Fireworks付き合って4度目の夏。
ふたりで観る4回目の花火大会。
ふたりで観る最後の花火。
屋台もなければ、人もいない、会場から少し離れたこの場所はふたりだけの特別な場所だ。
付き合い始めてまともな遠出自体が初めてだった4年前の夏。新生活に慣れるまでふたりとも必死で日々を駆け抜けていた。そんな時義勇が恋人らしいことをしようと炭治郎を連れ出したのが始まりだった。
誰に迷惑をかけるでもない、敷物を広げても気を使わない。ふたり身を寄せ合っていても、手を繋いでいても、たとえ触れるだけのキスをしても。
暗闇に大輪の花が咲き誇り、少し遅れて「ドーンッ」と爆発音が耳に届く。
火花は夜空を明るく照らし、隣に座る恋人の顔に睫毛の影を作る大事な役割を果たしてくれる。
炭治郎は花火を見る義勇を盗み見するのが好きだった。
あまり感情を露わにしない恋人が深海のような瞳を輝かせてじぃっと見つめる姿は大層美しい。3尺玉が打ち上がる時は繋いだ手にきゅっと力が入り、見た目の涼やかさからは考えられない可愛らしい反応が炭治郎は好きだった。
けれど、今日はふたりで観る最後の花火。
ふたりで観る最後の花火を観るのか、花火を観る恋人の姿を目に焼き付けるべきかを炭治郎は決め兼ねたままここへと辿り着き、結局一度も義勇の顔を見ることはできなかった。
フィナーレを飾るひときわ大きく明るい花火が暗闇を昼間のように変えていく。
「……さようなら、義勇さん」
次々と光と音が交互に忙しなく真夏の夜空を彩り、終演へとラストスパートをかけてくる。
音が届くタイミングで思い出の場所で訣別の言葉を紡げばみるみる視界が歪んでいく。
一緒に過ごした3年と4ヶ月の思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡っていく。それを忘れないようにひとつひとつ宝箱へとしまう。義勇のいない時間を過ごすこれからの50年以上もの長い期間に必要な思い出を取り零すことなくしまい込む。義勇に悟られないように「ずっ」と鼻を啜りながら。
最後の花火がハラハラと儚く消え逝き、辺りに静寂と暗闇が支配する空間が戻ってくる。
「炭治郎」
甘く優しい声が届く。耳の奥に残る花火の爆発音をあっさり消してしまう恋人の声は、炭治郎にはまるで麻薬のようだった。
顔がはっきり見えなくたって、この3年と4ヶ月で何度も何十回も何百回もしてきたキスだ。お互い吸い寄せられるように唇が触れた。
ああ、好きだなぁ。大好きだなぁ。
大好きだから幸せになって欲しい。この手を誰かに渡したくない。でも、この手を取ると決めたあの日から期限をつけたのは炭治郎自身だ。迷うな、長男だろう。
貴方と共に過ごせるのは残り8ヶ月。
貴方と離れる準備の為の8ヶ月。
思い出の場所で心を決めて、先の見えない暗闇へと続く階段を一段下がる。もう後戻りは出来ない。
「ねぇ、もう一回」
ここでする最後のキスを強請る。
気付けば微かに届いていた火薬の匂いすら消えていた。