後悔先に立たず「…あの時、ああ言えたなら」
稲妻の鎖国令が解かれ、天領奉行のお尋ね者でなくなった今、万葉は度々そのような後悔に呑まれていた。
あの頃はただひたすらに前を向いていた。立ち止まり振り返れば、自らも死していたから。
時代が移ろい過去を省みる余裕ができた事は、果たして良いことか苦しいことか。
鎮守の地の花を断刀塚に手向け、傍にゆっくりと腰を下ろす。ふらりと稲妻に戻ってくると、万葉は必ずここでただぼんやりと思い出に浸る日を設けるのだ。
「…なぁ、我が友よ。拙者は…」
そして、あの頃が鮮やかに蘇る。
かの青年と万葉との出会いは雷(いかずち)のようなものだった。顔の広い万葉なれど、他のどの出会いよりも鮮明で、運命的。彼らが親友と呼べるほどの仲になるまでさほど時間はかからなかった。
2210