1960年1960年
ヴォックスはアラスターの電波塔、放送室のソファで終わりを待っていた。ワインの注がれたグラスを口に当てると、コト、と固い音がした。
「ヴォ~ックス。ヴォクシー」
放送は終わった。放送は終わったが、彼の声には未だ電波越しのノイズがかかっている。いつだってそうだ。アラスターは右手で獲物を引きずりながらソファ越しにヴォックスの背後に立った。どちゃ、と上級悪魔だった肉塊が投げ捨てられる。
「いつもどおり頼みますよ」
「ああ」
ヴォックスはグラスを置き、立ち上がる。アラスターと向かいあって、ソファのへりに尻を乗せた。アラスターは自慢のジャケットを脱ぎ、蝶ネクタイを解いていた。赤いシャツに返り血が赤黒く重なっている。髪も少しだけ乱れていた。
「長かったな。……三日か」
「ご満足いただけましたか?」
「とっても」
ヴォックスは寝不足の頭でアラスターの満足げな顔を見つめた。彼は注目されるのが好きだ、意外と。ヴォックスは肉塊を掴んだ。
「じゃあまた」
挨拶をすると、ヴォックスは自身を電気に変えた。掴んでいた肉塊もまた、信号の一種になり、この場所から跡形なく消える。アラスターがひらひらと手を振るのが一瞬だけ見えた。