お嫁に行きますっ! プロローグ
このところ鬼殺隊士の間でまことしやかに囁かれている噂がある。
ここは蝶屋敷、蟲柱胡蝶しのぶの私邸兼怪我をした隊士たちの療養先として存在する。
鬼殺隊士、竈門炭治郎はこれから向かう任務の調整のため蝶屋敷を訪れていた。
——突然だが、炭治郎は今、とても悩んでいる。
尊敬する柱の一人、炎柱煉獄杏寿郎から気持ちを伝えられたのは最近のこと。
「俺は君が好きだ」
自分にとってはいつだって「煉獄杏寿郎」は特別な存在だった。
尊敬する柱。追いかけても追いかけても追いつけない大きな背中に、いつしか俺は憧れ以上のものを抱いていた。しかし、自分は彼にとっては鬼殺隊士の一人にすぎない。特別な存在には決してなれない。想いを伝える気などなかった。迷惑を掛けたくない。拒絶されたくない——日に日に膨らむ想いに蓋をしてきた。それなのに。
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