1624/10/17 晩秋を迎えた陽光は、かつての苛烈さを失くし、ただ清澄に降り注いでいる。
冷たい風が病床の主の身体には良くないからと、締め切られた障子を彼は、そっと開けた。
「おぉ、尼君。ご覧あれ。
庭の紅葉が見事に色づいている。
まさに、
散らねども かねてぞ惜しきもみぢ葉は 今はかぎりの 色と見つれば
と言ったところかな」
声をかけるが、返事はない。
「尼君。尼君や。
お加減が悪いか。
せっかくの良き日和だというのに。
さぁ、起きて共にご覧あれ。
俺に、昔の話を聞かせておくれ」
床に臥せたまま、浅く息をする老女へ、彼はひたすら声をかけた。
「尼君・・・」
伏せた目に写る老女は、かつての快活な生気を失くし、ただゆっくりと、死出の旅路へと向かっている。
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