煉獄さん善の怪盗パロ「A班の方へ行ったぞ!今度こそ逃がすな!」
何だか外が騒がしい…もう十一時なんだけど、まあ良いか、お父様のボディーガードがどうにかするでしょうし
「ふぅ…警察が騒がしいな」
『え?』
声のする方を振り向けばベランダの手すりの上に一人の男が立っていた
身長が高く、金獅子のような髪は毛先だけ赤く染まっている、タキシードのような服は豪華な装飾品が付いているが落ち着いて見えるシックなデザイン、黒の手袋をはめ、仮面を付けていた
「おや?しまったな、ここは寝室だったか…」
『だ…誰か』
少なくとも一般人では無いと思い、人を呼びに行こうとドアノブに手をかけた、しかしドアは開かない
「こら、駄目だろう、俺が捕まってしまう」
『ん、んん』
あの男に手を捕まれ、反対の手で口を塞がれてしまったから
「君はこの邸宅の主の娘だろうか」
『ん!んん、う』
「ははは、これはまた御転婆なお嬢様だな」
男の手を外そうにも男と女の力の差は歴然、一向に外れる気はしない
「そうだな…君を人質にすればここから逃げられるな」
『んん!?ん!』
「安心してくれ!俺の隠れ家でもここと同じ位の暮らしは保証できるぞ!」
何が安心出来るの!?と言いたい、がむしゃらに腕を振り払おうとすると男に後ろを向かされた
『ん!?』
「ほう…これはこれは、綺麗な翡翠色の瞳だな…それに」
顎を捕まれ無理矢理男と目を合わせる形になった、仮面の目の穴から見える目は炎の様で…ガラス玉の様に美しかった
「芯の強い反抗心のある眼だ、それにどこか惹かれるな…」
『あ、貴方は何が目的なんですか…』
「ん?俺の目的なら先程斜向いの邸宅の機密書類を盗むことだ」
『何で、そんなことするんですか』
「君は知らないかもしれないが、御影家は裏で闇金と繋がっている、その悪事の証拠が機密書類だ」
この人はそんなに悪い人ではないの?正体も分からないし何故悪事を暴いているのかも分からない
「さ!お話の時間は終わりだ」
『うわ!』
「君は軽くないか?ちゃんと食事は取っているのか?」
『余計なお世話ですし離して下さい!』
「離せば…ベランダから落ちることになるぞ?」
『うっ…』
横抱きにされたままベランダの手すりの上に乗った男は
「警察諸君!俺は今捕まる気はない!」
「何を言って…細雪嬢!?貴様っ…!」
「ハッハッハッハ!少なくとも彼女に危害を加えることはしない!要は人質だ!俺を撃ちたいのなら先に彼女を撃つことになるぞ!」
『酷…』
「では失礼する!
少々速いが我慢してくれ(小声)」
『え、』
その言葉を最後に男は手すりを蹴った、少々速いなんてものじゃない、速過ぎて意識が飛びそうだ
というか…いつの間にか飛んでいたらしい、気付いたら何処かのベッドの上で寝ていた
『…?…あれ…』
「起きたか!」
目覚めて一番にこの大声は酷い
『え…と…ここは?』
「俺の隠れ家と言っただろう?正確に言うと俺達の隠れ家になるが」
『俺達?』
「ふむ…まあここにいる以上どこかで知ることにはなるか…」
読んでいた本を棚に戻しベッド横の椅子に腰をおろして男が話し始めた
「まず、俺の名前は煉獄杏寿郎、代々悪徳企業の機密を暴いてきた家の出身だ」
『そんな家があるんですか…』
「ああ、そして俺達というのは俺と同じく世の悪事を暴いている者達のこと、ここはその本部だ」
要はとんでもない所に連れてこられたと
「怪盗にも上位の者がいて、俺含め九人の怪盗がいる、その上位の怪盗だけがここへの居住を認められている」
『凄いのか凄くないのか分かりませんが…』
「ハッハッハッハ!まあ直に分かる!世の怪盗は2種類に分けられる、
一つ目は己の私利私欲の為に怪盗になった者、
二つ目は俺達の様に裏の悪事を暴くために盗みを働く者だ」
『じゃあ…良い怪盗さん?ってことですか?』
「良いか悪いかは分からんがそんな所だな」
まだマシだと思えはするが流石にこのままお世話になるわけにもいかない
『あの…私は帰っていいですか?』
「…そうだな…
父親の会社の海外進出の為に何も知らん外国人に嫁いでも構わんのなら帰っても構わん」
『え…』
どういうこと?海外進出?そんな話聞いてない…お父様は隠してたの?
「やはり話していないのか…」
『ど…ういうことですか』
「君に内緒で会社の海外進出、拡大を予定しているようだな、そして相手の会社との繋ぎに君を利用するつもりらしい、証拠の録音ならあるが聞くか?」
『…結構です』
…信じられない、優しかったのに、いつも大切にしてくれたのに
ギュッ
『え!?な、んですか!』
「何ですかと言う割に安心しきって泣いてしまったようだが?」
『え…』
本当に泣いていた、やっぱり信じられなかったから、そして裏切られたのが悲しかったから、この人に抱き締められた時は驚いた、でも暖かかった、幼い頃にお母様に抱き締められたときのことを思い出す
「…君の母上が父上を止めていたんだ」
『お母様が?』
「ああ、会社の為に娘を利用するな、と」
『…お母様』
「ここにいるのは俺の仲間だ、個性的な者ばかりだが、皆何か大切なものを失っている、だから君の心には寄り添えるだろう」
ここまで考えてくれるの?初対面なのに?名前も知らないのに?
『何で貴方はそんなに優しいんですか?』
「優しいか?俺は得に何も考えてなどいないが」
『優しいんです、励ましてくれたり、安心することを言ってくれたり、怪盗さんでも優しい人はいるんですね』
「…っ」
優しい、そんなことは言われたことがない、怪盗であるということに皆囚われ、悪人扱いをする、警察には指名手配され、悪事を暴いたとしても俺達のお陰だとは誰も思わない
しかし、彼女は怪盗を悪人としなかった、優しい怪盗もいると言ってくれた、何より優しく慈しみに溢れた笑顔が何よりも綺麗だった
「はぁ…」
『?』
「とんでもないことになってしまった」
『え…何がですか?』
「ん?いや、なんでもない」
『あ、所でここは住んで良い所なんですか?』
「…君は構わないのか」
『貴方…いえ、煉獄さんは良い人なのでその仲間の方なら安心できます、お父様には失望しましたから!』
「…ぷっ」
『…今笑いませんでした?』
「いや!父上に失望したと堂々と言ったのが面白くてな!」
『何が面白いんですか!』
本当に不思議だな、会ったばかり、そして今名前を教えたばかりなのに
どうしてこんなにも君に惹かれるんだろうか
ここにいることは俺としては好都合だが
急ぐ必要はない
彼女の口から彼女のことを聞きたい
そして
俺へ愛を囁いてほしい