エー監♀「痛う…っ」
なんだ、あかぎれか。
左手薬指の第2関節だった。
薄ら血が滲む。
少しずつスライドさせてやっとの思いで実験着の手袋を外すと、びりびりと痛みが走った。
「あぁぁぁ!?監督生、絆創膏ない!?」
女性なのだ、きっと持っているだろうという希望的観測も束の間、ぐるっと振り向いた彼女は申し訳なさそうに顔を歪める。
「ごめんね、今切らしてて…丁度グリムの擦り傷に使ったばっかりで…」
仕方ない、エペルにでも当たるかぁ。
患部を右手で覆いながら立ち上がると、白衣の裾を掴まれた。
ぐい、と引き戻され、右手を引っぺがされる。
気の抜けるようなキャップを開ける音が聞こえ、監督生の手元を見やると、リップスティックを構える彼女。
問答無用というように、かつ恐る恐る、それを塗りだした。
さらにポケットティッシュを一枚取り出して細く破り、きゅっと文結び。
「はい、傷口保湿する応急処置のできあがり~」
…!!!
あ、これヤバい。
顔に熱が集まるのを感じながらたどたどしく感謝を告げ、魔法薬学室から廊下に出た。
折角して貰ったのに勿体ない気持ちもありつつ、文結びを上にずらす。
辺りを見渡して
__ちゅ。
これで、間接キスのかんせー。