「なに、私達と模擬戦をして欲しい?」
一烏が突然の頼みに顔を上げる。
「あぁ、最近複数人ともやり合う依頼が多くなってきてな。多少であれば問題なく立ち回れるんだが、
数が多かったり手強いやつが混ざっていた時のことを考えるとな…一烏、頼めるか?」
俺は腕を組ながら答える。
「えールトゥさん、俺より強いんだから大丈夫でしょ」
横にいる鷹彦が面倒くさそうに口を挟んでくる。
「そう言ってくれるのはありがたいが、広いダンジョンや外でのモブを始めとした魔物相手の立ち回りなら兎も角、
障害物が多い街中での戦いとなると勝手が違う。俺の獲物が槍というのもあるが、流石に同じようには戦えん」
肩をすくめながら答えると、鷹彦は納得したような表情を浮かべる。
「なるほど、市街戦か…」
一烏は顎に手を当て、思案するように宙を眺める。
「構わない。ルトゥには色々と世話になっているからな。その程度ならお安い御用だ」
「えー兄さん本気?俺面倒くさいんだけどなぁ」
鷹彦が心底嫌そうな声を出す。
「なんだ、お前は戦いたくないのか?」
「いやそういう訳じゃないんですけど…」
「鷹彦、最近はジョウくんの指導もあり多少は前より動けるようになってはいるが、
この前酔っ払って天井裏から転げ落ちたことを忘れたとは言わせんぞ
そのような醜態を晒すとはやはりお前はまだまだ気が緩んでいる」
一烏が淡々と鷹彦を詰めている。
「えっ!?!?そそそ、そんなコト…ありましたっけ…?兄さんの記憶違いじゃない?…ハハ…」
鷹彦はしどろもどろになって答えるが、完全に目が泳いでいる。クロだ。
「その腑抜けた根性も叩き直さんといかんようだな」
こうして俺達は模擬戦をすることになったのだった。
「さて、今回は見通しが悪く障害物のある狭い路地裏での戦闘を想定した模擬戦だ」
いつもと違う盗賊スタイルの一烏と鷹彦を前に俺は槍を構える。
鷹彦が前衛、一烏が後衛に位置している。
「まぁ最初はスグに終わるかもしれないが…」
一烏のつぶやきに俺は少しムッとする。
「言っておくが、模擬戦だからって手を抜いたら承知しないぞ」
言葉と同時に俺は地面を蹴る。
「はい、1本♡」
鷹彦がニヤニヤしながら俺の首に木刀を当てている。
「鷹彦、お前はまた調子に乗って…」
俺は肩で息をしながら一烏の呆れた声を聞く。
「くそっ…」
数分後、俺は呆気なく地面に膝を付いていた。
「まあまあ、そう落ち込まなくて大丈夫だよ」
「そうだな、鷹彦の攻撃を受けながらも私の攻撃も何度か捌いていたし、寧ろその長物で大したものだぞ
本来であれば始まった時には膝を付いてもらっている所だったんだがな」
好き放題言う2人の声を聞きながら立ち上がり、無言で再び槍を構える。
「もう!兄さんあんまりルトゥさんのやる気煽っちゃダメじゃない」
「む?私は別に構わないんだが…」
その後数十分の間、俺は2人にボコボコにされてしまった。
「ルトゥさんは動きが直線的過ぎるんだよ。
動き自体はかなり早いからチンピラとか格下相手ならそれで十分押せるんだけど、
フェイントとか絡めてもっと自分の間合いに誘い込むようにしないと」
「それは私も思っていた」
一烏も同意するように口を開く。
「なるほどな…」
俺は考え込む。
言われてみると、俺の立ち回りは力押しな部分がある。
相手の攻撃をいなす技術もある程度身に着けているが、あくまで最低限だ。
確かにこれでは対人戦で苦戦することが多いというのも分かる。
「よし、わかった。もう一回頼む!」
そう言うと、俺は槍を構えた。
「ぜぇ…ぜぇ…もう疲れちゃったよ」
「ふぅ…まったく…ルトゥの飲み込みの速さには驚かされるな」
俺達3人は揃って地面に座り込んでいた。
あれから数時間、俺はひたすら2人と戦い続けていた。
手加減はされているようだが、アドバイスを貰ってからは
ある程度渡り合えるくらいにはなりどちらかをノックダウンすることもあった。
「そういえば、お前らとこんな風に戦うなんて初めてかもな」
荒くなった呼吸を整えながら、俺はふと口にした。
「え?そりゃそうでしょ。寧ろ俺は気が乗らないんだから」
「だから何故お前はそこまで…」
「俺たちはね。”戦士”のルトゥさんとは違って影に生きる側だからね。
戦いの技術なんて必要最低限あれば十分。本来正面からの戦いに持ち込まれた時点で恥ずべき事なの。
それに手の内はそんなに見せるべきじゃないからね。昨日の友は今日の敵ってね」
「おいおい…俺は別にお前たちとは…」
「ストップ!!俺だって好き好んで誰とだってやり合うなんてしないよ。
でもお互いの仕事の関係で敵対し合う事だってあるかもしれないんだから」
鷹彦は俺の言葉を遮り続ける。
「そういうことだ。もちろんルトゥ貴方には恩もあるし、
そういった事にならないようにはする。だがそういった事もあり得るというだけの話さ」
一烏は苦笑する。
「兄さん…こっちに来てから随分と甘くなったんじゃない?
昔は血も涙もない影狼なんて呼ばれてたのにさ。俺の事もあんまりやいやい言えないよ」
「むぅ…」
一烏は痛いところを突かれたとばかりに言葉を濁してしまう。
「まぁいいけどさ」
鷹彦は溜息をつくと立ち上がった。
「さて、じゃあそろそろお開きにしようよ。周りも暗くなってきたし」
「そうだな…それではな、ルトゥ。また何かあった時は声をかけてくれ」
「おう、俺の方こそ礼を言う。またよろしく頼む」
そう言うと俺達は別れを告げその場を後にした。