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    学パロ、女体化百合つるくりの再掲です!
    つるくりの日は、いいぞ!!

    #つるくり
    reelForASpareBowstring

    百合つるくりざあざあと、大降りの雨粒が容赦なく降り注いで身体を濡らす。
    この時期の雨は痛いほどに冷たい。
    アスファルトで跳ね返った雨水が足を凍らせる。

    あまりの冷たさに一瞬身体が固まってしまったが、鶴丸が手を引いて走るから凍りそうな足をがむしゃらに動かした。

    鶴丸の白い手は、きっと冷たいのだろうと思っていた。

    でも実際は自分のそれよりもとてもあたたかで、冷たかった自分の手がみる間に熱を持つのがわかる。

    鶴丸の体温が自分へ移ったのだと自覚して、ドクリと大きく心臓が跳ねた。

    「あの信号を左だっ!」

    雨粒に負けないよう大きな声を出す鶴丸の細い肩がずぶ濡れになっていて、冷たさで折れてしまうんじゃないかと心配になった。

    おろしたてのロングスカートが濡れて、足に絡まって走りづらい。
    まるで行くなと言っているようだが、鶴丸の強い力にぐんぐんと引き寄せられる。

    信号を曲がった先にある大きな一軒家の玄関ポーチに駆け込んで、鶴丸
    が「はあー……」と大きな息をついた。

    「天気予報は大外れだなぁ。午後は晴れると言っていたのに」
    「ああ、おかげで折りたたみ傘も持っていなかった」
    「きみのロングスカート、絞れるんじゃないか?」
    「あんたのコートも絞れそうだ」


    見事に濡れ鼠になった互いを見てクスクスと笑い合う。

    「とにかく中に入ろう。着替えないと風邪を引く」
    「……お邪魔、します」
    「どーぞ」

    鶴丸の豪邸は外から何度も眺めていたが中に入るのは初めてで緊張する。
    両開きの立派なドアを開け中にはいると玄関だけで驚きの広さだった。

    ピカピカの大理石だと思われる床には汚れどころがゴミ一つ落ちていない。

    びしょびしょのパンプスを脱いで置いておくのも申し訳ない気分だ。

    それなのに鶴丸はびしょびしょのブーティをぽいっと脱ぎ捨て「こっちだぜー」と廊下をすたすたと歩いていってしまう。
    それに苦笑しながら靴を整え、タオルハンカチで足を拭いてから廊下へ上がった。

    暗い家の中で唯一明かりがついている部屋へ向かえば、洗面所で鶴丸が服を脱ぎ捨てていた。

    鶴丸の白すぎる肌があらわになる。

    二の腕が折れそうに細くてざわりと胸が騒いだ。スキニーパンツを下ろそうとジッパーを下げる音にハッとして後ろを向く。


    「きみも脱ぐといい。服は俺のを貸そう」
    「タオルだけ貸してもらえればいい」
    「そんなわけにいかないだろう? あ、そうだ。シャワーを使うといい少しは温まるだろう」
    「は?」
    「その間に服を乾燥機で乾かせばいいしな! じゃあタオルはこれな。服は持ってきておくから、シャンプーとか好きに使ってくれ」


    言うだけ言って洗面所から出ていってしまった鶴丸に絶句する。
    隣の風呂場を覗けば、自宅の倍ぐらいある広いお風呂に頭痛がした。
    初めて来た他人の、それも豪邸のお風呂を借りるのがどれだけハードルの高いことか鶴丸にはわからないのだろうか。

    ため息を一つついて、ただ広い風呂場を眺めていたら濡れた体がぶるりと震えた。

    そこで初めて、濡れて重たくなった服から水が滴って脱衣場の床を濡らしていたと気付いた。
    とりあえず濡れた服だけでも脱がなくてはと、一番重いスカートを脱いだところで鶴丸の足音が聞こえた。

    このままだと絶対に入ってくる。

    そう直感して風呂場へ逃げて扉を閉めた。
    案の定ノックもなしに入ってきた鶴丸が「あれ?」と間抜けな声をあげる。

    「きみ、服を着たまま風呂に入っているのか?」

    風呂場の扉の前で声を掛けられ脱いだスカートをギュッと握った。

    「あんたが入ってきそうだからこっちに避難しただけだ」
    「ははは、なんだそれ。ほら、風呂場へ行ったなら服を寄越してくれ。乾かせないだろう?」
    「しかし……」
    「大丈夫だって、かわりの服を置いておくから。だから温まってくるといい」


    そう言われて渋々服を脱いで、扉を薄く開け鶴丸へ預けた。

    お言葉に甘えて熱めのシャワーを浴びる。
    ボディソープからいつもの鶴丸の匂いがして、ああ毎日ここで体を洗っているのかと思いドキドキした。


    鶴丸と伽羅は高校の先輩と後輩だ。

    風邪で休んだ時に押し付けられた体育祭実行委員で一緒になった。
    鶴丸は委員長で、自分は会計係。
    なぜだか鶴丸にいたく気に入られ会計係を押し付けられて、敬語も禁止された。
    今日は実行委員で必要な物品を二人で買いに出たところだった。
    鶴丸委員長のアイディアは奇抜で面白くて規定外だ。
    その分必要なものも多く、安く買い物をするのに苦労した。

    それでも1日鶴丸と買い物をして、彼女のモノの考え方や性格をまた少し理解した。

    そう思うと嬉しくて、鳩尾がそわそわと騒ぐ。
    最近、ふとした時に鶴丸の事を考えてしまう。
    鶴丸を理解できると嬉しくて、傍にいると楽しいと思ってしまう。

    最初は憧れなんだと思っていた。
    でも最近「憧れ」の一言では済まない何かがこの胸に滲む。
    鶴丸は水のようだ。どんな形、どんな温度にもなれるし、柔らかくも固くもあれる。
    自分にはないものをたくさん持っている鶴丸を目の当たりにする度に、胸に強い感情が染み込んでいく。
    友情とも憧れとも少し違う、この感情はなんなのだろう。

    シャワーを終えて脱衣場で身体を拭いて、用意してあった白い服を手にとって驚いた。
    布がとんでもなく薄いのだ。
    手にとって広げてみれば、服と言うには頼りないベビードールと呼ばれる類いのものだった。

    「うそだろ……?」

    こんなにもはっきりと独り言を言ったのは人生で初めてだった。
    着たこともないようなヒラヒラとした白いベビードールを見て固まるが、それ以外に着れるものはないので渋々袖を通し上からバスタオルを羽織った。

    さらさらの生地がくすぐったくて、鏡に写る自分の姿が恥ずかしい。

    すると廊下から「伽ぁ羅ー、着替えたかい?」と声を掛けられた。

    「着替える服がないんだが」
    「白いの置いておいただろう?」
    「こんなもの服じゃない」
    「着たことは着たのか?」
    「着たが……」

    そう言った途端にガラリと扉が開かれる。
    びっくりしてそちらを見れば、同じデザインだが色違いの黒いベビードールを着た鶴丸が立っていた。
    真っ白な肌に黒いレースが映えてドキリとする。

    「バスタオルが邪魔だな」
    「うるさい。服をよこせ」
    「せっかくだからきみに選んでもらおうと思ってな。さ、俺の部屋へ行こう」


    そう肩を抱かれて移動する。
    裸の肩に鶴丸の体温が触れて、そこばかりに意識が向いてしまう。
    さらりとそんなことをする鶴丸にとっては、大したことではないのかもしれないけど。

    鶴丸の部屋は2階だった。
    12畳はありそうな広い部屋には壁一面のクローゼットがついており、この中には服がびっしりと詰められていた。

    「好きな服を選んでいいぜ」

    ニコニコと鶴丸が笑う。

    「あんたは服、着ないのか?」
    「きみが選んだ服を見てから決めようと思ってな」

    いたずら好きの子どものような笑顔に、胸がキュッと鳴く。
    はぁ……とわざとらしくため息をついてクローゼットの中を見る。
    鶴丸の私服はあまり見たことがないので少しワクワクしたが、それが伝わらないよう咳払いをした。

    白い無地の服ばかりで苦笑する。
    鶴丸には似合うだろうが、自分に似合う服は無さそうだ。
    そんな中でも一枚だけ黒い服があった。
    袖がシフォン地のシンプルなワンピース。
    吸い寄せられるようにそれを手に取れば、鶴丸が嬉しそうに笑った。

    「それにするかい?」

    鶴丸の声にこくりと頷けば「じゃあ俺はこれにしよう」と色違いの白いワンピースを取り出した。
    色違いがあることに驚けば、少し照れた鶴丸が頬を掻く。

    「そのワンピース。きみに似合いそうだと思ったら買っていたんだ。もしきみが着てくれる時がくればお揃いにできるようにと白も共に」
    「え?」
    「大好きなきみと双子コーデなんて、絶対楽しいと思ってな」

    目を伏せて微笑む鶴丸がまるで恋する乙女のようで、どくりと胸が波打った。
    『好きなきみ』と言った鶴丸の真意を探して口を開きかけたとき、部屋の扉がコンコンと叩かれる。

    「お嬢様? お帰りでしたか?」

    その声を聞いた鶴丸に抱き締められて、クローゼットへと二人で身を隠す。

    やっぱりお嬢様なのか、とか身を隠す意味とか、沸いた疑問が上滑りするほど状況が飲み込めなくて混乱した。
    鶴丸のパーソナルスペースが狭いのか、それとも女同士ならおかしくない距離感なのか。
    じゃあこんなにも動揺する自分はなんなのか。
    友だちと呼べる存在が少ない自分ではわからない。


    薄いベビードールの生地越しに鶴丸の柔くて熱い体温が触れる。
    さっき手を引かれた時同様、思っていたよりも熱い鶴丸の体温が自分へ流れているのだと思った瞬間、水の中にいるように聴覚が鈍くなる。
    廊下からの声が聞こえない代わりに、どきんどきんと走る己の心音が世界を支配する。
    クローゼットの中はどこもかしこも鶴丸の匂いに包まれていて、窒息してしまうかと思った。

    どうしたらいいのか分からずに、はくりと口を動かせば、鶴丸の指が唇を覆う。
    驚いて彼女を見れば『シー』とジェスチャーをされた。

    『こんな格好、誰にも見せられないだろう?』

    楽しげに落とされた小声が伽羅の耳を震わせる。
    そうしてこれは密事なのだと、鶴丸と自分だけの秘密なのだと自覚させられて、信じられないほど体温が上がった。

    ああ、だめだ。
    この感情を受け入れてはいけない。
    こんな重いものを芽吹かせては、胸が破けてしまう。

    そう思うのに、どくりどくりと巡る血潮が全身へ想いを芽吹かせる。

    好きなのか。
    私は、この天真爛漫な白い先輩が。

    自覚するには重すぎる恋が、鶴丸の柔い熱と共にこの肌に焼き付いた。
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