自販機前にて「あれ、織田さん、休憩ですか」
俺の上司である織田誠は、いつもカフェオレを飲む。俺は知っている。本当は彼がピルクルとかの方が好きだということを。そして、でもなんかかっこつかないって理由でカフェオレを飲んでることを。
「ん、おつかれ。あんまパソコンばっか見てると疲れんだよなあ。」
「昔はドラマとかで刑事さんは手書きでメモして、資料なんかも手書きっぽかったですけどね。」
「時代だよなあ。なんにせよ、上の方たちには早くパソコン覚えてもらいてえよ。打ち込み要員じゃないんだぞ俺たちは。」
クーッと軽い調子で言う織田さんを横目に、俺は自販機に小銭を入れ、ピルクルを買った。織田さんは、あ、と言ってフッと笑う。おそらく、子供っぽいモン飲んでんなあとか思ってるんだろう。本当に好きなのは自分のくせにさ。
「ひとくちいります?」
言い返したい気持ちを抑え、努めて冷静に返す。
「……うん」
少し逡巡したのか少しの間を置いて返事があった。そして素直に俺が差し出したピルクルを受け取る。彼は顔が良く人が良いため女の子のファンが非常に多い男だが、一体その中の誰がこの一面を知っているのかと思うと、自分でもよくわからない優越感があった。そのまま、彼を見ていると、ごく自然に俺が少し飲んだ後の瓶に口をつけた。俺も彼も運動部に染まった人間だから、ごく自然に、とあえて考える方が不自然なのだが、何故だかそれが特別なことのように思えたのだ。
「えっ!ちょっと!」
気がつくと、彼は、グビグビと躊躇いなく一気飲みしていた。そして、プハーッ!とまるでビールのCMのように息を吐いた。
「あんたのひとくちどうなってるんですか…」
「なんかボーッとしてたから、いけるかと思って」
変に意識していたことが丸わかりだったのが気まずくて言葉に一瞬詰まる。本当は文句の1つでも言うのが自然だろうに、何も言えず、彼がこっちやるよ、と渡してきたまだ大分残っているカフェオレを受け取ることしかできなかった。ちなみに、俺はピルクルよりはカフェオレのが好きだ。
「冷たくないし…」
渡されたぬるいカフェオレをぐいっと一気にあおり、わけのわからない気持ちと一緒に飲み込んだ。