神の愛は猛毒なりベルゼブブは研究一筋な科学者だ。その界隈ではとても有名で、現代社会最高の科学者と言える彼は──────今現在、飲み会に参加していた。
事の発端はベルゼブブの研究費の出資者の投資家で、大学が一緒で腐れ縁だった息子の願いが始まりだった。
「頼む!ベルゼブブ!!一緒に飲み会来てくれ!!」
「………嫌だよ、僕はやる事あるんだ」
「そこを何とか!お前人探してるって言ってたからその中に居るかもしれないだろ!!」
飲み会等自分の様な者が行っては雰囲気を悪くしてしまうし、元より一人が好きなベルゼブブは行く気が無かったのだが、探している人物を盾に出されると弱くなる。
ベルゼブブには探している者が居るために、この世界を研究とした理由を付けて本来色々な国へ放浪しているのだが、未だ目当ての人物は見つかっていないのだ。余談だがベルゼブブの他にも後十一人、大切な人達を探す者は居るが。
それ故にベルゼブブは其れを盾に出されると弱い。だからこそ彼は確信した。
「分かった。行くよ」
「よっしゃー!!!ありがとうな!明日迎えに来る!!」
ベルゼブブは嘆息を付き疲れた様に下を向くと、ある写真を眺めた。
「………ニコラ」
君は一体何処にいるの。と内心呟きながら彼ベルゼブブ、いや過去に人類存続を掛け大切な人と死闘し、亡くした者たちを神の力で全員復活させたのだ。それから一緒に幸せな日々を過ごした恋人かの偉人で科学者のアダムを除いたニコラ・テスラ達が、下級神に嵌められ、ラグナロク人類剣闘士が全員一度に転生してしまう事件が起きた。其れから各神側剣闘士達は、人間界に降り各々暮らし最低限の仕事をすると共に剣闘士達を探しているのだ。
ベルゼブブは未だニコラを見つけて居なく、各神々も未だ誰も見付けた者は居ない。
そんな中ベルゼブブは人間界で暮らすのには研究者が良いだろうと、研究者を優遇する国を調べ速攻そこで国籍を用意した。
そして色々あり、現在出資者の息子から飲み会に誘われたのだ。嘆息を付くベルゼブブは面倒な飲み会に出るのに人間だと最低限の準備が必要な為に、今日は早めに眠る事にした。
風呂を出て就寝しようと髪を拭いていると、スマホに連絡が入って居たのに気づく。開いて見ると、気になる情報が入ってた。
『お前と話し合いそうな科学者の人誘ったから!来てくれるって!それだけ早く寝ろよ!』
科学者と言う所に違和感を持ったベルゼブブは、違うだろうと思うが謎の違和感は消えなく眠りに付く。その日何か幸せな夢を見た気がした。起きたら泣きたくなるような幸せな気分でだけど夢の内容は覚えていない、唯幸せな夢だったとベルゼブブは涙を流して起きた。
その後夜になり飲み会をするパブに行くと人は既に揃っていて、一人端の方でビールを頼み飲んでいる。そんなベルゼブブに何人か話に来るが素っ気ない態度に皆ベルゼブブを構わなくなり一人で呑んでいた。だが隣に誰か来た気配がして声を掛けられる。
「隣良いかい?」
その声にベルゼブブ勢い良く顔を上げると、驚愕の表情を浮かべその人物を見上げた。端正な顔立ちに、快活とした自信溢れる表情は記憶通りのもの。彼、ベルゼブブの探し人が現れた瞬間だった。
「初めまして。僕はニコラ・テスラ」
だが次に告げられた言葉に絶望する事になる。彼には記憶が無かった。ベルゼブブと過ごした記憶が、ベルゼブブは絶望しながら隠し彼ニコラに返す。
「ベルゼブブ……」
「ベルゼブブか!ベルくんて呼んでも良いかい?」
記憶通りの顔に瞳、同じ呼び方顔と名前は一緒なのに記憶が無い。ベルゼブブは内心涙を流しニコラを見上げた。
「私は科学者をしていてね!君の事は学会等で良く聞くよ!今世紀何だって天才の科学者だってね」
「………そう」
それからテスラとベルゼブブは研究の事に付いて沢山話をした。お互い初対面とは思えない程話し、主にテスラが話しているのに対しベルゼブブがそこに的確な答えを返す。いつの間にか夜は老け店の終わり迄話していた二人は、同じ道を歩き帰って居た。
テスラが話すのをベルゼブブは聞きながら思考する。彼と会えたのに魂は相変わらず穢れのない美しく強い魂で、なのに記憶が無い。当り前だ転生したのだから、と独り言ちるが返す者は居ない。
いつの間にか分かれ道迄来ており、テスラは手を挙げベルゼブブに行った。
「また会おうベルくん!私の住所のメモだ!良かったら遊びに来てくれ」
手に乗せられたメモは自分の家からはそこ迄遠くも無く、行ける範囲でありベルゼブブは強く頷く。
「絶対行くから。テスラ…ありがとう」
テスラは満面に笑うと手を振り歩き出す。ベルゼブブはその姿を見えなくなる迄眺めていた。
其れからベルゼブブは研究の合間に隙を見てテスラの元へ通う。テスラと研究談義をし、日光に当たろうと言われると公園に行った。幸せな日々をベルゼブブは過ごす中で、テスラの記憶が思い出さないかと気持ちもあった。
だが、思い出さない方が良いのかもしれない。血を流し戦った記憶等、その後一緒に過ごせたが自分は仕方ないとは言え酷い事をした自覚があった。彼が血を流してボロボロになる姿が今でも夢に見て、あの光景は幸せでそして残酷だった。ベルゼブブには良い思い出とは言えない。
だから思い出さない方が良いだろうと思い、今日もテスラとベンチでサンドイッチを食べながらテスラの話しを聞いていると、突然無言になるテスラに疑問に思う。
「あの…ベルくん怒らないで聞いてくれるかな?」
「何、君は毎回僕を怒らせてるだろう」
顔を赤くし俯いたたままモゾモゾするテスラは、怒られる前の子供みたいで可愛いなと思って居ると勢い良く顔を上げる。
「私は君と過ごした記憶があるんだ!!」
この時ベルゼブブは固まった。思考は停止し目の前で慌てるテスラに返す事が出来なく、数十秒経ちやっと返す。
「は?」
「私には君と死闘してその後恋人だった記憶があるのだよ。勿論神に誑かされた事もね。生前の事も含め、私は君を覚えていた、君を騙していて済まなかった」
これは再開した時から覚えていたのだろうと思ったベルゼブブは、テスラにまんまと嵌められた事に気づく。本来気づけただろう事は、最初の挨拶の絶望と、それから会えた幸せで気づく事が出来なかった。誰かの入れ知恵だろうかと思い聞くと、始皇帝から始まり悪ノリした人類剣闘士達皆が騙しているらしい。
そう言えば情報網を取り合うのに某巨大連絡ツールのグループトークで、皆記憶が無いと最近話したばかりだと言っていた。ベルゼブブはスマートフォンを出し速攻テスラに言われた事を打ち込んだ。直後連絡が鬼の様になりその内電話も来るだろうと、スマートフォンの電源を切った。
直後ベルゼブブはテスラに抱きつく。
「良かった…良かった、またテスラに会えて…テスラの記憶があって……良かった」
震える声でテスラに抱きつく彼に、肩が濡れるのを感じる。其の儘ベルゼブブを抱きしめ返す。
「泣いているのかい。ベルくん」
「泣いていない……」
「本当に……騙しててごめんよ…」
ベルゼブブの頭を撫でながらテスラは片手で強く抱きしめ、ベルゼブブに強く骨が軋むくらいにまた抱きしめられるのが嬉しく思っていると、突然ベルゼブブが顔を上げた。その顔は見覚えのある笑みで、彼が激怒している時の顔だった。
「それはそれとして、テスラはお仕置するから」
「え"!!」
「さぁ、僕の家に行こうか」
ベルゼブブに手を引かれ、テスラは行成立ち足が縺れる。彼の怒りから三日はラボに帰れないだろうと覚悟した。
彼は大切に大切な宝物を、この手に仕舞い込みながら幸せに暮らしていた。サタンが出る事も無く、愛した人との暮らしは楽しく、だからこそ閉じ込めたくなった。誰にでも笑顔を振りまく彼に自分だけを見て欲しい、誰にもその顔を見せたくない、自分の部屋に閉じ込めたい。彼は僕だけを見れば良い。ニコラの全ては僕のものだ。
本来神は愛する人には嫉妬深く執着するのだ。だからこそ彼の全ては自分のものだと、ベルゼブブは確信していた。
だからこそあの事件が起きた時に、余り感情の動かないベルゼブブが激怒し神達を他の十二神と死んだ方がマシな程の罰を与えた。其れでも怒りは収まらなかった。
だがテスラにまた会えて怒りは収まった。
ベルゼブブは想う。今度は絶対逃がさない様にこの籠の鳥を自分の元へ仕舞おうと。
彼は僕だけのものだ。
もう絶対逃がさないからねニコラ。