「おぅてめぇか」
音を立てた訳ではないが、入るなり虎雪は声をかけてくる。
振り向きもしていないが、姿を確認する前から声をかけてくるのは
彼なりの信頼の証なのだろうか。
「へぇ、珍しいモン持ってきたじゃねぇか」
ふと私が手に持っている物に気づき、
手に持っていた本を机に置き虎雪はこちらに身体を向ける。
「あぁ低地ドラヴァニアで見つけてな」
そう言いながら、私は賢具とジョブクリスタルを見せる。
「ふぅん…賢具の方壊れてんじゃねぇのか?」
「やはりそうか。試しに使ってみようと思ったんだが、
何の反応も無かったからもしかしてとは思っていたが」
「貸してみろ」
賢具を受け取った虎雪は作業用の工具でササッと修理に取りかかる。
「ふん…まぁこんなもんだろ」
そう言いながら、賢具にエーテルを通し、自身の周囲をヒュンヒュン飛ばす。
「流石だな、虎雪殿は。修理もそうだが、賢具の扱いにも長けていたのか」
「別に大したことじゃねえよ。いちいち感心してんじゃねえ」
いつもの仏頂面で賢具を手に戻し、それをそのまま私に手渡す。
「どうするつもりなんだ?てめぇで使うのか?」
「あぁ、鷹彦の治療に使えないかと思ってな。
幸いクリスタルもあるし、暫くは訓練に勤しもうかと」
「あいつのか。まぁ根詰めすぎて倒れるなよ」
虎雪は興味が無くなったとばかりに、また机の本に目を通し始める。
「そうだな。まぁ頼れる先生も見つかったから問題は無いな」
そう言いながら虎雪に微笑みかける。
「てめぇはもう自分でわかるだろう…」
面倒くさそうに虎雪は私が手に持っているジョブクリスタルの輝きに視線を落とす。
「実践となるとまた違うだろう。そもそも私はこちらの魔術の基礎知識は無いからな」
「ふん…まぁ気が向いたら相手してやるよ」
虎雪はそう言うと背を向け完全に黙ってしまった。