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    緋色/HIR

    @hir_31589
    主に顔アリ自己解釈先生を上げる時に使う予定

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    緋色/HIR

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    隊長と先生の短めの話書きたいなと思って書き始めたけど今日は晩いのでここまで。

    花に紛らす この施設における警備隊というものは死と隣り合わせの仕事だ。それは自分の死とでもあり、他者の死とでもある。隊長と呼ばれるようになってから自分はどれだけの者を喪い、どれだけの者を葬ってきたかとレベッカ・ソーンは暴徒の骸から刃を引き抜きながら考えた。これが最後の一人。マインドハッカー付きの警護担当といってもそれだけが彼女の仕事ではない。この施設に囚われた者を奪還しようと暴徒が襲い掛かってくることは珍しいことではなく、その鎮圧は警備隊の仕事にあたる。暴徒の大半はバグ保有者ほど危険ではないが、バグに巻き込まれなくとも人間はたった一本の針ですら命を落とし得るのだ。決して軽んじられるものとは言えない。そして隊長であるレベッカは現場で指揮を執らなければならない立場で、彼女自身も部下たちを命の危険に晒しておいて自分だけ先生とのんびりお茶を飲んでいることを良しとしない性格であった。
     「彼が最後、でいいのかな?」
     「はい! 侵入口まで確認しに行った隊員からも他に暴徒らしき人影はないと報告を受けています」
     「分かった。みんな、ありがとう。では死体の回収と掃除を……」
     「それは自分たちがやるので、隊長は先生のところに行かれてはどうですか?」
     「先生は只今自室で休憩中だから特に急いで警護に向かわなくてはならないということは」
     「掃除だけなら隊長の指示がなくてもできます。どうぞお気になさらずに向かってください」
     「そ、そうか」
     隊員の言葉に了承する返事をしつつ、レベッカは首を傾げた。この施設にはこの人無くしてバグの除去はできない天才マインドハッカーがいるというのは此処で働く者ならば誰もが知っていることだが、実際にその『先生』と対面して会話をしたことがある者はごく少数だ。実際先生はほとんど自室兼執務室とデバッグルームを往復するだけで、何もない時は自室に終日引き籠っている。出会って話をする機会というのがそもそも無い。何も事情を知らない職員は「先生はデバッグの予定がない時は執務室で熱心に仕事をなさっているのだ」と思っているが、先生が自室でやっていることと言えば趣味の花いじりぐらいだ。読書をすることもあるが最近は心理学の本よりもガーデニングの本や生花のカタログばかり眺めている気がする。実情を知っている自分と知らない隊員との温度差に戸惑いつつ、レベッカは掃除を隊員たちに任せて先生の部屋へと向かった。
     向かう途中、レベッカはふと横目でガラス張りの壁に映った自分の姿を見た。アーマーにもフードにも血がべっとりと染み付いている。暴徒を鎮圧した時の返り血だ。そういえば先程からすれ違う清潔な白衣を纏った研究員たちがあからさまに顔を顰めていたなと彼女は思った。血の錆臭さと腹から零れ出た臓物の生臭さが強く漂う空間にずっといたから自分の鼻は麻痺して何も感じていないだろうが、恐らくずっと清潔な空間にいた者たちは血肉の臭いを纏う自分は不快で仕方ないのだろう。乾きはじめで端の方がパリパリと固まった血痕を指でなぞるレベッカの頭の中に先生の顔が浮かび上がった。FORMATがそう教育したからか、先生は『死』というものを酷く忌避する。恐らく警備隊というものも「自分たちを守ってくれている」という程度の認識で、このような人殺し集団であるとは微塵も思っていないのだろうな。先生が自分に向ける柔らかく穏やかな笑みを思い出し、レベッカは自嘲を込めた笑みを浮かべた。私がこのような人間であると知っても、先生は同じように笑ってくれるだろうか。先生の目の前で誰かを殺しても、先生は私のことを友達だと呼んでくれるだろうか。ガラスに映る自分の目が揺れるのを彼女は見て、目を閉じた。あるかどうか分からない先の不安で足を止めていても仕様がない。取り敢えず自分の掃除をしてから先生のところに向かわなくては。レベッカは行き先を先生の部屋からシャワールームに変更し、踵を返して足早に廊下を歩いた。
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    akira_luce

    DONE七夕の時にあげた丹穹。

    星核の力を使い果たし機能を停止(眠りについた)した穹。そんな穹を救うために丹恒は数多の星に足を運び彼を救う方法を探した。
    しかしどれだけ経っても救う手立ては見つからない。時間の流れは残酷で、丹恒の記憶の中から少しづつ穹の声がこぼれ落ちていく。
    遂に穹の声が思い出せなくなった頃、ある星で条件が整った特別な日に願い事をすると願いが叶うという伝承を聞いた丹恒は、その星の人々から笹を譲り受け目覚めぬ穹の傍に飾ることにした。その日が来るまで短冊に願いを込めていく丹恒。
    そしてその日は来た。流星群とその星では百年ぶりの晴天の七夕。星々の逢瀬が叶う日。

    ───声が聞きたい。名前を呼んで欲しい。目覚めて欲しい。……叶うなら、また一緒に旅をしたい。

    ささやかな祈りのような願いを胸に秘めた丹恒の瞳から涙がこぼれ、穹の頬の落ちる。
    その時、穹の瞼が震えゆっくりと開かれていくのを丹恒は見た。
    一番星のように煌めく金色が丹恒を見つめると、丹恒の瞳から涙が溢れる。
    それは悲しみからではなく大切な人に再び逢えたことへの喜びの涙だった。
    「丹恒」と名前を呼ぶ声が心に染み込んでいく。温かく、懐かしく、愛おしい声…。


    ずっと聞こえなかった記憶の中の声も、今は鮮明に聴こえる。
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