トリオの海デート!!海いくトリオ+女子
***
「京子ちゃん!夏休みに俺と一緒に海いきませんか!」
海!
なんて平然に誘ってくるのだろうか!
毎年の定番だけども!
中学の頃から何度か一緒に行っているが、その時はリボーンくんに誘われたし、今年は心境が違う。
恋人となってからの初めての夏の海。
刺激が強すぎる。
新しい水着を買わなきゃだし、そもそも毎月の第三日曜で蓄えられたカロリーをどうにか消費しないといけない。頭の中ではぐるぐる考えてしまう。
「京子ちゃん?」
「あっ、うん!いいよ!ハルちゃんとクロームちゃんも?」
「うん、皆でさ」
「ふふっ楽しみだね」
「だね!」
思考は一度置いておく。
夏休みになると毎日会えなくなってしまうから、こうやって綱吉から予定を誘ってくれたことがとても嬉しい。暑い夏が今年もやってくる。思い出がまた一つ増えるのが楽しみだ。
海に行くためには準備がいる。
京子は決心した。
「お兄ちゃんっ、お願いします!」
「あぁ!極限に任せろーー!」
京子は動きやすいラフな部屋着姿で、ぐっと手を握りしめる。細い両手首に通った黒紐はそれぞれ赤と青のコントローラーに繋がっていて、。テレビ画面に表示されてるのは挑戦状って言葉。気合と熱が入る。テレビに向かって兄妹揃って構えいた。
これは巷で噂のダイエットにもボクシングトレーニングにもなるエクササイズゲームだ。なぜ笹川家にこのゲームがあるかというと、以前に兄が出場したボクシング大会で貰った賞品であった。一度起動しただけで、長らくしまっていたがこの度引っ張り出してきた。
京子の目的は言わずともがなダイエット。了平は微笑ましい気持ちで、そんな妹の珍しい行動に付き合っていた。目標立て何かに熱中し努力するのはいいことだ。
「自分の限界を理解し、その最大限をひき出し、更にその先を越えることが大切だ!」
「はいっ!」
「それに極限に休むこと!コロネロ師匠から教わったからな!」
「はいっ!お兄ちゃん!」
兄の励まし声は力になる。そうして毎日フィットネスを続けることができたので結果は上々。数字として体重が劇的に落ちることはなかったが、ほんの気持ち程度腹回りをひきしめ姿勢が良くなった気がする。せめてケーキカロリー消費を成功したと信じたい。
「海では沢田達から離れるなよ」
「うん!大丈夫だよお兄ちゃん」
「へんな男達も多いからな。だがアイツらがいれば安心だ。俺が認めた漢だからな!!」
「うん」
***
迎えた当日。
じりじり焼け付く太陽、照らし返すビーチの先で青く煌めくのは水平線。京子達は海にやってきていた。
「ハルちゃんもクロームちゃんも可愛いね!似合ってる!」
「はひ、ありがとうございます!京子ちゃんもベリーキュートです!クロームちゃんはスーパーエンジェルです!」
「……二人とも可愛い」
「「クロームちゃん!!」」
京子は黄色地にオレンジ色の小さな花柄プリントが咲いて少しセクシー系。ハルはリボンのあしらわれた赤のギンガムチェックが可愛い系。クロームはくすみある淡いブルーの無地でシンプルだがオフショルデザインの清楚系。
それぞれ個性の違う三人の美少女の登場に、浜辺にいた男達はザワザワと湧いてた。男だけのグループはチラチラと視線を向け、今にも声をかけようと動き出す寸前である。
そんなことに三人の女子達は気付くことはない。良くも悪くも自分達への容姿への自覚などが足りない天然達なのだ。
しかし、別のところから発せられてる鋭く圧のある空気を京子は感じることができた。太陽と同じくらいギラついた女達の強い視線、そのお姉さん方が向ける矛先にいるのは予想通りの人物達。
「みんな!こっちこっち!」
「ツナさーん!」「ツナくん!」「ボス」
いち早く綱吉が大きな声で呼びかけてくれた。その御蔭で、周囲にいた男女が醸し出してた秋波が霧散していく。
女子とうってかわるが、こちらの男子も容姿端麗でそれぞれ味が違う水着姿のトリオ男組。みんな泳ぐ気マンマンで足首手首を回したり、身体を伸ばしていた。
綱吉はTシャツを、獄寺は前開けたパーカー羽織っていて、山本は長袖ラッシュガードを着ている。
山本の高身長でラッシュガード越しからも分かる鍛えられた身体のラインや、獄寺のクォーターだから髪色も肌も色素薄くパーカーから覗く古傷がアンニュイな色気。そして挟まれるようにいる綱吉は二人と比べ小さく見えるが、それでも海パンから覗く足は靭やかに鍛えられた筋力が窺えるしカッコいい。
周囲にいた女性達の反応も納得である。
「きょ、京子ちゃん……!凄く可愛いっデス!」
「ありがとうツナくん!」
「ねぇねぇ!見て下さい!ハルの水着姿はどーですか?」
「いーんじゃねぇーの」
「もうーっ、獄寺さんってば褒め方が雑ですーっ!素直にキュートと伝えてくださいよ!」
「?」
「二人共落ち着いて!ハルもクロームも似合ってるから!」
「だな。俺もクロームすっげー可愛いと思う!その色いいな!」
「ありがとう」
「ほらほら、獄寺さんー?ツナさんと山本さんを見習って下さい!」
「ッチ……、面倒くせぇ…けど似合っとる」
「ふふっ」
京子は綱吉がまだTシャツ着ていたことに正直ほっとした。目の前にしても心の準備は整わなくドキマギしてしまう。
きっと綱吉がこの布一枚を脱ぎさっていたならば、細く鍛えられた腹に魅了された女性達は京子達が到着するよりも早く動いて声をかけていたかもしれない。
「ハル達も何かお手伝いしますか!」
「いらねー、もう終わってる」
「おう!女子達も身体解したら海いこーぜ!クロームは日焼け止め塗ったか?」
「⋯うん。ハルちゃんにしてもらった」
「あーっ、俺塗りたかったのに!」
「それはダメ⋯⋯っ」
「なぁツナ。これって男のロマンだよな?な?」
「ちょっと山本!?俺にそれふるのっ!?セクハラなんない!?」
「野球馬鹿!!十代目を困らせるんじゃねえ!」
「えぇー、でも獄寺だってやりてーだろ」
「んなの⋯⋯」
「はひっ!?エッチです獄寺さん!!」
「濡れ衣だわアホ!!」
「あははっ、賑やかで楽しいねクロームちゃん」
「うん」
パラソルやレジャーシートは男子達によりバッチリ準備完了してる。浮き輪とボールも膨らんでいた。中一から海へ遊びに来るのは定番化していたので慣れたものである。
夏の海を高校生六人は、さっそく満喫することにする。
「ちょっと待って、俺も脱ぐ」
あっ……、と京子が目を逸らす間もなく、綱吉は手を交差するとガバリと男らしく脱ぎ捨てた。予告なく目の前で行われ思わず京子は、ぽっと頬が染まる。幾度か綱吉の下着一枚姿を目撃したことあるが、忙しい状況だったのとあまり見ないようにしていた。少年だった薄い身体が立派な青年へと成長し魅力で溢れている。目が奪われる。
京子はおでこを二回ぽんぽんと叩いて、はしたない思考を必死で外へ追いやった。乙女としてあるまじきことだ。
そんな不思議な行動した姿に、綱吉は(京子ちゃん可愛いな)と口元を緩ませているのに気付くことはない。
最初は皆で水際で遊んでから、山本と獄寺が競泳したり、浮き輪で浮かんだり、水鉄砲取り出したり、イーピンちゃんランボくんへのお土産用に貝殻を拾ったり。
それから男女ペアを組んでのビーチボール勝負。かなり白熱した。
水分補給のため、綱吉と京子はパラソルへと戻ることにした。他二組もそれぞれで自由行動している。
凍っていたペットボトルは程よく解けていて、冷たい飲みものを綱吉は一気に煽った。その横で京子もお茶をごくりと飲む。
「はぁ〜、生き返るッ!」
「バレー楽しかったね!」
「うん。獄寺くんの風を読むのは流石すぎたよ」
「山本くんとクロームちゃんペアも強かった!」
「あそこは間合いとか、空間把握能力が高いんだろうなぁ」
「それに⋯⋯、ツナくんかっこよかった」
「砂に顔つっこんだけど?」
「ツナくんはいつでもとーってもかっこいいから!」
「うぅっ、ありがとう。京子ちゃんだって、いつだって可愛いからね?」
くすりと笑い合い、二人して顔が火照った。休憩のあいだ京子の肩には橙色の大判タオルがかけられていた。綱吉のもので、まるで包まれてるようで少し照れくさい。
徐ろに、じっと綱吉が静かに京子を見つめる。
「⋯⋯京子ちゃん。ゴメンね、そのままじっとしてて」
女の子座りしていた京子へと、綱吉は膝立ちをして頭の上へと手を伸ばす。思わず反射的に目をとじる。
「……ッ」
瞑って見えない視界だが、何度か指が髪の毛を撫でたり、ぱっぱと払う動作が行われた。
あぁ、髪についた砂をとってくれたのか。
海に入るために今日の髪の毛はアレンジして纏めてある。それが崩れぬように優しい手付きなのだろう。勘違いしたことが恥ずかしいとおもいながら薄っすら目を開けた。
「ん、これでよし」
目の前にある肌色、鎖骨。照れて目線を下に向けてもどこも刺激的すぎて頭がクラクラしそう。ゴクリと冷たいお茶を飲んだって胸に込み上げた熱は下がらない。そんな京子の心情を汲み取ってしまったのか、綱吉はふっと頬を緩ませ顔を近付けた。
──恋の熱中症、かなりの重症度レベルです。
渇きを潤すように、唇が重なった。
「さ。もう一回、海行こうか?」
「〜〜うんっ!」
猛暑記録したこの夏。ギラギラの太陽で砂糖も煮詰まってます。熱くとろとろになって、脳の中でセロトニンは活発化。
恋をしてからというもの、世界がパチパチきらきらと弾けている。
***
綱吉と京子が波間に戻って足を入れて楽しんでたときに、音楽が流れ始めた。この場所に来たときからなんだろうと気になっていた浜辺に作られてた簡易的な野外ステージ、そこの照明がついている。
「なんか始まるみたいだよ。少し見てみる?」
「うん!行ってみよ」
人が集まり始めたステージの前の方から見上げ、このあと二人はびっくりすることなる。
「山本!?!?」
「クロームちゃんだ!」
二人は並んでステージに立っていた。
***
山本とクロームは、綱吉達と別行動になるとステージ近くへ見に来ていた。祭り事好きで興味津々な山本が催し物を気になっていたからだ。アーティストやアイドルのライブだろうかと検討付けてれば違うもの。掲示されたポスターに書かれてたものとは、
──海のベストカップルコンテスト
「ベストカップル⋯?」
「へぇ、おもしろーじゃん。お、なんか景品もあるみたいだぜ」
「っこれ」
「いいじゃん!なぁこれ出てみよーぜ!」
「でも⋯⋯コンテストって」
「凪は嫌?嫌ならやめとく」
二人だけのときの呼び方をされ、クロームは少し頬を染めながら山本を見上げる。クロームのことを凪と呼ぶのは骸と山本だけだ。
榛色の瞳で真っ直ぐ見つめられ、クロームは感情を整理する。山本は優しく感情に敏感だ。混乱してるクロームの気持ちを待ってくれてる。
人前に出るコンテストなんて緊張する。でも嫌じゃない。並盛高校の同級生達からもカップルとして扱われるのは照れるが、外側から認められられることは嬉しいことである。いつも人気者な山本だし、一時期は自信ないこともあったが隣に立つのがクロームでいいのだと今は胸を張れる。
「武となら大丈夫。ちょっと恥ずかしいだけだから⋯⋯」
「〜〜っ!可愛い!へへっ、俺のガールフレンド一番可愛いし、俺たちが一番ベストカップルだって自慢しような!」
「⋯っ武!」
「おう!凪、頑張ろうぜ!」
こうしてエントリーし、ボンゴレ雨霧守護者カップルはステージに立つこととなったのだ。
先に数組のカップルが登壇する中、ついに順番が回ってきた。
「続いてのエントリー⑤番のカップルは、爽やか笑顔な野球ボーイ山本武くんとミステリアスで妖艶なガール、クローム・髑髏ちゃんでーす!!」
美男美女の登場に会場はワッと湧いた。パチパチとたくさんの拍手の中、手を振りながら二人は舞台袖から登場する。手前にいる綱吉と京子に気づいて山本はニカッと笑い、クロームも微笑んだ。まだ審査内容前だがアピール効果抜群である。
机と椅子が横並びに設置されており、それぞれのカップルは着席する。
どどん!と効果音と司会者の声で始まったのはカップルクイズ。手元のパネルに回答を書くもの。観客達は口笛吹きながら可愛いカップル達を見守る。
互いの誕生日は
──4月24日、12月5日
互いの好きな食べ物は
──おすし、麦チョコ
互いのキュンとする瞬間は
──真剣な顔、笑顔
こんな質問がいくつか続いたあと、次の質問とフリップ回答に観客の一人であるぎょっと綱吉はした。
今日したキスの回数は
──2回
遊びに来てるいつの間にしてたのだろうか。あの剣士はちゃっかりしてる、油断も隙もない男だ。山本もあのリボーンの弟子であることを再認識した。隣で京子は「仲良しだね!」なんて笑っている。
「ね、京子ちゃん。俺たちもあとでもう一回⋯⋯ね?」
「っうん」
クイズゲームの次は、
目隠しで手を当てるゲーム。
「ボーイ達はガールに目隠ししてもらって下さい〜!」
クロームは机にあった長い黒い布を持ち立ち上がると、山本の後ろに回って目に巻きつけキュッキュと結んだ。他の参加者達も同じようにして準備が整う。そしてお手伝い要員の女性スタッフが、それぞれ出演男性の前に立つ。スタッフ女性と彼女の手を触って、どっちが自分の彼女の手か当てるクイズだ。
「さぁ!始まりました!ボーイ達は当てられるかな!?」
どの参加者達もスタッフと彼女のてのひら、指先とかを確認するように触ってる。
でも一人だけ違う反応がいた。
山本だ。
スタッフの手を触れるとすぐ振り払った、そして次にクロームの手を取ると宝物のように両手でぎゅっと握り込む。
クロームの手は、一緒に戦う仲間の手だ。短く揃えられた爪、こんな小さく細い指なのに掌は少しカサカサしてるところがある。三叉槍を握ってできた豆の跡。たくさんの戦いを共に乗り越え助けられた。惑わす幻術を生み出し、時に激しく接近戦もする努力をした手。間違えるわけない。
この目隠しは会場を大盛あがりした。間違えた人もネタ的に楽しまれ、速攻で回答辿り着いた山本に関しても彼女愛の溢れるカップルとして持て囃される。
最後に自由アピールタイム。
山本がクロームをお姫様抱っこした。優しい瞳のカレシに、照れながらも身を預けるカノジョ。
大多数の票を獲得し山本武&クローム髑髏のカップルが優勝したのだ。優勝景品を手に綱吉と京子へVサイン。
こうして夏の海のカップルコンテストの幕は閉じた。
***
山本たちがコンテストにでている頃、獄寺とハルは沖まで遊泳していたので全く気付かない。
それから浜辺に戻ったが、ステージの方の混雑は避け、いくつか並ぶ海の家を歩きながら物色していた。休憩がてら食べ物系の様子を見に来たのだ。飲み物は予め用意していたが食べ物は現地で買うに限る。これもまた遠出の醍醐味だ。
「獄寺さん見てください!あの看板のかき氷、マンゴー味おいしそーですよ」
「クソあちーしな。悪くないんじゃねーの」
「はい!ピッタリです!」
「十代目の分も買ってくぞ」
「クロームちゃん達のぶんもです!」
「わぁってるって」
数人の列が形成されている最後尾に獄寺とハルは並んだ。すぐ後ろにも新しい客達がやってきて挟まれることとなる。たまたま前も後ろも並んでるのは男ばかりで、明るくコロコロ表情変えながら声を出し笑うハルは非常に目立った。
男たちが彼女の水着姿をジロジロ鼻の下伸ばして見ているのに気付いた獄寺は眉間に皺を寄せる。今はダイナマイトを持っていないし騒ぎを起こすわけにはいかない。日焼けように持っていたパーカーを脱ぐと、ハルの上にかける。
「獄寺さん⋯⋯?」
「いいから着とけって」
色白ながら引き締まった身体と少なくない傷跡が露わになる。そしてギロリと獄寺が睨めば効果覿面で、堅気の男達はあっちこっちへ目線逸らせた。
フンッと鼻をならすと獄寺はハルの腰を抱き寄せ、コイツは俺のだというのをアピールし牽制した。まったく、誰の女を許可なしに見てるんだ。
「ちょっ、獄寺さん⋯⋯っなんだかエッチです!」
「アホ!!こんな場所でそういうつもりじゃねーよ馬鹿!!」
「違う場所だったらそういうつもりなるんですか!」
「当たり前だろ!!いいからちゃんと俺にくっついてろ、可愛いんだから」
「うぅ⋯⋯はひ⋯⋯」
そんな学生バカップル二人に、並んでいた男達はぐっと奥歯を噛む。かき氷の列が進み二人がたくさんのかき氷買っていく後ろ姿をじっと見つめた。
獄寺はダイナマイトを持つときのように手を広げ胸板で支え四個、ハルは両手で二個の合計六個のかき氷をパラソル広げてる場所へ運搬していた。カップがスムージーのように縦長プラ容器であることが助かった。
それでもビーチサンダル履いていても暑くて足元悪い砂浜と、食べ物が溢れないよう歩くのは注意を払う。その時、不穏な気配がした。
「ねぇ、そこの君。可愛いね。そっちの兄ちゃんより俺たちと遊ばない?」
両手いっぱいの二人の目の前にチャラチャラした色黒な男達が立ち塞がった。いつぞやのライフセーバー達とのデジャヴ。
年上だからか、五人もいる余裕からなのか、手を塞がってるの見越して狙ってきたのか。
はたまた本物の馬鹿か。
獄寺の睨みにも臆しない男達。
馬鹿はどこにでもいるものだ。中途半端な強くもない弱いやつは相手の力量が読めないアホなのだ。先程の列に並んでた奴等のが余っ程賢く生存能力が高い。
「オイ、人の女に手を出そうとすんじゃねぇよ」
「おぉ怖〜、カレシくん?」
「こんなやつより俺たちのが楽しいことできるよ?」
「もっと美味しいの奢ってあげるからさ!」
「ほらほら、行こうよ」
ハルを見てるニヤけた面が非常に不快だし、十代目へ届けるかき氷が溶けてしまう。道を塞がれ獄寺の眉は鋭く吊り上がりイライラは頂点へとなった。
「テメェら二度は言わねぇからな。とっとと失せろ」
爪先を丸め力をこめ、地を滑らせるように足を高く振り上げた。バシャッと勢いよく砂が巻き上がり、男達の顔へと鋭く攻撃した。
「痛っ、」
「けほっ、ゲホッ⋯⋯っ」
「んだ、このガキィィ!?」
「雑魚相手なんぞ、拳握る必要もねぇ。足で十分だ」
「⋯こんっやろ!!」
「獄寺さんっ!?」
「下がっとけ!」
男達は砂を払いおえると、一斉に襲いかかってきた。獄寺はかき氷持ったままで、ひょいひょいとステップで躱してみせる。挑発に乗った一般人のわかりやすい動きだ。
「オラァっ!」
「ハッ、余裕ねーな?」
勢いある拳のストレートをくるりと避けると背中をガツンと蹴る。男は前のめりとなり、そのまま顔面から砂へとダイブした。更に逆上した仲間二人挟み撃ちで同時にきたのを、これまた素早く躱すとお互い頭突きあう。見事に星が散って目を回して伸びてる。
残るは二人。
一人は中々やるようでヒットアンドアウェイで距離を取りながら攻撃してきた。足だけの応戦は、テリトリー内入ってからでないと、こちらも攻撃しにくい。慣れないビーサンだし砂の上というのは案外厄介なものだ。
その時、ぽーんっ放射線描いて物体が飛んできた。
「つ、冷てぇっッくそっっ」
「ハル!?」
ぱっと振り返ると、実に誇らしそうな恋人の顔。
「えっへん、必殺かき氷ボムです!!ハルの新体操で鍛えたコントロール舐めないで下さい!!それにハルはこんなデンジャラスな人達に靡きません!」
「ったく、お前は⋯⋯!後で俺の分やっからな」
「はーい!シェアしましょ!半分こです!」
突然の冷たいかき氷に襲われ隙だらけの一人を、獄寺は容赦なく蹴って沈めた。その視界の外で最後の一人がハルを連れ出すつもりなのは想定内でバレバレだ。
誰の目にも止まらなぬ速さで一瞬灯らせ、指輪に注入した嵐のエネルギーは爆発する。
「しゃーーっ!!!!!」
「うっ、なんだこの猫⋯!?!?ちょっ、っイタタタタ!!」
「へっ。こいつも相当キレてるぜ」
「瓜ちゃん!」
「にゃぉん♪」
「獄寺さんも瓜ちゃんもかっこよかったです!」
「なにこの人混み⋯⋯」
乱闘騒ぎで、いつの間にか周囲にギャラリーの輪が出来ていた。人の間を掻き分けるように向かってきた、聞き慣れた声に聴力は反応する」
「十代目!!」
「って、獄寺くーん!?」
「かき氷買ってきたんでくいましょ!」
「え、あー。うん?ありがとう。この転がってる人達は⋯⋯?」
「気にしないで下さい!」
「いいの」
「はい!ただの漂着ゴミです!むしろビーチいるのも邪魔なので海の藻屑になるよう放り投げてきますか?」
「いいからっ、そんなのいいから!」
綱吉の後ろからひょっこりと京子も心配そうに顔を出すと、ハルへと駆け寄った。
「ハルちゃん大丈夫だった?」
「ハイ、もちろんです!獄寺さんがいたので!」
「良かった〜。かき氷もありがとう。あれ、一つ落ちてる?」
「獄寺さんとシェアするのでノープロブレムですよ!京子ちゃん、クロームちゃんと山本さんはどちらに?」
「ステージ!でも二人ともパラソルの場所に戻って来るころだよ」
「そうそう。なんかベストカップルコンテストにでててさ」
「はぁ!?山本とクロームが⋯っ?十代目っ、なんスかそれ!」
こうして一波乱あったものの、全員合流し溶ける前にかき氷を皆で食べることができた。瓜が出ていたからナッツと小次郎と次郎も出して遊ばせたり、ハルが獄寺へかき氷をあーんってするから照れたり、それぞれのカップルも同じことしたりして、皆で笑って。
なんて楽しい夏だろう。
「そういえば、コンテストの優勝景品なってなんだったんですか?」
ハルの切り出しに、おずおずとクロームは答えた。
「ナミモリーヌのケーキ無料券もらったの」
「わぁっ、スペシャルゴージャスです!」
「うん。京子ちゃんハルちゃんとナミモリーヌ行きたくて」
「嬉しいっ!」
「〜〜クロームちゃんっ!ありがとうございます!行きましょ!!女子会ですよ!」
「よかったな、クローム」
「うん」
「あともう一個あるのな!じゃじゃ~ん!」
「!!花火じゃねぇか」
「そ、手持ちの。打ち上げは毎年見てるじゃん?クローム手持ちやったことないんだって。だからさ、ちっと帰り遅くなるけどやってかね?」
「はいはーい!ハルやりたいです!」
「あ、私も!」
「もちろん!折角だし、日が落ちたらやろっか!」
「いいんじゃねーの」
「ありがとう」「ありがとな」
「ね、みんな。もう一泳ぎしない?」
綱吉からの問いかけに、皆の返事は同じだった。
すっかり暗く日が沈み、辺りの人はいなくなった頃。
六人の影が、キラキラ虹色の閃光で夏の海を彩った。
この楽しい日常を、俺たち私たちは忘れない。