坊メ鯉月「海がみたい」
突拍子もない自分の言葉に目の前の男が顔をしかめる。
「分かりました。行きましょう」
お前はいつもそうだ。
鯉登グループの次男坊である私に、お見合いの話が来た。親からの紹介の相手。グループ拡大。政略結婚。頭をぐるぐると巡った言葉のはしっこにあったのは、私のお付メイドの男、月島基のことであった。
月島は私が8歳の頃に雇われたメイドだ。その頃の私はきかんたれで、いつも周囲にわがままを言って困らせていた。この人がお前専用のメイドだと紹介された時の衝撃と言ったら。メイドとは女がやるものでは?この坊主頭はなんだ?様々な疑問が浮かび固まる私に、月島は仏頂面でよろしくお願いします、と声をかけたのだった。
それからはとにかく月島にしごかれた。今まで屋敷内のメイドや執事達は私に強く出なかったのに、悪いことをすれば雷が落ち、時にはゲンコツも落ち、幼い頃の私は顔をしかめて月島を睨んでいた。
1924