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    2019...? 年頃に書いた亜双義一真の夢小説です

    亜双義一真様へ亜双義一真様へ

     倫敦への御留学、おめでとうございます。何の関係もありませんはずの私も、とても誇らしい気持ちでございます。私には貴方のくださった学しかありませんから、多少の文章のおかしさや文字の書き損じは、お許しください。文字は、一真様と、一真様の貸してくださった書物でお勉強しただけなのです。少々私の思い出話に付き合っていただけますでしょうか。
     貴方は私のような学もなく金もなく、みっともない格好をした女である人間を、見下すこともなく構ってくれ、更には書物ですらいくつもいくつも貸してくださいましたね。私はありがたくて気後れする心持ちがしたことだってございます。ありがたいことでした。おかげさまで、貴方への手紙をこうしてなんとか書くことができます。あの日。ええ、はっきりと覚えています。あの日私が一真様に「文字が読めないのです」と恥も知らずに申し上げた時に「ならば教えます」と、何もかもが覚束ない私に筆を持たせ書を開き教鞭を取ってくださった貴方の、なんと格好良かったことか。毎日厚かましく貴方の御家のご本の沢山ありますお部屋へ通う私を、嫌な顔一つせず迎え入れてくださったことの、なんとあたたかかったことか。すべてあの日から変わらずに私の中で温度を持ち続けています。貴方はその時私と同じくらいに背が小さく、ええ、幼い頃は女子の方が成長が早いのだそうです。貴方の方がいくつか歳が上だったと記憶していますが、私は数もうまく数えられませんで。とにかく、背の高さばかり貴方と同じで頭の中身がすっからかんであった私に文字という、とても尊いものを詰め込んでくださいました。貴方は五十音順に平仮名を教えてくださりましたので、最初に覚えた文字はやはり「あ」であり、「亜双義」の「あ」でございました。私は物覚えの悪い馬鹿頭で、習ったばかりの「あ」だとか「お」だとか「め」などを、とても識別などできない程ののたくった字でいくつもいくつも書きましたが、それを貴方は笑って「いい文字だ」とばかりおっしゃられました。私は貴方にそう褒めていただけると胸がいっぱいになり、ずうっと貴方のそばで、貴方の教えてくださるだけ文字を練習していたくなりました。「一真さま、一真さまの『あそうぎ』でございます」「ああ、良い字だ。お前は腕がいい」などと、何度も何度もあさましく、貴方のお言葉で私の中に渦巻く承認欲求を満たしては、貴方のお勉強の邪魔ばかり致しました。そのことで貴方の趣味のためのお時間がより多く勉強へ割かれていないといいのですが、当時の私にはそのようなことを考える頭はございませんでした。ええと、そう。かなり長い期間、そういった有難い、神様が恵んでくださったかのような勉学の時間が私と一真様の間にございました。しかしやはり私は貧しい生まれですので、せめて家の手伝いなどで働かなくては生きていけません。いえ、私ばかりではなく皆そうでした。それが私にとっての普通でございましたから、可哀想だなんてわけは、一寸たりともありはいたしません。私が家の手伝いをやり終わる頃には日が暮れておりました。それで、手伝いの途中に暇を見つけては一真様の御家に押し掛けて…、今になって思うのですが、大変汚らしい着物を着てあのような素晴らしい書物のお部屋に入り込むのはどんなに恥ずかしいことでしょうか。よく思い出しては、大変な失礼をしてしまったと深く恥じるとともに、反省しております。少しお話が逸れてしまいましたね。暇を見つけては押し掛けて、その頃は確か貴方にご本を読んでいただいておりました。日本の神話や遠い外国のお話や、時には和歌なども読み聞かせくださいました。中でも多かったのは司法の分厚い本でございました。私にはあまりにも難解な文字列ばかりのその本をスラスラと読み進める一真様は、いつもよりもお目々が輝いていたと思います。私はというと、目の回るような難しさに、漠然と左耳から右耳へ貴方の声を受け流していました。ただ、ヒコクニンやら、バイシンインやら、どこへ引っかかって止まったものか、少なくとも覚えている単語もございます。そうしているうちに、一真様はぐんぐんと、まるで向日葵の茎のように大きくなられて、あっという間に御琴羽様の背丈と変わらないくらいになられました。その頃には一真様は大学へ通っており、私と一真様の交流の機会は、かなり少なくなっておりました。それでも頻繁に手紙を送ってくださりましたのは、とても有難いことでした。お返事をぐずぐずと書いては破り書いては破りをしているうちに、次の手紙が届いてしまうことがざらでございました。いつのまにか私は貴方よりずっと小さくなり、元々大差なかった声の高さは、一真様のグッと低くなりましたお声のため、大きく異なるようになりました。私の声ばかりがきいきいとうるさく響くのを恥じ、私は知らぬうちに貴方への言葉数が少なくなりましたようで、「もう文字で褒めて欲しくはないのか?」といたずらっ子のように笑う言葉に私は「意地悪を言うのはやめてくださいませ」と貴方の肩を思い切り押しましたが、びくともしませんでした。私があれ、と思っていると頭をぐしゃぐしゃに引っ掻き回されて「この頭の中には、オレの教えたことが詰まっているのだ」と満足げに呟かれ、訳もわからず「はあ」と間の抜けた返事をしてしまいました。何かお礼でもした方がいいのかと思いましたが、何より私には金がなかったものですから、差し上げられるものといえば野の草花の他には何も考えられませんでした。ですので貴方からの手紙の返事に乾燥させた季節の野の花を貼り付けて送ったりもいたしましたが、どうにもすぐにネタが切れてしまいまして、そう長くは続きませんでした。ああ、ええと。申し訳ありません。別に、言い訳をするためにこの手紙を書いているわけではないのです。お話がどこからずれてしまったのか分からず、私は何を書いていたのかしらんと途方に暮れてしまいました。ここは笑うところですよ、一真様。
     貴方が大学生になられてから、私への教育…と言ってよろしいのでしょうか、私は小学校へも行ったことがありませんで、何が正しいのかは分からないのです。とにかく私にご本を読んでくださるとか、文字を教えてくださるとか、そういった静かなご本のお部屋の時間の中で、必ずといっていいほど「ああ、他所の人間にやるには惜しい女子だ」と私の頭を搔き撫でてくださって。私の家では生憎父が倒れ母もいつの頃からか具合が悪く、私の結婚の話をするような余裕がありませんでしたので「私はどこにも行きません」と不躾にも答えれば貴方ははははとカラリ笑って「それはそれで惜しい。お前はいい女子なのだからな」と頭から手を離されます。私はその頃貴方より大学の話をせがみ、沢山聞かせていただいていたので、自分が貧しい女に生まれたことが悔しくて悔しくてなりませんでした。男に生まれたのなら、一真様と肩を並べて司法を語り合えたのかしらん。もっと父母に楽をさせてあげられたのかしらん。貴方と、親友になれたのかしらん。そんな考えがいくつもいくつも浮かんで、悔しくて悔しくて。女子でも努力をすれば学校には通えたのだから、やはり私の努力不足のせいなのですが。私が「男に生まれたかった」などと呟きますと、少し驚いたような顔をして「なぜ」と尋ねられました。「貴方にそばでずうっと勉強を教えていただきたいのです」「それは…」それからしばらく沈黙が続きまして、貴方は私をぎゅうと抱きしめました。その時私はああなんて固いのかしら、だとか、小さい頃はもう少しお顔とお顔の距離が近かったな、だとか、そういったしょうもないくだらぬことばかり考えておりました。私の耳のそばでは、貴方の心臓の音がザクザクと響いておりました。ひとの心臓の音は、お台所で聞く包丁の音に似ていますね。酷く安心する音でございました。貴方はだんだんくつくつと笑い出しました。「はは……。時折お前が恐ろしくなるよ。オレの子どものように思えていたのに、こうしてほしくてほしくてたまらなくなるのだ。オレはお前を、あいし…」私はその言葉を最後まで聞くことはありませんでした。それから少しして、貴方は倫敦へ旅立ちました。お見送りに行けませんで、申し訳ありませんでした。


     一真様。倫敦とは、どのような場所でございますか。私は寝る前に貴方の乗られる船の後ろっから、ざぶと海に潜って泳いでついていけたらと考えます。しかし、私がいくら暴れましてもそこは布団の海でして、どこにもいけません。それで、どうしようもなく悲しくて、わあっと大声出して泣いたらいいのですが、夜なのでそんなことできません。一真様。最後に、私に教えて下さらなかったあれは、なんなのでございましょう。貴方がいきなり耳を強く塞ぎましたから聞き逃しました。「あいし」から始まる言葉なぞ、私はほとんど知り得ませんのです。私は、貴方の教えてくださることはなんでも知りたいのです。一真様。「あいし」から始まる言葉が、もし、もしもですけれど、「愛している」なのでございましたら…いえ、私は何分自惚れが酷いので、違いましたら笑い飛ばしてくださいましね。「愛している」、それでございましたら。それは私の台詞なのです。一真様。愛しております。これ以上ないくらい、あいしております。一真様。たとえ貴方が倫敦でのお勉強で頭が破裂してしまって、私との思い出をぶちまけてしまいましても、私だけは覚えているつもりでございます。一真様のなんと優しかったことかを。一真様のなんと正しかったことかを。瞳の、なんと真っ直ぐで美しかったことかを! 愛だの恋だの静謐の美しさだの、私に和歌は詠めませんが、それでも私の中の美しい全てをこうして書き記せるのは、やはり貴方のおかげであります。貴方が詰めてくださったものしか存在しない私の頭の中には、いつだって貴方しかいないのです。

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    PAST2019...? 年頃に書いた亜双義一真の夢小説です
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     倫敦への御留学、おめでとうございます。何の関係もありませんはずの私も、とても誇らしい気持ちでございます。私には貴方のくださった学しかありませんから、多少の文章のおかしさや文字の書き損じは、お許しください。文字は、一真様と、一真様の貸してくださった書物でお勉強しただけなのです。少々私の思い出話に付き合っていただけますでしょうか。
     貴方は私のような学もなく金もなく、みっともない格好をした女である人間を、見下すこともなく構ってくれ、更には書物ですらいくつもいくつも貸してくださいましたね。私はありがたくて気後れする心持ちがしたことだってございます。ありがたいことでした。おかげさまで、貴方への手紙をこうしてなんとか書くことができます。あの日。ええ、はっきりと覚えています。あの日私が一真様に「文字が読めないのです」と恥も知らずに申し上げた時に「ならば教えます」と、何もかもが覚束ない私に筆を持たせ書を開き教鞭を取ってくださった貴方の、なんと格好良かったことか。毎日厚かましく貴方の御家のご本の沢山ありますお部屋へ通う私を、嫌な顔一つせず迎え入れてくださったことの、なんとあたたかかったことか。すべてあの日から変わらずに私の中で温度を持ち続けています。貴方はその時私と同じくらいに背が小さく、ええ、幼い頃は女子の方が成長が早いのだそうです。貴方の方がいくつか歳が上だったと記憶していますが、私は数もうまく数えられませんで。とにかく、背の高さばかり貴方と同じで頭の中身がすっからかんであった私に文字という、とても尊いものを詰め込んでくださいました。貴方は五十音順に平仮名を教えてくださりましたので、最初に覚えた文字はやはり「あ」であり、「亜双義」の「あ」でございました。私は物覚えの悪い馬鹿頭で、習ったばかりの「あ」だとか「お」だとか「め」などを、とても識別などできない程ののたくった字でいくつもいくつも書きましたが、それを貴方は笑って「いい文字だ」とばかりおっしゃられました。私は貴方にそう褒めていただけると胸がいっぱいになり、ずうっと貴方のそばで、貴方の教えてくださるだけ文字を練習していたくなりました。「一真さま、一真さまの『あそうぎ』でございます」「ああ、良い字だ。お前は腕がいい」などと、何度も何度もあさましく、貴方のお言葉で私の中に渦巻く承認欲求を満たしては、貴方のお勉強
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