【ツナ京】11月デートする二人まっさらに澄んだ晴天に漂う薄い雲。先日あった強風と雨が過ぎ去ると、空は次の季節を運んできた。青々した葉は色を変え紅葉し、ひらひら落ちたイチョウはまるで地面に黄金の絨毯を敷いてるようだ。
ここはいつもランボたちが遊ぶ公園ではない。遊具はなく、広い芝生と街路樹、休憩のベンチがあるだけの静かな場所。時折ランニングの人や犬の散歩の人が通るだけの長閑で簡素な公園だ。
丁度ベンチの後ろには燃えるような赤と橙の紅葉と楓があって、まるで綱吉の炎みたいだなんて思った。
折角だしと綺麗な落ち葉をいくつか拾い、優しくハンカチの間に挟んで鞄の中へとしまった。
ベンチに腰掛け少し肌寒くでふぅと息を吐き、指をこすり擦り合わせてると待ち人が来た。頬は紅くなって軽く息を切らせてるから慌てて走ってきてくれたのだろう。
「ごめん!京子ちゃんお待たせ」
はい、と上着のポケットから暖かいミルクティーのペットボトルを差し出され京子は受け取った。じわりと触れた指先からのぬくもりにポカポカして、頬が緩む。
「私もさっき来たところだから大丈夫だよ。ミルクティーありがとう」
綱吉はひょいっと隣のベンチへと腰掛けた。今日は二人きりの時間を作りたくて、この公園で待ち合わせをしていた。中学生カップルが二人きりになれる場所というのは案外少ない。沢田家はたくさんの住民がいるし、京子の家も兄や両親がいる。お小遣いも限りあるため、こうやってデートを模索する日々だ。
「その服すごく可愛い。京子ちゃんに似合ってる」
「ツナくんありがとう」
ちょっと前にお母さんと商業施設行ったときに買ってもらった秋の新作服だ。昨日も鏡に合わせて、ちょっと会うだけなのに気合いいれすぎかな?なんてもんもん悩んで決めたもの。可愛いって言わて嬉しい。大好きな綱吉からの賛美に京子はふわりと笑った。
ミルクティーを飲み終わるとそれから二人で歩いた。ぴったら並んでれば手が触れ合い、どちらからともなく指を絡ませ繋いだ。木枯しが吹いても冷たくならないあたたかさ。
駅前と住宅街繫ぐ商店の並ぶ通りからの裏路地。そこにある雑貨屋さんが今日のお目当てだ。お婆ちゃんが経営してる個人店。綱吉も小学生頃のときこのお店でおもしろ消しゴムやシール、メモ帳を母親に買ってもらった記憶がぼんやりとあった。今の時間も小さな女の子たちが何人も雑貨を物色している。
ここへやってきたお目当ては、11月25日イーピンの誕生日プレゼントだ。
「懐かしいな。私もよくここでお買い物してたの。もしかしたら小学生の私とツナくんも会ってたかもしれないね?」
「そうかも。でも俺、たまにしか来てなかったかな。練り消し買いに来たくらい。それよりあっちの駄菓子屋のが行ってたかも」
「ふふっ、男の子だもんね」
京子はじっくり商品棚を品定めする。そして小さな買い物かごに女の子向けの可愛いヘアゴムと、キラキラした絵柄の可愛い鉛筆や消しゴム、そしてシールを厳選していれてった。それから綱吉も練り消しや男の子っぽいゲームキャラと描かれた鉛筆をいくつか見繕う。
「ありがとう。京子ちゃんのおかげでイーピンへの誕プレいいの見つかったよ」
「お買い物すっごく楽しかった!それに私も久しぶりにこのお店に来れて嬉しかったな」
「俺、女の子の髪飾りなんて全然わからないからさ本当に助かった。ランボへの文房具買ったし勉強捗るといいんだけどなぁ」
「ランボくんなら大丈夫だよ。最近ツナくんそっくりだし!」
「だから心配なんだよ〜。フゥ太みたいに育ってほしいんだけどな」
「ふふっ」
雑貨屋を出て、商店街に戻るとそこかしこからいい香りがしてくる。甘いもの大好きな京子は、なんとも香ばしい焼けた匂いにつられ視線を向けてしまう。隣で綱吉はくすくすと笑う。
「京子ちゃんって本当に甘いもの大好きだよね」
「は、恥ずかしい⋯⋯。つい見ちゃってた⋯」
「女の子らしいし、いいじゃん」
「うぅ、ただの食いしん坊です⋯⋯」
「俺もなんかお腹空いてきちゃった。一緒にアレ食べよ?」
「⋯⋯うんっ!」
香りの出処は、幟の出ている鯛焼き屋さん。夕頃であるこの時間は、ガラス越しに次々と生地を焼いているのが見える。粒あん、こしあん、カスタード、チョコレート、期間限定さつまいも餡。
「どれにする?」
「うーんっ⋯⋯」
「カスタード?」
「それもいいんだけど、ん〜〜っ」
「と、さつまいもと悩んでるのかな?」
「っ!そうなの」
「なら俺がさつまいも。京子ちゃんはカスタード。半分こしよ?」
「!!ツナくん、だいすきっ」
「はいはい」
鯛焼きは学生お小遣いでも買いやすいリーズナブルな価格だ。二つ注文すると、すぐにそのまま渡された。外側カリカリ、中は温かく、食欲の秋にとても合う最高なおやつである。綱吉が手にもつカスタード味を京子へ差し出した。ふぅふぅとして、ぱくり。手元に口元寄せる彼女の姿は小動物のようでとても愛らしい。
「んーっ、限定のも凄くおいしい!」「良かった」
次に京子からも、ハイっと差し出され同じようにパクっと齧った。カスタードの蕩ける甘さに思わず綱吉はウマッと声が出る。二人してほっぺが落ちそうだ。おやつを堪能し、次に足を向けたのは本屋さんだ。参考書だとか小説には然程興味ないが、綱吉は漫画やゲーム雑誌が好きだ。京子は小説が好きらしく、二人でアレコレ言いながら物色する。
「あ、この攻略本出てたんだ」
「ゲームの?」
「うん。フゥ太とランボが最近やってるんだよな」
「そうなんだ!フゥ太くんもツナくんに似てきた?」
「それは嬉しいかも」
「ふふっ、本当に兄妹仲良しさんだね」
「いやはや、お兄さんと京子ちゃんと比べたらうちはそんなでも」
「そんなことないよ」
照れくさそうでに綱吉は頬をかいた。血の繋がらぬチビ達だが、こうやって兄妹扱いされると嬉しいのだ。毎日朝起きて寝る時も顔合わせ、同じ釜の飯を食って生活している。綱吉にとって大切な弟と妹で本当に家族だから。
お財布とにらめっこしつつも綱吉はこの攻略本を買うことにした。京子はそんな長男姿の綱吉を微笑ましく見つめた。彼氏は優しくかっこよく愛情深いのだ。自慢である。たくさんあるいい所の一面が見れて嬉しい。
そうして日暮れの時間となったので、今日のデートはここまで。別れ惜しいのと彼氏の務めとして綱吉は京子を家の前まで送り届ける。
「またね、京子ちゃん」
「うん!ツナくんまた明日!」
解いた手の温もりはすぐ冷えてしまい、寂しさだけ残る。だけどまた明日があるのだ。
京子は部屋に戻ると、ハンカチを広げて紅葉を机の上にならべた。今日の秋のデートの思い出だ。一緒にミルクティーを飲みながら景色楽しんだ紅葉狩り。いそいそと押し花作りにとりかかる。これは栞にして綱吉へ今度プレゼントする予定だ。喜んでくれるといいな。おすすめの小説も一緒に貸そうかななんて。そうやって京子は今日の楽しい秋のデートを思い返した。