あるところに少年がいた。
少年は「ナイトメアサバイバー」と呼ばれていた。
彼は孤独だった。
友達も、家族も、何もなかった。
石を投げられ、笑われ、いつしか味方なんて居なくなっていた彼に残されたものは、ダンジョンだけだった。
少年は毎日ダンジョンに行っていた。そのほかにすることも無いからだ。
何より、彼はみんなから認められたかったのだろう。数多くあるダンジョンの中でも、彼が選んだのは最高難易度の「ナイトメア」だった。
文字通り、中は悪夢のよう。
生還者0。未制覇の地。
少年は長い間、「ナイトメア」の攻略をしていた。
何日も日が明けた。
何人も人が死んでいった。
出口付近、もう自分しか残っていなかった。
また一人だ、そう感じながらも、これでもう、バカにされずに済むと思うと、心が弾むのだ。
体はもう傷だらけだった。もう出口が見える。あの出口に行くだけでいいのに、足が重い。
その時だった。
少年の足元に、赤く光るペンダントが落ちていた。
ただの宝石ではなかった。これまでみたことのないくらいに輝いて…
「…?」
中で何かがゆらめいていた。
すかさず手に取り、まじまじと見る。
みたところは普通のペンダント。だが、そのペンダントの宝石には何か宿っているように感じた。
…こんなところで落とし物?
こういうペンダントには、だいたい持ち主の名前が書かれている。裏返して探してみる。
やはりあった。裏にローマ字で彫ってあった。
「…あ…い……ち………?」
途中から、汚れていて見えなかった。
ここで死ぬ人は何人もいたし、誰かの形見なのかもしれない。
後ろを擦ってみる。少しずつ字が見えてきた。
「…あい…ち…づ…る…?」
その瞬間だった。
突然宝石が強く光り、少年の手を抜け、宙に浮かんだのだ。
「…?!は…ぁ?!」
こんなこと初めてだ。
ペンダントが意思を持っているようだった。
思わず目を閉じてしまうほど強い光。
次の瞬間、ペンダントの宝石からナニカが出てきた。
「…なんだ…これ」
思わず、体があとずさりせずにいられない。
そこにいたのは。
「はじめまして。助けてくれた…の?」
小さな羽をぱたぱたとうごがしている天使だった。
「ありがとう。やっと動けるように……」
天使が話しているにも関わらず、少年は出口へと急ぐ。
「ちょ、ちょっと!待って!!」
「……」
「あっ、の…置いてかれるんですか…」
「…?」
少年は意味がわからなかった。
動ける=もう構う必要はない
それなのに、なぜおどおどしているのか、と思った。
「わっ、私………貴方について行きたいんだけど…だめ…?」
そう。
天使は。
少年に恋をした。
自分より背が高くて、目つきは悪いけど、それもまたカッコよく見えて。
「…おれに?」
天使は頷く。
その瞳に期待を込めて。
…だって、貴方のことがこんなにもすきだから。
そういえない自分が、嫌に思えた。
「……でもおれも生活に余裕が…」
「わっ私料理、するよ…?」
その時、少年の足が止まった。
…しばしの静寂。
「…おれは夜行 拓夢だ。ついてきたいならついてこい。」
彼は人に伝えると言うのが苦手なのかと思うぐらい遠回しな言いかただった。
「…!!」
でも天使は、その言葉で十分だった。
こちらを気にせずズカズカと歩く少年の腕に、天使…もとい一人の少女は、きゅっとしがみついた。
これは、孤独な生還者と、純情な天使の物語だ。