花瓶には彼岸花と灰牡丹「あの子は今どうしるのかしらね。ねぇ刃ちゃん」
刃と呼ばれた男は自身が乗る名も無き船の窓から、広大な宇宙の星々を眺めていた。男は女に鋭く睨み付け、その瞳には怨念が篭る様に様々な感情を表すが、次の瞬間その瞳を逸らすと何事も無かったかの様に呟く。
「知らん」
「あら番なのに薄情ねぇ」
女の言葉に男は広大な宇宙を見詰めながら告げた。その背中は何処と無く哀愁が漂う。
「多方ゴミでも漁っているのだろう」
「拗ねないでよ刃ちゃん聞いて」
女の言葉を聞いた刃は、彼女に真剣な瞳を向けると飼い主の指示を待つような忠犬の様に傍に寄った。
「次は羅浮よ。あの子に会ったら好きにして良いと、エリオも言っているわ」
刃は一つ目を瞑り瞬間凶悪な笑みを浮かべ笑んだ。その笑みは獲物を逃さない狩り中の肉食獣のようだ。
「あぁ、悠久で待った再開だ。食らい骨まで残さずしゃぶり尽くしてやろう」
「その調子よ刃ちゃん」
女は楽しげに笑みを浮かべ刃の髪を撫でる。刃はやっとの思いで会える番に、様々な思いを馳せていた。次は彼を逃がさない様にと。
穹は列車のソファに座りゲームをしていると、突然くしゃみをしたのに周りが驚き隣に座る丹恒となのが話しかけてくる。
「どうした珍しいな風邪か?」
「穹!大丈夫?パムから温かいスープ貰おうか?」
丹恒となのの慌てように穹は断りを入れると、何か訴えかけるような感に思いを任せ思考に耽る。
「多分、番かも」
「番ぃ?」
「誰かも分からない奴か」
二人の言葉に穹は頷くと笑みを自然と笑みを零しているのを、穹だけが気付いていない。
「覚えていないけど俺の本能が叫んでる」
「なにそれ」
なのがそう呟き、丹恒は考える様に俯くと、穹の方を見て不思議そうに呟いた。
「抑々何故お前は番だと思ったんだ」
穹はその疑問にソファを顎に乗せ唸り出す。その様子に何故分からないのだと、なのは思ったのだ。
「うーん……感」
「感それだけか?」
「うんそれだけ」
丹恒の問に穹はそう呟き、丹恒は疲れた様に頷いた。
「部屋に戻る」
「えー!丹恒!」
「またなー」
自室に戻る丹恒に、なのも戻り穹は何故そう思ったか考えるが記憶が無い自分には何も分からないのだ。だがら感としか言えない。自分はこの感に生頼救われているのだ、そう思う穹は何故自分はオメガで本来なら周りにヒートを撒く筈なのに、誰にも分からないのだろう。
そういう病気はあるかとヘルタに聞いたが事例は無い上に、番が居るのかと言われた時に穹の中では腑に落ちる様に疑問が解消されたのだ。だが自分の番は誰なのかと思うと不安で、何故離れる羽目になったのか離れると分かっていて何故番になったのか何も分からない。だが一つだけ言えるのは番が居る事実だけだろう。自分の番はどんな人なのだろう。疑問は尽きない。
だが、それを考えるより自分の旅路のが大切だと思考した穹は瞬時に頭を切り替え、その疑問を彼方へと飛ばしたのだ。
羅浮でカフカに会った時感じたのは予感、そして対峙して次の瞬間出てきた人物に穹は視線を奪われた。
黒髪に鋭く吊り上がる瞳は、穹を捉えて離さない。穹はその男から目を離せ無く、本能が彼を求め傍に行こうとするのを何とか耐えている。
気を抜けば体が男に付いていきそうになるのを、縛り耐える穹に男が告げた。
「何を立っている。此方へ来い穹」
男の言葉は甘く脳に響き、穹は瞬時に気づいた。彼が自分の番だと男が自分を求めその瞳に激情を宿しているのを、穹は唯見詰めていた。
「あんたが俺の番?」
「そんな弱い繋がりなどでは無い。もっと血より濃いそうだ呪いだ」
穹はその言葉に男の元へ歩き、男を見詰め、数秒数分経つような空気が流れると呟く。
「良いよアンタに付いて行く」
後から仲間の声が掛かる。心配する様に叫ぶ仲間に穹は手を挙げ、優しく笑った。
「ちょっと行ってくるね!」
穹の言葉は帰って来ると告げる様に刃に抱えられ、建物を飛び降り消えて行った。
刃に連れられた所は何処かの小型船の一つ。シンプルなモノトーンの室内に、ベットがひとつ。その上に穹が降ろされると上着に手を賭けられ慌て出す。
「待って!まだ、ダメだ」
「何故だ。俺は悠久の時を待った。其れこそお前にも止めることは出来ないほどにな」
穹は脱がされていく衣服に、過ぎる不安に何か策は無いかと張り巡らせるが、生頼自分はそういうのが苦手なのだと白旗を挙げざる得ない。けれど、どうにかならないかと思い男を見つめると、その激情を宿す瞳に焦燥を見つけた時に自然と呟いたのだ。
「いいよ。抱いても」
刃の行動が止まり穹と初めて目を合わせる。どんな心変わりだと見つめる刃に、穹は優しい微笑みで告げた。
「だって刃が悲しそうだったから」
刃は過去の小さい穹と重なる面影に、彼は何も変わってないのだと安心が宿る。
「お前に言われなくとも抱いている」
刃のその言葉にクスクスと笑う穹に、刃はズボンをバサりと脱がせると穹の肌を撫で告げた。
「覚悟は出来てるな」
「あぁとっくに」
刃が貪るように唇を重ね合わせ、お互い空いた時間を埋める様に抱きしめ合う。
まだ時間はある。カフカに言われた通りなら後数日はある筈だと、刃は思いを秘めながら穹を貪り尽くす。
時はまだ長い、この子供に自分を再び刻みこもう。もう二度と忘れる事が無いように、と刃は思考し穹から唇を離すと凶悪な笑みを浮かべた。
刃の部屋にある花瓶の灰牡丹だけが、彼等の行為の記録を見ていた。
後日穹が帰って来た時には腰を抑えながら、刃に付き添われ来た事に列車の皆が怒り狂いその場は戦場になった。