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    Lioia Toya

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    Lioia Toya

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    言葉もたらず、心にもあらず
    レオアズ 甘 捏造有り 新作ss
    静寂が広がる図書館に一人アズールは読書に励む。向かい席に『誰か』が着席するも、構わず文字を追うのに忙しいアズールのお話。
    アズール受けwebオンリー3rd time『AZUL BLUEに恋をして3』にて展示。

    展示③ 言葉もたらず、心にもあらず

     印字が並ぶページを捲り、左上の空白から始まり右へと滑らせる。
     窓から差し込む日の当たらない席にアズールはいた。ここに腰掛けた理由はとくにない。強いて言うなら利用した棚番から近い席を見つけたから。
     うろ、と目移りしてしまいそうなほど魅力的なタイトルの中から一冊を抜き取って、表紙から続く目次へ、目次から続く字面を三行読み進めたところのめり込んでしまい、今に至る。
     放課後を利用しているため人の出入りはそれなりに。向かい席の椅子が弾かれ、椅子の軋みと人の影に誰かが席を利用したようだ。図書館利用者の気配は感じ取れても、目の前にあるものに集中しているアズールに周りの音など聞こえやしない。
     人の気配がすぐ近くにあっても、要件があって声をかけられるわけでも騒がしくされるわけでもないため、気にすることもなくページを捲る。また左上の空白から文字を読み進めるだけ。
     こつこつと机を叩かれる。癖だろうか、読書中だと言うのに落ち着きのない相席者だ。
     そういえばそんな癖を持つ人物をアズールは一人だけ知っている。学年は一つ上、歳は三つ上の男、レオナだ。彼は意外と読書家で、書物を開くことは珍しいことではなかったりする。一度読み出すと、奥付が印刷されたページを読み終えるまで読み続けるほどの集中力の持ち主だ。集中力が途切れだすと丸く整えた爪と爪でかちんと弾いたり、内容が面白くなかったら机をこつこつ叩いたり、癖というほどではないがそれらしいものを見たことがある。
     手持ち無沙汰に指を擦り合わせたりと指遊びしたり、本に飽きては暇になったり構って欲しい時だとか、側にいるアズールにちょっかいをかけてくる。隣にいるのなら膝を借りて眠ったり、起きているのなら尾が腕にぶら下げたり、離れようとすればくるりと巻き付いたり。正面にいたとすると本を奪ってくるか、不貞腐れた顔して待っているか、寝ているか想像するが、ほとんど彼と過ごす時間はないからあくまでも想像でしかない。机を挟む形で向き合い席についているとするならば、目の前に座っていることを知らせるように足を蹴ったりする。痛みも強さもなく爪先をこつんとぶつける程度だ。
     爪先にぶつかる小さな衝撃、そうそう、こんな風に―――あれ?
     物語を追うために伏せていた顔を上げた。風にあたっているわけでもないのに涼し気な顔が。
    「おや、いつの間に」
    「……いま来た」
    (嘘をつけ)
     恰も来たばかりです、と澄ました顔して着席しているレオナだが、向かい席に人がいる気配を察知してから動いた気配がないため、ずっと向かい席に腰掛けていたことがうかがえる。
    「あなたも読書ですか?」
    「そう見えるか」
    「いいえ?」
     机上には本も何も広げられておらず、過ごしやすい昼寝場所を探すために図書館を利用したか、たまたまアズールを見かけて気まぐれに着席したくらいにしか想像していない。
     席を外すもなく適当な書棚から小難しい一冊を抜き取ることもなく、ただこちらだけを見据える男から目線を下げるように伏せる。見えなくなったら視線がより強くなるが――見えたところで精精ベストが見える程度だ――、アズールは顔を上げなかった。今は口を開いてあれこれ戯れるよりも、文字を追う方がいい。
     こつこつ聞こえる机を叩く音。アンティーク調の机のつるりとした表面を指で叩いているが、静寂が広がる図書館に響かせない、極力抑えられた小さく主張するその音。
     訊ねないのならアズールも訊ねることがない。彼の目的は静かな図書館で書籍を開くこと。要件もないのなら黙黙と文字だけを追っていたい気分なのだ。
     必要ならば「アズール」と「おいタコ」と呼びかけるだろう。本当に用があるのならば、だが。
     ……この男は本当に用があったとしても、他のことに気を取られて忘れてしまうか、わざと暇なふりして訊ねないこともある。隣に腰掛けては『何か御用ですか?』『いや?』と短いやり取りはあるが誰の許可を得るわけもなく、そこに膝という枕があるから頭を乗せただけ。ただこの頃の記憶では本当に別件もあって、『本当に用があったんじゃないか! わざわざ隣を陣取ってまで寝るか、普通!』と一方的な口論が始まるのだが、緊急時でなければすっとぼける節がある。それはやめろと何度も言い聞かせているが、耳を貸すわけもなく苦労している。
    「ふう……」
     あれこれ目前の男について思考していれば集中が途切れてしまった。読んだ分だけ摘んでは適当にスライドさせてみれば、かすかな風圧が起きる程度に読み耽っていた。これ以上ページを捲るには一息が必要だ、と強張った体をほぐすために軽く肩を回す。
     ふと、静かであることに違和感。あれだけ構え構えと強い視線で訴えていた男が静かだ。微動だにしないレオナへ視線をあげると同時に栞を挟む。見えたものは寝顔、よく目にする気持ちよさそうな寝顔だ。視線を少し下げて注目するは口元から覗く赤い舌で。
    「……」
     頬杖突きながら眠ってる、うたた寝だ。頭で船を漕ぐわけでもなく、危なげなく器用に眠っている。鐘が鳴るか、集中力が切れるアズールを待っていたのだろか。その間にうたた寝するレオナは仕舞い忘れた舌に気づいていない。
     じっと見てしまう、安心して緩んでしまっている口元を。
     ―――なんだか、かわいいな。
     そんな素直に浮かんだ思考に何事か、熱でもあるのかと体温を計ろうとする幻聴は置いといて。決して花の恥じらう少女のような可憐を表すものではなくて、どこかだらしなさの見えるどうしようもない愛くるしさに浮かんだ。
     彼に伝わればきっと嫌味と受け止められるだろう。自覚あるしそう考えもしてる。本当にだらしがないなと思いつつ、こうして無防備にもちろりと覗かせている舌から揶揄いの言葉が浮かんでくるものだ。
     鐘が鳴るまで時間もあるし、栞を挟んだだけの書籍の続きはたっぷりとあるが、流し読みしても惹かれる気配もなし。本を閉じ横へ押し遣った。両肘を肘をつき組まれた手の上に顎を乗せ、楽な姿勢で寝顔を眺めることにする。
     その舌、噛んでしまうことはない? うっかり噛んだ日には間抜けだと笑い飛ばそう、そうしよう。
     ずっと出していてはカラカラに乾いてしまわないか? 乾きは人魚の本能的に恐れているから、少しだけ怖い。半分無意識ながら水分はないかと探り、鞄の中に入れてある水筒の存在を思い出した。彼には必要のないものだ。
     妖艶の『ヨ』の字もないだらしなくてかわいい舌をびろんと引っ張ってみたい。稀に見る自身の好奇心にハリセンボンの棘でブスブスと刺激されるも、手を伸ばしたその気配と物音に気づかれかねない。むしろ噛み千切らんばかりに噛まれそうだ。やめておこう。
     そろそろ口元から視線を下げようか、もう少し見てしまおうか。寝顔よりも凝視していたアズールは机を挟んだ向こう側に掛けられた壁時計へ視線を滑らせる。長針と短針の位置を確認すればもうこんな時間かと落胆のため息。
     僅かにずらした視線を再び正面の男に合わせ―――ばちりと開いた瞼。あ。と溢れるよりも先に舌が仕舞われた。微睡みゆえに鋭い眼光を彷徨かせ、隅へ追いやられた閉じられた本、読書姿勢から向き合った体勢のアズールの青い双眸を捉える。
    「……終わったんなら起こせ」
    「起こしたところで怒るのはあなたでしょう?」
     睡眠を妨げることを嫌うレオナは相手がアズールであろうとも嫌がるものは嫌がる。皺を深く刻む眉間も延ばさず「寝かせろ」と背中を向けては「起きろ」と口論するのは日常的なものとなっている。今回は自身の読書時間を寝顔を眺める時間に当てていたが……。
    「お前んところのウツボが探してたぞ」
     それを先に言え。
     大口開いて投げかけた怒号は伸ばされた人差し指によって膨らむ唇を押して強制的に静められる。当てた食指が引っ込むと、彼は。
     図書館ではお静かに。
     人差し指を口元に当ててはにんまり顔。言葉にせずとも伝わってくる。
    「……お教えいただき感謝します」
    「急ぎの用でもないんだとよ」
    「ああ、そう。そうですか」
     中腰から再び着席する。額に血管の浮き出た青筋、引き攣らせた唇、不自然に湛えた笑みはさぞ滑稽だろう。わざわざ声もかけずにうたた寝しながら待っていた理由がどちらかの幼馴染みからの要件だったとは。急ぎの用ではないのならば、幼馴染みのどちらかの空いた時間に部屋へ訪ねることにする。
     荷物は広げていないため、唯一の荷物といえば借りた一冊の本だけだ。その本をレオナに掠め取られた。栞を挟んだページから目次を摘み、抑える指を滑らせぱらぱらと捲る。最後の一枚が降りたところで口を開いた。
    「なんだ、コイツか」
     さいあくの文字で埋まった。
     読んでいたものはミステリー小説だが、手軽に読める簡単な推理小説だ。ビジネス書は毎日のように開いているが、世界を動かす物語はあまり読んだことがなかったアズール。目に付いたタイトルを一冊手に取ったのだが……。
     適当にめくっただけで彼には誰が犯人なのかわかったのだろう。最後の結末まで読まずとも。
    「はあ、もう」
     続きを読むのも萎えた。頭が痛いように顳顬こめかみを揉み、レオナから視線を流すよりも先に閉じられた本が返されるが、もう手に取る気力もない。
    「読まないのか」
    「削がれました。誰かさんのせいでね」
    「それは悪かったな」
     悪そびれることも反省の色もないレオナに不貞腐れた顔してそっぽを向く。席を立つとテーブルを迂回すると隣席までわざわざ移動した。自分は石のように動かず梃子でも動かず、相手を顎を使って動かさせる男が。
     背中を丸め、頭を片腕で支えながら下から覗き込むように頭を傾ける男が上目に見上げる。前髪で綺麗な緑にかかり、緩慢なまたたき。
     向かい席に掛けてからずっと態度に出ていたから、次の台詞はきっとあれだ。本に夢中だったアズールはちっともレオナに向かず、挙げ句の果てには意地の悪い行動を繰り返されたが、気持ちよさそうに寝ながら舌を出していた男である。
     寝ている間は彼を独占するように見ていたが、それはレオナの知らぬこと。「口元が緩んでおりましたよ」とかけた暁には頭突きのように擦り寄られてきそうな。

     ◇ ◇ ◇
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