金の音、銀の音 目が覚めた時に最初に目に入ったのは意外にも真っ白い天井を背にした九井のしかめっ面だった。ぐるりと視界を巡らせれば、どうにも見慣れない部屋は天獄でも地獄でもなさそうだ。苦虫を噛み潰したような険しい顔で九井は「よう」と短い言葉を絞り出し、オレの枕元から立ち上がりベッドの先にあるソファに視線を投げる。
「ボス」
耳に届いたそのひとことに全身が震える。口元を覆うマスクが酷く息苦しい。乾いた甘辛い味が腹の底から滲み出してせり上がって喉を焼く。腹は鉛でも飲み込んだようにずしりと重い。力の入らない腕も足も管につながれて、身動きどころか指のひとつも自分の意志では動かせない。
霞む視界の遠くで小柄な黒い影が九井の声に反応して飛び上がるようにして立ち上がる。なのに影は顔を背けるように横を向いて俯いたままだ。もういちど投げられた九井の声に、ひどく迷った末にためらいがちに顔を上げたのは。
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