春よ乙骨が急遽体調不良で倒れ保健室で休んでると聞き、急ぎ足で保健室まで行く伏黒。保健室の扉は開いており廊下まで溢れ日が差していてる。そっと中を覗くと担当の家入さんはいないようだ。窓際の隅に置かれたベッドに上体を起こした乙骨が外の景色を眺めている。側の窓が全開に開いており吹く風が心地よく、乙骨の髪を揺らしている。窓の外に見えるのは桜の木々。花びらを散らせながら春を呼んでいるかのようだ。
ふと、ザァッと木々の擦れる音が強くなり強い風が部屋に入り込む。激しく舞うカーテンと共に部屋に散る桜の花びら。風が顔に当たり思わず手で顔を遮る伏黒。少しして風がおさまり、目を開けると床に散らばる春の足音。様変わりした部屋に驚いているとこちらを見つめる優しい眼差しと目が合う。にこやかに伏黒を見ている乙骨に手招きされ誘われるまま近づく伏黒。その手が少しだけ頬を撫でるとそのまま髪に触れる。おろした手の指に摘まれていたのは桜の花びら。
「伏黒くんにも春がやってきたね」
微笑む姿が可憐に見える。頬がうっすらと色づき乙骨にも春の装いを感じる伏黒。
「先輩も春がお似合いですよ」
伏黒が乙骨の頬を撫でると嬉しそうに顔を委ねる乙骨。
「伏黒くんとこの季節を満喫したいな」
満開の桜をうっとりと眺める乙骨先輩が愛おしい。
「いいですね。でも体調が元に戻ってからです」
「元気になったらいろいろ連れてってくれる?」
「…約束します」
こくりと頷きながら乙骨の手を握りしめる伏黒。強く伝わる感触が頼もしい。
もっと伏黒くんと一緒にいたい。たくさんの思い出を作りたい。側にいたい。今は待ち遠しいその日を夢みて。
優しい春のそよ風が2人を攫うその時まで。