白華は怪物に狙われる夕陽が明るく照らす逢魔時に、廊下を走る音が辺りに響き渡る。荒く息を吐く必死な呼吸使い、汗が身体中から吹き出し逃げる事だけが頭に浮かび警報を鳴らす。敦は逃げていた。
探偵社の依頼が終わり帰り道を珍しく一人で歩いていた。何処に寄る事も思い付かずに、探偵社に依頼が完了した事を報告に行こうとした時、辺りは突然敵に囲まれたのだ。
「なんだ突然!何しに来たんだ」
敵が周りを囲み銃を向ける中で、異能で手足を虎に変化し構えると、カツコツと靴音が響き渡り波が割れる様に人が出て来る。
「やぁやぁ突然ごめんね、少年」
敦は目の前にいる探偵社の宿敵である首領を見て怒りを顕にする。突然街中で襲撃をした上に、一般人を巻き込む行為に怒りを感じながら睨み返す。
「何しに来た…首領自ら何の用だ」
鴎外は口角を上げると人好きのする顔で敦に取引を持ち掛ける。
「いやいや、君に良い条件があってね!三食昼寝付きで高時給の職場があるんだけど、どうかな?」
「そんなのに騙されるか!!」
敦は顔を歪め敵の首領が何を考えているか分からずに、攻撃を繰り出すと鴎外は笑みを浮かべた儘で目を瞑り呟き、そして目を開け言葉を放つ。
「仕方ない。交渉断絶だ」
瞬間、敦の腹の鳩尾部分に衝撃を受け息が止まり目の前が暗くなる。最後に鴎外の愉しそうな笑顔が敦に見えた気がした。
敦は目を覚まし横を向くと起きるとそこはベットの上だった。未だ覚醒する事無い意識に部屋は高級そうな家具が配置良く置いてある。古い洋館を思わせる家具の配置に、貴族が住みそうな部屋だった。
だが敵の本拠地に居る事を思い出し勢い良く起き上がる。
「起きたようだね」
「…………森、鴎外」
読んでいた本を閉じ緩慢に顔を上げると、相変わらずの笑みを携えた儘敦を見つめる。敦には何が面白いのか分からなく、無言が辺りを支配した。
「君が手に入って良かったよ」
「何が言いたい」
鴎外の言葉が理解出来ない敦は、相変わらずの警戒を携えた儘聞き返す。
「いや、別に私は君を一目見た時から欲しくてね。あの福沢の元に居るって聞いた時珍しくも激昂したよ」
鴎外が語る言葉が分からない。何故敦に拘るのかを、敦は無言で鴎外の話を聞いていた。
「宿敵の手にあるって知った時、福沢殿から奪う事を決意したんだ。欲しい物は必ず手に入れないと気が済まない質でね」
そこで言葉を切った鴎外は、突然口元を歪め、目を狂気に開くと愉しげに語り出す。
「だから君を手に入れるのに苦労したよ!ギルドの邪魔に、探偵社の妨害、上手くいかなくてね……やっと手に入った」
頬に手を当て敦を見つめる鴎外の目は歪み、敦の身体を恐怖が支配する。体が震え室内にいるのに寒気が起こり、呼吸が出来なくなった。
「君はこれから此処で暮らすんだ」
敵からの突然の死刑宣告に敦の頭は絶望が支配した。
それから敦は毎日何をされること無く鴎外の手から三食食べさせられ、夜は隣に眠り、服を用意された。贅沢な生活を送るが恐怖は消えること無く敦は逃げる隙を伺っている。
部屋に監視カメラを設置され逃げれば直ぐに捕まる事が目に見えており、外を通る部下の情報だけが頼りだった。
ある日の鴎外が仕事な為珍しく居ない夜、外を通る部下が突然の殲滅任務にアジトが手薄になっている事に、今しか無いと決意しする。
部下の足音が聞こえなくなり、繋がれていた鎖を虎化をし壊すと急いで廊下を走りエレベーターに乗り込む。
途中の階に付き、攻撃を向ける敵を戦闘不能にすると一階に付き外に駆け出す。前に進み息が上がるのを構わず急いで進み探偵社を目指すと誰かに衝突した。
「君は─────」
時は数時間遡り、鴎外が会合から帰り敦の部屋を目指すと突然部下からの報告で停めたられた上に敦不足で不機嫌になる。報告で鴎外の敦に会いに行く時間を奪った部下に不機嫌を隠す事無く尋ねる。
「何かな。私は忙しいんだがね」
「報告失礼します!中島敦が逃げました!」
その瞬間辺りは闇に染まり、鴎外の中の怒りが爆発した。あの特別な青年が逃げ、溺愛して何でも欲しい物は与えて来たのに逃げたのだ。頭を怒りが支配し身体が震え出し何も考えられなくなる。
「…………探せ…今すぐ探せ!!!」
形振り構わず叫び部下が走り去るのに、鴎外は携帯を取り出し中原に掛けた。絶対に逃がさないと執着を込めながら。
「────あぁ、そうだ。今直ぐ探し出すんだ。これは命令だよ」
時は現在になり、敦がぶつかった相手は今迄敦を探し続けていた福沢諭吉だった。
「君は、敦君…!」
「社長!!会えて良かった!俺、おれ……」
「無理して話さなくて良い。君を探偵社総出で探していた。そして何があった?」
敦は監禁されていた事を話すと、福沢の表情は変わること無くだが、殺気が身体から漏れていた。まるで大切な恋人を奪われた者の様に。
「そうか……君が無事で良かった。………私の華が手元に戻り」
「え?」
「何でもない」
後半の声が小さく敦には聞こえないが、福沢は手に華が戻って来たことに改めて守る事を決意する中、途端銃声が鳴り響いた。
福沢の前には鴎外が大勢の部下を連れ佇んでいた。その中には中原や芥川を初めとした手練を全員連れて居るが、福沢の周りにはいつの間にか異能探偵社が全員控えポートマフィアを睨んでいる。お互い殺気を出し睨み合い異能力戦争時のような空気が肌を震わす。
「やぁ、久しぶりだね。今日はここ迄散歩かい?」
「丁度星が綺麗でな。なに、散歩するにはもってこいの日だ」
「へぇ、空は落雷が鳴ってるけどね。所で福沢殿の手の中に居る者を解放して欲しいな。私の妻なんだ」
「貴殿に妻が居たとはとは知らなかったが、生憎探偵社総出で探していた大切な社員で、私の華を誘拐したのは其方では無いか?」
空気が震え雷がお互いの憤怒を表すように大きく音が辺りに響き渡る。
「なら、奪うしか無いな福沢殿」
「生憎貴君に渡すつもりは無いがこうなってしまっては仕方がない」
瞬間落雷が落ちる激音が辺りに響き渡り、二人の戦いが始まる。
部下達は辺りが更地になりそうな戦いを見つめ敦を構いながら、通行人を逃がしてゆく。辺りから建物が消えて行くのを眺めポートマフィアと異能探偵社は語り始めた。
異能探偵社社長とポートマフィア首領の戦いは決着が着くのだろうか。敦は誰の手に渡るのだろうか。それは異能探偵社社員とポートマフィア幹部だけが知ることだった。