懐かない犬の話.
犬を拾った。焦茶の毛と、長い手足と、神経質そうな目をした、まだ若い犬だ。いや、拾ったというのは正しくない。
「きみ、デッドプール……ウェイド・ウィルソンだよね?あのさ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
そう言って、突然胸ぐらを掴まれたんだ。しかも街中で。誰にだって?犬にだ。最近の犬は怖いな。
「実は今、追われてるんだ。しばらく匿ってくれないかな」
「はあ?あんた誰?なーんで俺が?俺ちゃん久々の休みで、今からタコス食いに行くんですけ……どぉっ!?」
へっと鼻で笑った瞬間、足が地面から浮いた。なんて馬鹿力な犬だ。装備込み百キロ弱の俺の首をひょろ長い腕で絞め上げながら、犬はにっこり笑った。
「一昨日、この近くのアパートの屋根、踏み抜いたでしょ」
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