テティベアと赤いピアスの幸福と 何処までも広がる晴天が広がる中で、朽森紫苑は恋人の一ノ瀬四季とデートをする約束をしていた。
切っ掛けは四季と紫苑の休みが重なり、何処かに出掛けたいと四季が言い出した事が始まりだった。どうせならデートがしたいと言い出した四季に紫苑も稀には良いだろうと了承し、四季の機嫌は一気に最高潮になり満面の笑顔で計画を立て出した。未だ早いと紫苑は笑うも、楽しげな四季の姿を見て紫苑も楽しむ気持ちになり、一緒に雑誌等を眺める。
雑誌から顔を上げ、嬉しそうに紫苑の腕に抱きつく四季に、豊満な胸が押し付けられる様に腕に抱きつかれ、紫苑は必死に抑える欲望を表に出す事無く、何時もの如く煙草を吸い気を紛らわしていた。更に四季は待ち合わせがしてみたいと言い出し稀には四季の好きにする事も稀には良いだろうと思いに従い、紫苑は全ての提案を呑んだのだ。だが紫苑が何だかんだ四季の行動を全て許してしまうのは本人は余り自覚をしていない事はここだけの話だ。
桃との平和交渉も済み数年が経つ平和である世界で、紫苑は戦闘部隊隊長である為時折桃との交渉等に駆り出されたり、軽い紛紜等の暇で平和な日々に、四季と過ごせる日々に幸せを感じていた。
四季がデートで着る服を紫苑に秘密で選んでいる事を最初から知りえながら、紫苑はその様に浮かれる四季を見て、自身も浮足立っている事を知った。胸中に湧き上がる温かい思いに、過去の自分が見たら絶対に驚き否定するだろう事を思い浮かべ幸せを感じていく。その想いは全て四季に出会わなければ感じえなかった事だと、紫苑は感嘆な思いを胸の中で吐露した。
四季が愛しい、四季と共に歩む人生しか考えられない。紫苑の胸の中で叫ぶ思いは日々増していき、四季と同棲する事になって更に増えるその思考に歓喜し潰されそうになる中でら不安になる思いが減る事に安心感を覚えていた。然し四季への気持ちは変わらず、愛を注ぎ続けている事に、逃げられない様にしなくてはと日々策略を巡らせる紫苑を四季は知る事は無い。
四季とデートをする当日になり、紫苑は何時の服とは違う洒落た格好で待ち合わせ場所迄歩んで行った。
行き交う人々に、鬼も安心して暮らせる社会を手に入れる事が出来た事に鬼関の隊員達がやり遂げた事と、何より四季が先陣切って行動し身を焦がした事に胸に込み上げるものを感じつつ、待ち合わせの場所が見えて来た所で男に腕を引かれる女が居る事に気づいた。今は四季以外の女には興味が無い紫苑は、昔なら自身も女を誘っていたが強引な誘い方はした事は無いと、視線を女の方に向けた瞬間驚きに開く目を次には鋭く細める。
歩む足を早めつつ、男達の元へと付く前にスピードを落し歩幅を広め威厳が出る様に余裕を持って歩いた。その歩みに、尚も男共は気づく事無く嫌がる四季の手を引いた。
「なーなー遊ぼうぜお嬢ちゃん」
「嫌だってんだろ!!離せよっ!!」
「離せよだって〜可愛いねぇ」
耳障りな男で大声を上げる男達の肩に手を乗せ握る様に力を入れた紫苑は、其の儘強く掴む肩で鋭い視線に威圧を乗せ男達に冷えた笑みを浮かべる。
「お兄さん〜その子俺の彼女なんだけど退いてくれるかな〜?」
「………は?ギャハハッ!!こんな弱い男より俺らと遊ばない〜」
「こんなに弱っちい男なんてほっといて、俺らの方が良いよな嬢ちゃん〜〜〜!!!」
汚い大声を上げ笑う男達に、四季が反論しようとするが紫苑が口元に指を立てる仕草をした事で四季は苦渋の表情で唇を結んだ。先程から黙る一人の男が紫苑の正体に気づいた様で、必死に男達を止める行動に出るが男達は止まる様子が無い。場の空気が冷えている事に気づく事が無い男達が紫苑を煽り立てる。
「お兄ちゃん〜弱い奴はお家にこもりましょうね〜」
「グラサンしてるからってイキってんじゃねぇぞ!!」
「そうか…穏便に済まそうとしたんだけどな……早くそこ退けって言ってんだよ。カス共が」
紫苑がサングラスの奥から目を見開き、浮き上がる血管に男達は何処かで見た姿に気付いた様子で呟いた。
「………なぁコイツ鬼の……」
「昔のホームページで見た顔だ…確か杉並の隊長の……」
「…………朽森紫苑…戦争で桃を大量虐殺したっていう…」
「へぇ〜俺も有名なのね〜……なら分かってんだよなぁ?クソガキはガキらしく帰ってママのおっぱいでも吸ってな」
今にも殺されそうな程の殺気で凄む紫苑に、怯えた様に覚えてろと、三下らしく走り去る男達に、四季が紫苑の腕に腕を勢い良く腕を絡めると慌てふためき叫ぶ様に呟く。
「大丈夫だったか!紫苑さん!!」
「この通り大丈夫だよ〜見てたでしょ」
「危ない事されなくて良かったけど……」
「それより四季が大切じゃん………腕痛くないの?」
「うん!大丈夫!桃にやられた時に比べればこんなの屁でもねぇよ!」
桃との戦闘と比べる事が余程の間違いである事に気づかない四季は、紫苑の腕を搦め楽しげに笑みを浮かべ歩き出す。
「それよりデートしようぜ!!」
四季の幸せそうで楽しみにしていた事を語る顔に、紫苑は四季の絡める腕を歩き易い様に軽く動かすと、四季の歩幅に合わせゆっくりと歩き出す。
「はいはい……紫苑さんも楽しみにしてましたよっと」
「本当か〜?」
「本当よ〜」
軽口を叩き合う掛合は何時もの事で、歩き出す四季が逸れぬ様に見遣りながら、四季が指差し行きたい場所へと付き合って行く。
カジュアルな若者向けの服屋に入り、四季が服を合わせる中、紫苑も四季に似合いそうな服を見繕うと彼女に見せ問い掛ける。
「これなんかどう」
「ん〜なんか違う」
「じゃあこっちは?」
「これは好き!!良いなこれ!!」
一着見せ駄目なら二択を見せ、四季が気に入る方が紫苑が寄り着せたい方になる様に、誘導する。あっさりと引っ掛かってくれる四季に内心単純だと可愛く思う。動かし易い恋人に嬉しく時に心配になりながらも、買い物が終わり殆ど自宅へ郵送し一部を入れた袋を紫苑が持ちまた街へ繰り出して行った。
四季が指さした先は販売車のクレープ店に紫苑は本来この様な衛生的では無い物は好きで無いが、四季が好きな物は全て付き合う気でいる事を決めている為に、四季の悩むクレープを見て紫苑が勝手に注文をする。
「う〜ん…バナナチョコと苺チョコアイスデラックス…」
「すみません。バナナチョコと苺チョコアイスDXとアイスコーヒー」
「……え?紫苑さん…?」
「畏まりました〜!注文を繰り返しますね!」
あれよあれよという間に四季の手に両手に収まるクレープに、アイスコーヒーを片手に持つ紫苑を見て四季は呟く。
「紫苑さんこれ………」
「俺と分ければ良いでしょう。あーなんだ…シェアってこと…………言わせんなよ」
「紫苑さん大好き!!」
器用に腕に抱きつこうとする四季に、紫苑は目を見開き慌て叫ぶ。
「ちょっと危ないだろ」
「紫苑さんバナナの方な!!」
紫苑に渡されるクレープに視線を逸らし口を附け、甘さが広がる咥内に顔を顰めるが四季の楽しげな顔を思い出し瞬時に整える。
四季は紫苑が本来甘味が得意では無い事を知り悩んでいたが、紫苑が全てを買い気付いた時には四季の手元に届いたクレープに、紫苑の言葉を聞き湧き上がる歓喜に胸が温かくなる。現在もクレープを食べる紫苑は甘みに時々目を顰める中で、四季の食べる分だけを残しコーヒーを少しずつ口に付け飲みながら歩き、四季が食べ終わった所で紫苑の手からバナナチョコを貰う。幸せそうに食べる四季を見詰める紫苑の目は柔らかく、愛しい者を見る様に細められている事に四季は嬉しくなる。
「……美味いか〜?」
「美味いぜ!!」
「そ、良かった」
幸せそうに目を細め笑う紫苑を真正面から見た四季は、顔を赤くして視線を反らす。それを見た紫苑が楽しげに笑い、四季の食べる行為を邪魔しない範囲で頭を撫でる。紫苑に未だ子供扱いされるが、四季はそれが嫌ではない事に嬉しく感じるのだ。
クレープを食べ終わり、路肩に丁度ある塵籠に食べ終わったゴミをを入れ歩き出す。
暫く歩き昼時になり、何処かに入ろうと目を向け、四季が気になるカフェを見つけ中を覗き込み人も少なげである事を確かめて中に入る。
洒落た落ち着いた雰囲気の純喫茶に、紫苑が好みそうな店だと四季は思い、辺りを見回し今は珍しい煙草が吸える店に、喫煙席に通され席に座る。珍しげに店内を見回す四季に、紫苑は安堵する様にフと鼻で笑うと、楽しそうにメニューに視線を向ける四季を見て、軽く俯き笑みを浮かべ煙草を片手で持ち息を深く吐く。宙に燻り吐き出される煙を見つめ煙草を再び咥え、紫苑もメニュー表を開き目星を付ける。
四季が視線を向け、悩む様子に紫苑は静かに眺めながら、悩む姿も愛しく可愛い姿に内心騒ぐ胸を抑え四季に問うた。
「何に悩んでんの」
「デザートのパフェに悩んでんだけど…チョコにしようか苺にしようか…」
「苺はさっき食って無かったけ」
「それとこれとは違うの!!」
頭を抱え悩む四季に女の子の食事は悩む物だと、経験則から察し待つと、少しして決断する四季が元気良く頷いた。
「決めたチョコにする!!」
「お〜じゃあ頼んじゃうぜ」
静かにグラスを磨いているマスターを呼び、音も無く歩んで来る彼に注文を済ませる。
今日の事を楽しげに話す四季を見て、紫苑は笑みを浮かべ時折合間を見て相槌を打つ。四季の幸せそうな顔を見てナンパ騒ぎがあったが、そんな事等気にしない様に全力でデートを楽しむ四季が眩しく、この様な道を開き光を突き進む四季に、闇の中を進む紫苑には空を照らす太陽の様に何処か遠くにいる様な事を四季に思えた。然し太陽に手を伸ばし焼き付けながらも手に入れた紫苑は、彼女を愛する者が多い中で一人彼女に選ばれた存在なのだ。今現在紫苑と別れた隙を狙い、彼女をかすめ取ろうとする存在はいるが紫苑に別れる気等無い上に、四季が離れようとしても手放さ無い事は伺える。この愛しく可愛い四季を手放せる者が居たら出会って見たい。仮に居るなら其奴は人間では無い悪魔の様な人間だろうと、鬼である自身が思うくらいには、この愛する四季を手放す事は紫苑の中には存在し得ない決定事項なのである。
そんな事を考えていたら料理が届き目の前に並べられいく。美味そうに香り立つ料理に、紫苑はカラトリーを手に取った。四季は目玉焼きハンバーグと食後のパフェに葡萄ジュースを頼み、紫苑はナポリタンと珈琲を手に食事を進めて行く。美味そうに食べる四季を見つめ、当たりの店に舌鼓を打ち全て食べ切る頃には四季も食べ終わり、食後のパフェに手を付けていた。
紫苑は四季がデザートを食べる姿を幸福そうに笑んで見つめ、四季はそれに気づき問い掛ける。
「なんか紫苑さん楽しそう」
「そう見える?紫苑さんも楽しいよ〜」
「なら誘って良かった!なぁ紫苑さんも食べようぜ!!」
スプーンでクリームを掬い紫苑の前に差し出す四季の行為は所謂恋人同士がやる行為で、紫苑の性格的には認める事は出来ずに葛藤していた。
「ほら…アーン」
「……あの紫苑さんそんなキャラじゃないから………」
「良いから!クリーム溶けるだろ!!」
これ以上は四季が無理矢理口に入れて来そうな行動に、大人しく口を開けスプーンを咥える。甘みが広がる口の中に甘さ控えめなクリームに、紫苑でも食べられる味にマスターの拘りを感じ目の前の嬉しそうな四季に笑みを浮かべた。
「美味しいだろ?紫苑さんでも食べられると思ったんだ!!」
「意外と悪くない味だと思うよ」
「素直じゃないな〜」
ケタケタと笑う四季に、紫苑はバツの悪さを感じ視線を逸らすと、外に見える老夫婦が樹木の様に穏やかに会話する様子に四季が呟いた。
「………俺らもああなれるかな」
「なれるさ」
煙草を指で摘み銜えた紫苑が何気なく呟き、四季は何故かかとても幸せな気分になり、今日一番の笑みを浮かべたのだ。
時刻も夕方、最後の店に入りアクセサリーも扱うファンシーな雑貨屋に、本人は周りには話さないが、可愛い物が好きな四季が好む様相の店に紫苑は適当に物を物色する。
ふと四季が見詰めている事に気づき、その先には紫のサングラスを付けた熊のぬいぐるみがあった。四季は暫く見つめ視線を逸らす。紫苑は四季に知られない内にぬいぐるみを手に取り、ラッピングをして会計を済ませたのだった。
四季が気に入る物があり買い物を済ませ、店を出る頃には薄暗くなり夜も顔を出しそうになっている頃だった。四季は背伸びをすると明るい声で呟いた。
「う〜ん楽しかった!」
「それは良かったね〜」
「紫苑さんもありがとな〜俺の我儘に付き合ってくれて悪ぃな」
「悪いなんて思ってないよ。紫苑さんも楽しかったし〜付き合ったかいがありました」
「そ、紫苑さんが持ってくれなきゃこんなに買い物出来なかったし今夜何食べたい?」
「…………砂肝」
「じゃあ焼鳥に砂肝に野菜炒めと日本酒とビール飲むか!」
「やっと酒飲めるの嬉しいな〜」
「俺も嬉しいぜ〜!一緒に飲もうな!」
紫苑と同棲する様になり、酒の味を覚えた四季は量は多く飲めないが紫苑に合わせ呑み、晩酌に合う料理を作る様になった。紫苑好みの味に等に四季の料理に慣らされた味覚はさ、他の料理が余り美味く感じ無い程に四季にベタ惚れである事を嬉しく思う。
自宅のマンションに帰り、エプロンを付けた四季が料理を始めた。
トントンと子気味の良い包丁の音を聞き、本を読むフリをして四季を眺めていると、鼻歌を歌う四季に紫苑は愛しく思う。
暫くし料理が出来た所で紫苑が買い置きする地酒と、クラフトビールが出されてグラスを持ち上げる四季に紫苑がグラスを合わせた。カチンと良い音がなる。
「乾杯!」
音を鳴らせグラスを一気飲みし、四季が笑い揶揄う姿は何時もの光景であり、四季が揶揄う声に紫苑が軽口を返し料理に手をつけ出す。信頼の深さがあるからこそ為せる技だ。
「おっさんじゃん」
「良いんだよおっさんなんだから〜」
四季の料理を次々口に入れる紫苑を見つめ、四季は内心好きだなと愛しく思う。紫苑を幸せそうに見詰める四季に気付くも好きにさせる紫苑に、四季は口に運ぶ料理が何時もの様に味が良くできたと感じた。自身の料理の腕が分からずにいる四季だが、紫苑が美味しそうに食べる姿を見ると彼の為に作る事であるから、他に振る舞う予定は無い為に、これでも良いかと思う気持ちに何時も流されるのだ。
片付けを終えた四季は恥ずかしげに視線を斜め下に逸し、紫苑の前へと来る。紫苑はその様子に全てを察すると四季が言葉を選ぶのを静かに待った。
「……その、紫苑さんこれあげる!」
紫苑の手には綺麗にラッピングされた、小さな袋が握られており紫苑は中身を開けると小さくシンプルな赤いピアスに目を開く。
「いつも付けてるから…あげようとずっと思っていて………」
「はっお前これを渡す意味分かってんのか?」
「な!綺麗な赤い石だからじゃん!!似合うかなって思ったんだよ!!」
四季の理解していない無自覚な独占欲に、普段紫苑が恋人がいると豪語するも女に擦り寄られる姿を、杉並の戦闘部隊に来る度に見ている四季は、普段杉並医療部隊にいる為離れている事で、もどかしい思いをしているのだと紫苑は察た。然し紫苑も医療部隊や他の部隊で四季に下心がある輩が多い事に胸を焼かせている。紫苑はピアスを外すと四季が渡した物を付けた。
「え、良いの!?」
「俺が気に入ったからいいんだよ」
「……その…ありがとう紫苑さん!」
幸せそうに笑う四季に、紫苑も隠していた袋をクッションの下から取り出し四季の胸へと押し付ける。
「あげる」
「え!おっ!欲しかったぬいぐるみだ!!」
歓喜に飛び跳ねる四季に、紫苑は気恥しさから煙草を吸う事に集中し、喜ぶ四季がぬいぐるみを抱きしめ満面の笑みで笑う様子を見て目を開く。
「このぬいぐるみ紫苑さんに似てて欲しかったんだ!」
「紫苑さんだと思って可愛がってよ〜」
「ありがとう紫苑さん!!」
本当は自分の分身の様なぬいぐるみ等、紫苑は与えたくは無いのだが、四季の喜ぶ姿を見てその様な思いは消え、与えて良かったと占める胸に現金だなと心地良さを感じたのだった。
四季が熊の手を動かしながら、口元をぬいぐるみで隠し紫苑を見つめ小さく呟く。
「紫苑さん…今日シてもいいから……」
「…………は」
「風呂出たら寝室で待ってる!!」
そう叫びぬいぐるみを置いて風呂へと走る四季に、紫苑は深く息を吸うと吐き出し崩れ行く理性を繋ぎ合わせた。必死に揺れちぎれそうになる理性の糸を何とか繋ぎ合わせ、不意打ちに誘われた行為に備え付け喰わぬは損だの男の秩序を持ち自身に言い聞かせる。元は紫苑から誘おうとしていたものを四季から誘われ、嬉しくも面子の潰れた行為に内心笑いクソガキと呟いた。
顔や手に浮かぶ複数の血管に珍しく真顔を浮かべ深く息を吐く紫苑が、低い声をだす。
「あのクソガキ…………覚えてろよ。大人を揶揄うとどうなるか分からせてやる」
ふーと煙草の息を深く吐いた紫苑は、之から待ち受ける最大のデザートを前に、舌をペロリと舐め今か今かと食べるのを牙を向き腹の空かした肉食獣の様な笑みを浮かべ待つのだった。
─────AM2:36
四季を貪り尽くし、激しく交わる夜を終え、束の間の休憩を取る時間に、四季はベットにゴロゴロと横になりながらうつ伏せに背を反らし腕を立て顔に手をついた様子で、足を逆さに立てブラブラと揺らす。
「な〜俺といて幸せ?」
「………なんだいきなり」
「紫苑さんは俺といて幸せなのかな〜と思ってさ女の子選び放題じゃん。俺みたいな女らしくない奴といて楽しいのかな〜って」
「………幸せじゃなきゃずっと一緒に居ねぇだろ」
煙草を空に燻らせそう呟く紫苑に、四季は歓喜する胸に、ガバリと起き上がり抱きつくと紫苑の硬い胸板に擦寄る。
「えへへ俺も大好き」
「はいはい、俺も大好きだから危ないから離れようね〜」
「え〜ケチ」
そう呟くも離れない四季は更に強く抱きつき、柔い胸に緩まる紫苑の理性を崩していく。紫苑は灰皿に煙草を潰すと、四季を押し倒し鋭く見るめる。ブラックダイヤモンドの瞳が四季を捉え、紫苑を微笑み見返すレッドスピネルの瞳が真剣に見つめる。紫苑は悪戯げに笑みを浮かべ、四季が艶やかに笑い意地悪く問う。
「またシたくなっちゃった?」
「おじさん性欲強いからね」
「おじさんなんて歳じゃない癖に」
「もうおじさんだよ」
そう呟き紫苑の唇にキスをする紫苑を受け入れる。甘く蕩ける様な舌使いに四季がうっとりと見つめる姿に紫苑は思う。
四季に出会ってから一目惚れをし、最初は何でこんなガキをと思った紫苑だが、四季の在り方に触れ段々と溶かされる凍てついた胸の氷河に、四季の笑みに引かれ、人を惹きつける危うさに触れ、気づいたら四季を渇望していた。喉を掻き毟る様に乾いて増していくその思いに、四季を落とすのに躍起になり、四季が紫苑に惚れた事を受け入れたタイミングで紫苑は四季に告白をした。四季が泣きながら嬉しそうに返事をした事は今でも覚えており、一生忘れる事は無い刻まれた思い出の中の姿が紫苑の胸を刻みつける。
四季の生まれたての儘の姿を貪り尽し、胸の中で呟いた。
『もう一生離してやれないからな。こんな廃業(クズ)に出逢ったのが運の尽きだな』
果たして囚われたのは何方なのか、四季は紫苑の首に腕を回し妖艶な微笑みを浮かべた。