    刀と忍者ラベンダーベットの一角
    「うーん…」
    「どうした、考え事か?」
    「いやさぁ、大したことじゃないんだけど」
    そう言いながら一通の手紙をルトゥに見せる。
    「イエロージャケットから?何かあったか?」
    そう言いながらルトゥは内容に目を通す。
    「なるほど、イエロージャケットが昔お前が海賊に捕まっていた時に一緒に取られた刀を押収した。持ち主に返すから取りに来てくれという事か」
    「刀術を教えてくれた赤誠組の友達からもらった刀なんだ。捕まって取られた時にはもう二度と戻らないんじゃないかって諦めてたんだけど、まさか戻ってくるなんてさ」
    「行ってくればいい。大切な物なんだろ?」
    ルトゥは手紙をオレに返しながら言ってきた。
    「あぁそれは行くんだけど…」
    「なんだ?俺の事を気にしてるのか?」
    「いや、いきなりリムサ・ロミンサに行くって言うと驚かせるって思ってさ」
    オレは笑いながらルトゥから手紙を受け取った。
    「取りに行くだけだろ?気にせず行ってくるといい」
    「じゃあ、お言葉に甘えて行ってくるぜ」
    ルトゥは苦笑いをしながら見送ってくれた。
    --------------------------------------------------------------------------------
    「懐かしいなぁ」
    リムサ・ロミンサに到着し、浅橋で潮の空気を吸いながら思い切り身体を伸ばす。
    オレ自身ココにいい思い出がある訳ではないが、結果的にはあの事件のお陰でルトゥと一緒になれたのだ。進んでまた同じ目にはあいたくないが、結果オーライというやつなんだろう。

    「イエロージャケットの務め所って何処だっけか…」
    手紙に同封されていた地図を確認しながら歩みを進めていく。
    街並みは以前訪れた時と大きな違いは無く、表通りを行き交う人々は活気に溢れている。
    まだ日は高いが、海賊とおぼしき者たちの笑い声がどこからともなく聞こえてくる。
    少しだけ昔を思い出してどうにも緊張してしまう。

    そうこうしている内にイエロージャケットの受付のあるコーラルタワーに到着した。
    早速建物の中に入り、イエロージャケットからの手紙を持って、受付の女性に声をかける。
    「はい、ジョウさんですね。書類確認いたしました。この度はご足労いただきありがとうございます。それでは押収品をお持ちしますので少々お待ち下さい」
    待っている間周囲を見回すと屈強なルガディンの男性たちが斧を構え訓練をしていた。確か斧術士のギルドも兼ねていると聞いた。

    その様子を眺めている内に奥から戻ってきた女性が手に持っていた刀は間違いなく友人から譲り受けた刀の意匠だった。ただ受け取った刀を手にして違和感を覚える。
    「ちょっと鞘から出して刃を確認していいか?」
    「構いませんよ」
    周りの安全を確認し、鞘から刀を引き抜く。何かが引っかかるような感触がしたがスグに理由がわかった。
    「あっちゃーこりゃひでぇな…」
    海賊に乱暴に遊ばれてしまったのか、保存が悪かったのか、サビと刃こぼれだらけの変わり果てた姿になった刀を見て顔をしかめる。折れていないのがまだ不幸中の幸いなのだろうか。

    「コレは鍛冶師の人に見てもらわないと駄目だな…お姉さん、この街に腕のいい鍛冶師さんって心当たり無い?」
    刀を鞘に収め、受付の女性に聞いてみる。
    「そうですね…それでしたらナルディック&ヴィメリー社の鍛冶師ギルドに行ってみてはいかがでしょうか。少し距離はありますがココをまっすぐにいった街の反対側にあります」
    「そうか、鍛冶師ギルドならなんとかなるかもしれないな。ありがとう。行ってみるよ」
    礼を言い、コーラルタワーを後にする。
    --------------------------------------------------------------------------------
    「おーい、ジョウ」
    黒渦団の本部のある広場を歩いていると自分を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえてきた。
    「あれ、ルトゥ?ハウスにいたんじゃないのか?」
    「お前が出てスグに暁から要請が来てな。サハギン族の動きが活発だから蛮神召喚の動きがないか調査して欲しいだと。ちょうど近くを通るから様子を見に来た」
    「サハギン族って言ったらリヴァイアサンだっけか?」
    「そうだ。ちょうど他のやつらが出払っていてな。ある程度動けるのが俺だけだったから仕方なくだ。お前の用事は終わったのか?」
    「うーん…刀は戻ったんだけど、ちょっと困った事になったんだよな」
    そう言いながら刀を見せる。
    「これはまた…随分とボロボロだな」
    ルトゥは顔をしかめながら刀を眺める。
    「どうするんだ?直す当てはあるのか?」
    「イエロージャケットの人に鍛冶師ギルドの人に見てもらってはどうかって言われてさ。ちょうどこれから向かう所なんだ」
    「なるほど、鍛冶師ギルドなら誰かしら修復できるかもしれんな」
    「そういう事、一度見てもらおうかなと」
    「では俺も同伴するか」
    「ん、暁の要請はいいのか?」
    「構わないさ。緊急の任務でもないし、どちみち移動も含めると明日からが本番だ」
    なんとなくオレのことを気にしてくれているんだろうかと勝手に嬉しく思いながら、二人並んでナルディック&ヴィメリー社に足を運ぶ。日差しが気持ちよく遠くから聞こえるかもめの鳴き声が耳に心地よかった。
    --------------------------------------------------------------------------------
    鍛冶師ギルドの受付の人に事情を話し、少し待っていると驚いたことにギルドマスターが対応してくれた。
    「刀拝見させてもらいました。幸い刃こぼれは少ないので、錆を落として全体的に研ぎなおせば形にはなりそうです。その後に削れた部分を精神感応型物質(ダークマター)で埋めれば修復は完了するのですが…」
    「何か問題があるのか?」
    「いえ、このレベルの業物となるとかなり純度の高い精神感応型物質が必要になるんですが、残念ながらうちに備蓄が無いんですよ。通常の武具の修理では必要のない純度ですし、そもそも市場に殆ど出回ってない物なので…」
    「じゃあ修理できないのか?」
    「申し訳ありません。残念ながら…」
    「おい、その純度の高い精神感応型物質があればなんとかなるのか?」
    黙って横で話を聞いていたルトゥが口を挟む。
    「あ、はいそうですね。不足しているのは修復に耐えうる精神感応型物質だけですね。研ぎ石などはこちらでも用意できますので」
    「入手のツテに心当たりは?」
    「えっ…そうですね…」
    ギルドマスターは少し思案にふけたが
    「申し訳ありません。物が物だけに確かな入手ルートを把握していないものでして…
    あっ…無駄足になってしまうかもしれませんが、うちに出入りしている商人がもしかしたら心当たりがあるかもしれません。丁度今来ているので話を聞いてきますね。少々お待ち下さい」

    暫く待っていると、1枚の書状を持ったギルドマスターが戻ってきた。
    「お待たせしました。彼自身は扱ってはいなかったのですが、扱っているかもしれない人物に心当たりがあるとの事でした。なんでも場所を変えながら売り歩いているミコッテの流れの商人、通称”旅烏”だそうです。今の時期は西ラノシアはエールポートの近く、スカルバレー近郊で店を開いているようです。ただ必ず会えるかはわからないようですね…」
    そう言ってギルドマスターは書状をオレではなくルトゥに渡した。
    「なぜ俺に渡す」
    「彼があなたになら紹介状を書いてもいいとの事です。彼はウルダハからの商人なのですが、なんでも昔アマルジャ族からあなたに助けられた事があるとか。それに紹介状はある程度身元がわかる方にしかお渡しできないと聞きましたので…申し訳ありません」
    「そうか、わかった。ではその商人に礼を言わなければならないな。彼は何処に?」
    「なんでも次の商談の時間が迫っているようでして、急ぎ出立してしまいました。直接礼が言えず申し訳ないとも言っていました」
    「む、そうか…残念だ」
    「気を悪くされないでくださいね。彼も商人なので商人としての形で礼を払ったようですし」
    「いや、大丈夫だ。有り難く受け取っておく。ここに出入りしている商人なんだろ?今度来た時に礼を伝えておいてくれ」
    「わかりました。後は必要な精神感応型物質に関するメモもお渡ししておきますね」
    そう言って、こちらのメモはオレに渡してくれた。
    「ありがとう。もし見つかったらお願いするよ」
    礼を言ってルトゥと鍛冶師ギルドを後にする。
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    「ルトゥがいてくれて助かったよ」
    エールポートの宿で荷物を解きながら、寛いでいるルトゥに声をかける。
    オレの言葉に笑みを浮かべ、ルトゥは地図を確認している。
    「件の”旅烏”はこのあたりで店を出しているんだったか。丁度サハギンの住処のハーフストーン方面で助かった」
    「オレの用事が終わったら、ルトゥの任務手伝うよ」
    「そうだな…まぁ偵察が中心だから大丈夫か。ただしあんまり奥地までは行くなよ」
    ルトゥは少し思案する表情を浮かべながら答えた。
    「わかった。じゃあ準備もできたし、そろそろ向かおうか?」
    「あぁ」
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    「多分このあたりだと思うんだけどな…」
    木々がまばらに生えているスカルバレー。比較的見通しがいいこの地域で二人して周囲を見回していた。
    「おい、あれじゃないのか?」
    街道から大きく外れ人の動きが少ないエリアに入ってきた頃、ルトゥが指差す先にはなんとなく人影らしき姿が見えた。
    「んんー…言われてみればそんな気も?流石にルトゥは目がイイな」

    更に近づくとオレでも人のなりが確認できるようになってきた。あちらもオレ達に気づいたのか視線を向けてきた。
    ミコッテとは聞いていたが、背丈や体格はルトゥに近そうだ。フードとコートで殆ど身を隠しており、黒い髪が少しはみ出ているフードの影からオレ達を見る視線は鋭い。
    「あんたが”旅烏”か?頼めば珍しい物も仕入れてくれると聞いた」
    そう言いながらルトゥは紹介状を旅烏に渡した。
    「あぁ扱ってないモノもあるがな」
    そう言いながら旅烏は紹介状を受け取り内容を確認する。
    「ふむ、彼からか…刀の修理に精神感応型物質が必要?そこらのマーケットに行けば手に入るぞ」
    「あ、純度の高い特別なやつが必要なんだ」
    そう言ってオレはギルドマスターが書いてくれたメモを旅烏に渡す。
    「なるほど、そういう事か。確かにこの純度となると一般市場には出回ってないな」
    「あんたの所で扱ってるか?」
    「悪いが今は手持ちに無い。ただ幾つか伝手がある。メモの分量なら2, 3日待ってもらえば手に入る。3万ギル準備しておいてくれ」
    「わかった」
    「では3日後の夕方にまたここに来てくれ。それまでに準備しておく」
    旅烏はメモの内容を手帳に書き写し、オレにメモを返してくれた。

    「いやーよかった!これで刀も無事に直せるな!」
    少し気は早いが、それでも直らないと思っていた刀が直せそうなのだ。ついつい顔がほころんでしまう。
    「良かったな、ジョウ」
    「ルトゥのお陰だ!ありがとな。後はサハギン族の調査だけだな」
    「あぁ、調査と言えど数日はかかるだろうから丁度いいな」

    「旅烏の兄さんの店、流れの商人だけあって色んな物扱ってるんだな。見たこと無いやつばっかだ」
    ある程度頭を悩ましていた問題に目処がついたからか、旅烏が扱っている他の商品が少し気になってきた。
    「一応それを売りにしてるからな」
    「あれ?この瓶のラベル、どこかで見たな…」
    ふと目に入った白っぽい液体が入った遮光瓶を手に取る。
    「ほぉ、お目が高いな。それは活力剤だ。一口飲めば、あら不思議。どんな疲れも吹き飛び、千の行軍にも耐えられる身体になれる錬金薬だ。
    なお夜の営みにも絶大な効果がある精力剤でもある。専らそちらで使われる事が多く、そちらの方も評判はすこぶる高い」
    「へぇすごいな…」
    表情一つ変えずに売る気があるのかよくわからない真顔でセールストークをしてくる旅烏に内心笑いを堪えながらオレは商品を元に戻す。でも今度ルトゥと一緒にヤル時に使ってみたいなとは思ってしまった。
    「あれ?ルトゥ、どうしたんだ?そんなしかめっ面して」
    「………」
    「ルトゥ?」
    「いや…なんでも無い」
    なんでこんな所に…と聞こえた気がしたが、それっきりルトゥは黙ってしまった。

    「では私は仕入れがあるので、そろそろ失礼する」
    「あぁよろしくな!」
    オレは旅烏に手を振って見送る。
    「さっきの活力剤は次も持ってくる。安心してくれ」
    「えっ!?」
    去り際に旅烏に囁かれ驚く。
    そ、そんなに物欲しそうな顔をしていたのか…
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    「調査ってどんな感じで進めるんだ?」
    黒渦団とサハギン族との前哨地、ハーフストーンの岩陰に隠れながらオレはルトゥに調査の流れを確認した。
    「そうだな、蛮神召喚の準備がどれくらい進んでいるかの確認が中心になる。クリスタルの備蓄やテンパード候補の人攫いの状況だな。
    現在は調査段階だから不要な交戦はできる限り避けるぞ。いざ侵入作戦を進める際に警戒を強めるわけにはいかないからな。ただ助けられる人がいれば助けていく」
    「なるほど、じゃあ潜入捜査が中心になるんだな」
    「そうだ。リヴァイアサンだと傘下の海賊、海蛇の舌の調査も必要だな。ココでも不要な交戦は避ける。調査だからな」
    そう言ったルトゥの表情には少し陰りが見え、自分に言い聞かせるようにも感じた。
    「…わかった」

    潜入捜査という事もあり、道中は特に戦闘も無くスムーズに進行できた。
    途中サハギン族の罠にかかり動けなくなっていた黒渦団の団員を何人か助け、初日はハーフストーンからサプサ産卵地のサハギン族の生息エリアを中心に広く回ったが、クリスタルの備蓄は確認できなかった。

    「いやー思ったよりも簡単にいったな」
    本日の調査を終え、エールポートの宿で寛ぎならオレは身体を伸ばす。
    「気を抜くなよ。罠を壊されているんだ。明日以降は少し警戒されるかもしれん」
    余裕を持っているオレにルトゥが戒めの言葉をかける。
    「今日見た範囲ではクリスタルの備蓄はまだまだ少ないようだから暫くは大丈夫そうだな。リヴァイアサンは召喚に大量のクリスタルを必要とすると聞いている」
    ルトゥは本日分の暁への報告書をまとめている。
    「さて明日は残る海蛇の舌のアジトだ。クリスタルもそうだが攫われた人がいないか注意しないとな」
    --------------------------------------------------------------------------------
    「さてと…どうしたものか…」
    大勢の海賊に囲まれ、背中を預けているルトゥが呟く。
    一通りアジトの調査を終え、攫われた人もいなかった為、切り上げようとした所、突然海賊に前後を囲まれてしまった。
    「罠だったって事か?」
    「さぁな…兎に角調査は完了している。さっさと突破して撤退するぞ」
    ルトゥは既に包囲網の薄い所に狙いを定めているようだ。

    「おめぇら何コソコソしてやがるんだ?水神さまの捧げものにしてやるぜ!」
    ルガディンの海賊が武器を構え吠えてくる。
    「はんっ、弱いやつほどよく吠えるってな」
    「な、なんだと!?どうやら痛い目見てぇようだなぁ…テメエらやっちまえ!!」
    ルトゥの煽りにお約束どおりの言葉を返してくれる海賊たちが一斉に襲いかかってくる。
    「俺が突破口を開く。ジョウはこぼれた奴を仕留めてくれ」
    「わかった」
    そう言った瞬間、ルトゥは槍を構え跳躍の体勢に入り、海賊の群れに突進していった。
    みるみる海賊たちがなぎ倒されていき、そんなルトゥをカッコイイなと惚れ惚れしながらも目の前の敵に意識を戻す。

    が、突然海賊たちとは異なる殺気がルトゥに向けられた。
    「ルトゥ!」
    ルトゥも気付いたのかとっさに防御を固めるが、突然飛んできたのは弓矢などではなく雷撃だった。
    「ぐぁっ…!?」
    流石に海賊から雷撃が飛んでくるとは予想していなかったのか、直撃を許してしまったルトゥはその場に膝をつく。
    「大丈夫か!?」
    目前の海賊を斬り伏せ、オレは急ぎルトゥのフォローに回る。
    「ちっ…」
    すぐに体勢を立て直したルトゥは殺気の方向、高所の岩場に視線を向け飛び立つ。
    ドゴォと跳躍の一撃で岩場が崩れ、砂煙からルトゥと黒い影が飛び出してきた。

    狼の仮面を身につけ、紺の装束を身に纏った人物がルトゥとは離れた場所に音もなく着地した。
    「え、忍者…?」
    オレは不意を突かれたように呟く。なんでひんがしの国の忍者がこんな所に?
    そう考えている内に忍者はオレの方に視線を向けてきた。
    「ジョウ!後ろだ!」
    ルトゥの声に後ろを薙ぎ払うが手応えはなく、代わりに急激に冷たい空気が漂ったと感じた時には手足を氷で固められてしまった。
    「くそっ…氷遁の術か…」

    「今だ!畳み掛けるぞ!」
    ある程度数を減らしたとは言え、まだ残っている海賊たちがオレ目掛けて突進してくる。
    「ちくしょうっ…」
    「させるかっ!」
    ルトゥが文字通り飛んできて再び海賊たちをなぎ倒していく。
    「これで大丈夫だ」
    戻ってきたルトゥが手足の氷を砕いてくれた。
    「助かった。ありがとう!」

    だが海賊に気を取られている内に忍者を見失ってしまった。海賊の中に溶け込んでしまったのだろうか。
    「ルトゥ、さっきの忍者の気配、わかるか?」
    「あれが忍者なのか…海賊の中にいるようだが、正確には掴めん」
    再び背中合わせになりながら、周囲を警戒するがオレもルトゥも忍者の気配は掴めない。

    海賊も数が減り、多少は攻撃の手が緩んできたが、こちらも姿なき忍者を警戒して攻めあぐねていたところ、突然海賊の一団から火の手が上がり、道が開ける。
    「ジョウ、突っ切るぞ!」
    その瞬間を逃さずルトゥは出口に向かって駆け抜ける。少し遅れてオレもルトゥに続く。

    「あっ待ちやがれ!てめぇら!」
    海賊たちが追いかけようとするが、突如海賊たちの行く手の地面が陥没し小規模な流砂のようになった。
    「あっ…ちょっ…お前ら止まれ!あっ…あっ…押すな押すな…あぁ…」
    勢いづいた海賊たちはそのまま流砂に突っ込み、足を取られ飲まれていった。
    「よしっ今のうちだ」
    オレたちはそのまま海蛇の舌のアジトから脱出した。
    --------------------------------------------------------------------------------
    「あの忍者はなんだったんだろうな?」
    エールポートの宿に戻り、手足の調子を確認しながらルトゥに話しかける。
    「さぁな、俺たちに手を出してきたと思えば、すんなり逃したり…目的が見えないな」
    「そうなんだよなー。サハギン族の動向調査はどうするんだ?」
    「調査範囲では蛮神召喚に必要なクリスタルは確認できなかったからな。まずは召喚の動向は確認できずの報告だな。あの忍者に関しては別途留意事項として共有しておくだけだ」
    「なるほど、じゃあルトゥの方の任務は完了ってことか」
    「そうだな。ジョウ、助かった。後は明日の夕方にお前の依頼品を受け取って、鍛冶師ギルドで修理してもらえば、ラノシアの旅はおしまいだな」
    そう言って報告書を書く筆を置き、ルトゥは少し身体を伸ばした。
    --------------------------------------------------------------------------------
    「場所はこのあたりで合ってるよな?」
    なんとなくこの前に見たような気がする岩や木を確認しながら周囲を見渡す。
    「……」
    「ルトゥ?」
    「合ってる」
    ルトゥはしゃがみこんで地面をジッと見つめている。
    「どうしたんだ?」
    「人の足跡だ。しかも大勢で慌ただしく走っているような足跡だ」
    「おい…それって」
    「足跡は向こう側に続いている。行くぞ。いつでも戦えるようにしておけ」
    オレは黙って頷きルトゥの後に続く。

    「む…」
    ルトゥが前方に何かを見つけたようだ。近づいてみるとそこには海賊の死体が幾つか転がっていた。
    「これは…旅烏の兄さんが殺ったのか?」
    「わからん…死因がバラバラだな…首を斬られている奴、火に焼かれている奴、電撃で焦げている奴、この青白い奴は…毒殺か」
    「それって…もしかして昨日の忍者か!?」
    「手段を持っているのは確かにそうだな。だがもしそうだとすれば…」
    「急ごう!旅烏の兄さんが危ない!」
    オレは急いで足跡を追いかける。
    「おいっ!待てジョウ!」
    後ろからルトゥの声が聞こえるが、オレは海賊たちの死体を飛び越えて走っていった。
    --------------------------------------------------------------------------------
    2つの対峙する人影があった。
    一人は黒髪のミッドランダーの男、もう一人は見覚えのある黒髪のミコッテの男。
    ミッドランダーの男は道中の海賊と似たような服装だった。ロングソードを帯刀しているが、構えが剣術士のそれとは随分と違うように感じた。どちらかと言えば、オレと同じ侍のそれに近いようにも感じた。
    一方のミコッテの男は満身創痍といった風体だった。両手に短剣を構えているが、呼吸も荒く、全身傷だらけだった。その身に纏うコートは先日見たコートと同じだが、随分とボロボロになってしまっている。
    形勢は明らかにミッドランダーの方に分があった。

    「一烏の兄さん、そろそろ諦めて一緒に来てくれると嬉しいんだけどな。本当は殺さないといけないんだぜ?」
    男は剣の柄をカツカツと指先で鳴らしながら旅烏に声をかける。
    「旅烏の兄さん!大丈夫か!?」
    オレは急いで旅烏の元に駆け寄り男と対峙する。男は冷めた目でオレを見るだけだ。
    「…ジョウ君か」
    弱々しい声で旅烏が言葉を返す。
    「すぐにルトゥも合流する。3人なら突破できる。今はいないみたいだけど忍者もいつ現れるかわからないし…」
    オレの言葉に旅烏は少し目を伏せ、目前の男が笑い出す。
    「ははっキミ、抜けてるなぁ。ニンジャサンはキミの横にいるじゃないか」
    「えっ…?」
    「やはり昨日俺たちを襲った忍者はあんただったか」
    追いついたルトゥが旅烏に視線を向ける。旅烏は目を伏せたまま何も答えない。

    「しかし随分と外野が増えてきたな。あんたらはあんたらで水神さまへの捧げ物にはしたいがな」
    「やれるもんならやってみやがれ!」
    ニィと笑う男の攻撃に備え、オレは武器を構えた。
    「待て!」
    突如目を伏せていた旅烏が声をあげる。
    「貴方達はこれを受け取って帰るんだ」
    旅烏は懐から包みを取り出し、半ばオレに無理やり渡してくる。
    「貴方の求める物だ。これで刀は直してもらえるだろう」
    「どういう事だよ」
    「これで貴方達は私に関わる必要は無い。これは私とあいつの問題だ。貴方達を巻き込む訳にはいかない。許されるとは思っていないが、昨日は…すまなかった」
    「だから、どういう事だよ!勝手に襲って、勝手に謝って、勝手に帰らせるな!」
    オレは段々腹が立ってきた。散々関わってるオレたちになんて身勝手な言い分だ。
    「悪いが俺たちはサハギン族の動向調査で来ているんでな。リヴァイアサンのテンパードがこうして活動している以上、それを見過ごす訳にはいかない。旅烏さん、あんたからは後でゆっくり話を聞かせてもらう」
    ルトゥは槍を構え、男に対峙する。
    「やめろ!もしあいつに手出しするようなら…げふっ…」
    旅烏は短剣を構えようとするが、血を吐き地に伏す。
    「ルトゥ!旅烏の兄さんの傷、思ったより深い…早く手当しないと」
    「ちっ…」
    ルトゥは男を睨みつけたまま距離を取る。
    「いいさ、あんたらで兄さんを連れて手当てしてやるといい。俺も兄さんには助かって欲しいし、機会はいくらでもあるさ」
    そう言って男はヘラヘラと笑いながら手をヒラヒラさせて帰っていった。
    「じゃあな、お二人さん。兄さんを頼んだぜ」
    --------------------------------------------------------------------------------
    「ん…ここは?…!?…げほっ…」
    目覚めた旅烏はあたりを見渡し、オレたちの姿と宿の部屋にいる事を認識し瞬時に状況を把握する。
    「目が覚めたか。あぁあまり急に動かない方がいい。手当はしてあるが、回復までまだ時間はかかる。あと荷物は一通り預からせてもらっている。大人しくしておいてくれ」
    「そうか…貴方達が…」
    「旅烏さん、あんたには聞きたい事がある。話してくれるな?大声でなければ、外に声が漏れることもない」
    ルトゥは槍を抱えたまま静かに問い詰める。旅烏は目を伏せ、暫く黙っていたが、ついに観念したのか口を開いた。
    「…わかった。できれば他言無用でお願いはしたいが」
    「それは内容次第だな。あとあんたがどれだけ協力的かにも依る」
    「そうだな…どこから話したものか…」
    「まずはあんたの本当の名前を教えてくれ」
    「姓は槍木、名を一烏という。出身はひんがしの国の…もう滅びてしまった忍の里だ」
    「そうか。では一烏さん、俺はあんたが蛮神召喚と海蛇の舌にどれだけ関わっているのか知りたい。あとはなぜ俺たちを襲ったのかも」
    「私自身、普段は流通の少ない品を扱う流れの商人をやっている。海蛇の舌自体とは取引していない。ただ海蛇の舌に所属しているある人間を監視しているだけだ」
    一烏さんは考えを巡らせるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
    「貴方達とさっき対峙していたミッドランダーの男だ」
    「あんたとあの男の関係は?」
    「あいつは…血の繋がりは無いが、あいつは私の弟だ。姓は私と同じ槍木、名を鷹彦という」
    一瞬ルトゥの表情に驚愕の色が見えた。
    「一烏さん、あんたと弟さんの事を聞いてもいいか」
    「私とあいつは戦で滅びた忍の里からクガネを経由してエオルゼアに亡命してきた。ただ運の悪い事に密航した船がサハギン族の襲撃にあって沈んでしまってな…私は運良く助かったが、海蛇の舌に拾われたあいつはそのまま水神に捧げられ…テンパードになってしまった」
    絞り出すように言葉を口にする一烏さんの拳は震えていた。
    「それ以来、私はリムサ・ロミンサを拠点にラノシアで流れの商人をするようになった。蛮神やテンパードの事について調べ、情報と物資を回しながらあいつの監視をし、危機が迫るようなら障害を排除した。
    メ・ルトゥ殿、貴方の事は知っている。暁の血盟の実力者であると。あいつもそれなりには戦えるが、貴方には敵わないだろう。潜入調査とはいえ、万が一にも1対1で鉢合わさせる訳にはいかなかった。海賊たちを焚き付け、鷹彦を隠し、貴方達にはそのまま帰ってもらいたかったからだ。それが貴方達を襲った理由だ。
    ただ、今回は貴方が実力者という事もあり、随分と乱暴に進めてしまってな…鷹彦から漏れたんだろう。私に報復するために海賊の攻勢を許してしまい…あとは貴方達が見た通りだ」
    一烏さんはそこで言葉を切った。

    暫しの沈黙の後、ルトゥが口を開いた。
    「知っているかもしれんが、一度テンパードになってしまった以上、もとの彼にはもう戻らない。彼を救うには…残念ながら殺すしかない」
    「知っている。ただ私はそれでもあいつに生きていて欲しい」
    「これは個人的な質問になるが理由を聞かせてもらえないか?なぜあんたはそこまで彼に固執するんだ?」
    「家族を…血の繋がりは無くとも、たった一人の家族を守るのに…理由がいるのか?」
    「…」
    ルトゥは少しだけ寂しそうな顔をした。
    「そうか…理由はわかった。だが身勝手な言い分じゃないか?弟は殺させないし、降りかかる火の粉は許さない。弟の為なら誰でも殺し、幾らでも情報操作をするように聞こえるぞ」
    「正義の問答をするつもりはない。それに私も死ぬまでこのような事をするつもりも無い。ただテンパードになっただけで殺さないといけないという事は認めない。
    あいつは魂が濁っているだけだ。それを正してやれさえすればいい。だがそれでもどうしても救えないというのなら、私のこの手で殺すだけだ。それまでは…テンパードであったとしてもあいつは私のたった一人の家族だ」
    「全を犠牲にしてでも個を優先するか。一烏さん、あんたのやってる事は蛮神問題を悪化させるリスクが高い。見過ごす事はできない」
    「ならば私を殺すか?」
    一烏さんの視線が鋭くなる。
    「一烏さん、落ち着いてくれ。あんたを殺す必要はないし、俺個人としてはあんたが弟さんにこだわる理由を無下にもしたくない。そこで取引だ。理想を言えば弟さんのテンパードが治り海蛇の舌から離れれば、あんたが蛮神問題をややこしくする事はなくなる。そうだろ?」
    一烏さんは黙ってルトゥの話を聞いている。
    「俺は魂の濁りというのはよくわからないが、あんたの考える治療の手立てなんだろ?それはすぐできるものなのか?」
    「いや…理論はできているが、触媒も検証もなにもかもが足りない…」
    「そうか、では取引としては、あんたは弟さんへの介入を一時中断し、そのテンパード治療法の確立に尽力する。俺は代わりに弟さんを殺さないように暁に働きかける。任務がある場合は弟さんは殺さないようにする。ついでに俺たちはあんたの素性については秘密を守ると約束しよう」
    「…」
    一烏さんは暫く黙って考え込んでしまったようだ。
    「勿論あんたにはこの取引を断る権利がある。そもそもあんたも俺も確実に結果が出る取引ではないからな」
    「いや…それで構わない。その取引、応じよう」
    一烏さんは真っ直ぐにルトゥを見上げた。
    「そうか、では取引成立だな」
    ルトゥにも一烏さんにも少し笑顔が見えた。

    「ぷはぁー!息が詰まったぁ」
    お硬い交渉に口を挟めなかったオレはやっと一息つけた。
    「情けないな、ジョウ。これくらい我慢しろ」
    呆れた顔でルトゥがオレを小突いてくる。
    「だってさー…一烏の兄さん殺気立ってたんだもん。オレヒヤヒヤしちゃってたよ」
    「ははっ、その時は殺すことも考えていたからな」
    ニコリともせずに言ってくるが、どこまで本気なのだろうか。
    「いや、しかしこれは礼を言わなければならないな。ありがとう。怪我の手当だけじゃない。貴方にとっては手間だろうに最大限譲歩した取引を提示してくれた事。感謝している。」
    そう言って一烏さんは頭を深く下げた。
    「よしてくれ。大切なのはこれからだ。お互いがやることをやり、弟さんが無事に戻ってくる事を願っている」
    「そうだな。最善を尽くそう」
    「あ、一烏さんの荷物返すぞ」
    そう言ってオレは預かっていた荷物と武器を一烏さんに返す。
    「ありがとう。あー…隠し武器は全部バレていたか、私もまだまだだな」
    「勘弁してくれ。交渉のテーブルにナイフなんて突きつけられた日にゃお話にならんぞ」
    ルトゥが呆れた声をあげる。
    「あと、これ!」
    オレはギルの入った袋を一烏さんに渡す。
    「これは…あぁ代金なら不要だ。迷惑代として望みの品は受け取っておいてくれ」
    「あれは一烏の兄さんが勝手に押し付けたものだろ!勝手すぎるぞ!」
    返そうとしてくる一烏さんの手を押し留め、無理やり受け取らせる。
    「まいったな…では代金は受け取ろう。その代わりに世話になった貴方達にこれをサービスでお付けしよう」
    そう言って一烏さんは荷物袋からオレに見慣れた遮光瓶を渡してきた。
    「うっ…」
    ルトゥが明らかに嫌そうな声をあげたそれはこの前眺めていた精力剤、もとい活力剤だった。
    「あ、本当に持ってきてたんだ」
    「当たり前だ。本当は1万ギルくらいで売りつけて利益を伸ばそうとしてたんだがな。気にせず持っていってくれ」
    「ありがとう!」
    「また欲しくなったらジョウくんもお金を落としに来てくれ。次の分は有料だがな。メ・ルトゥ殿も入用の物があれば、大抵の物や情報は仕入れてくる」
    「まぁあればな。あと、ルトゥでいい」
    いつも以上に不機嫌な声でルトゥは返す。
    「後これを渡しておく」
    そう言って一烏さんはオレとルトゥにコンパスを握らせた。2本の針はぐるぐると回りどこも指していない。
    「私が店を開いている時は針が止まる。1本が方向で、もう1本が距離を示す。ラノシアでしか店は開いていないから、面倒をかけるが用事がある時はそれを目印に探してくれ」
    「わかった」
    「ではいつまでも世話になるわけにはいかないからな。私はこれで失礼する」
    少しふらつきながらも荷物をまとめた一烏さんはそのまま部屋を出ていった。

    「いやー色々あったけど、コレで刀も直りそうだし。ついでにイイ物も貰っちゃったしな。あー楽しみだなールトゥ」
    「コレは俺が預かっておく」
    そう言ってルトゥはサッと活力剤を奪ってしまった。
    「えっルトゥ、もしかして…ハウスに帰る前に…シテくれるのか?」
    「馬鹿野郎!俺はまだ報告書を書き直さなきゃいけないし、お前もまだ刀は直ってないだろ!ハウスに帰るまでが任務だ!」
    「えー…もう終わったようなモンじゃん…」
    オレが口を尖らせて文句を言っても、ルトゥは聞く耳持たないといった様子でそのまま活力剤を片付けてしまった。
    仕方がないのでハウスに戻ったら取り返してやると心に誓い、オレは寝床についた。
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    「いやはや本当に仕入れてくる方がいるとは…世界は広いですねぇ。あっ勿論見つかるわけないとは思っていなかったですよ。はは…」
    開口一番、思ったことが漏れてしまった鍛冶師のギルドマスターに刀と精神感応型物質と手数料を渡した。
    「はい…これなら大丈夫ですね。では修理に取り掛かりますので、少々お待ち下さい」
    そう言ってギルドマスターは奥の工房にいそいそと入っていった。

    何人かの鍛冶師がカンカンと金属を打つ音を聞きながら、オレはこの数日の事を思い出す。サハギン族の拠点調査。旅烏こと一烏さんとテンパードにされてしまった弟さんとの邂逅。活力剤…精力剤…ルトゥと…
    「いたっ!」
    ルトゥがいきなりバチンと頭を叩いてくる。
    「何するんだよ!」
    「ジョウ、お前いかがわしい事を考えていただろ」
    「っ」
    「お前は顔に全部出てるんだよ。せめて公共の場所では止めてくれ…」
    ルトゥが呆れ顔で言ってくる。出てない…つもりなんだけどなぁ

    「お待たせしました」
    そうこうしている内にギルドマスターが修復した刀を携え戻ってきた。
    「おぉ、待ってました!」
    オレは刀を受け取り、鞘から抜いて確認する。
    見事に修理された刀はスラリと流れるように鞘から抜け、サビも刃こぼれも無い澄んだ色の刀身には俺の顔が映っている。
    「おーバッチリ修理されてる!ありがとうございます。本当に助かりました」
    「いやはや、本当に見事な業物ですね。修復こそ大変でしたが、私共も大変勉強になりました。ありがとうございます」
    ギルドマスターに見送られ、鍛冶師ギルドを後にする。
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    鍛冶師ギルドを去ったオレ達はハウスへの帰路についていた。
    「よかったな、ジョウ」
    自分の事のように喜んでくれているルトゥを見て、オレもまた嬉しくなってきた。
    「あ、そうだルトゥ、精力剤返せ!」
    オレは大切な物を思い出し、ルトゥを問い詰める。
    「ん、そんな物あったか?」
    すっとぼけるルトゥの荷物袋をひったくり、オレはハウスに急いで駆け込んでいった。
    冒険の日々は続いていく。
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