曇天 どうして俺はこんなところにいるのだろう。
たまに、そんな疑問が頭をよぎる。それは場所や時間、あるいは状況とはなんの関係もなく、ふつと浮かんでは、じっとりとそこに居座り続ける。
今だってそうだ。
斧を振るい、こちらに遅いくるモンスターの首を断つ。地面にモンスターの血が広がる。嫌な匂いが鼻をつく。そんな戦いの最中でも、俺の頭は意味のない疑問を持て余している。
「ウォン!」
エスティニアンが俺の名を叫ぶ。獣の鋭い爪がこちらに振り下ろされる音が続く。
振り向きざまに斧を薙ぎ、獣の腹を裂く。そうして爪は俺の肉を捉えず、獣はばたりと地面に身を横たえた。
「これで全部か」
イゼルのため息。その呟きに、短く肯定を返すエスティニアンの声。そこでようやく、俺は敵を掃討し終えたことに気付く。
これではいけない。戦いに集中していない自覚もある。だというのに、気持ちの切り替えなんて出来ずにいる。
(まあ、……俺は昔からそうだから)
心の中で呟く、誰に向けた言い訳かもわからない言葉に、自分で腹を立てている。俺の腹の中を覗ける奴がいたら、ひどく滑稽だと笑うだろう。
だが、誰も俺の腹を覗けはしない。そんな当然のことが、ひどくありがたかった。
「さ、戻ろうぜ。グナース達が待ってる」
仲間を振り返り、やれやれと肩を竦めて笑ってみせる俺の、中身のからっぽさなんて、誰もわからない。
何が光の戦士だ。
何が超える力だ。
こんなものは明らかに俺の器に収まらない力だ。たしかに生きるための力は求めた。でも、誰がここまで力をよこせと言った。
——こんな考えは、俺の駄々でしかない。
そんなことは俺が一番わかっている。それでも、こんな世界でどうこうできるほどの力なんて、俺にはすぎた力だ。誰かにやってしまいたかった。
ハイデリンは何を考えている。
仮にこの力を得られるのが誰でもいいなら、あの聡明な坊ちゃんにでもこんな力をくれてやればよかったのに。
あいつは俺の何倍もうまくやれる。成長できる。出来ているんだ。
こんな、故郷を飛び出した頃から何一つ変われない俺なんかとは違うのに。