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    柿村こけら

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    柿村こけら

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    α憂太×Ω真希さんのパロディ。0直後くらい。/里香Ω、五条α、他はβ。出てきてないけど直哉や禪院男はα多めだと思う。

    #ゆたまき
    teakettle
    ##呪術

    ゆたまきオメガバースパロ 一目見た瞬間に、嫌というほど身体が理解した。理性で押さえつけようもないそれを、奥歯を噛み締めて必死に殺す。幸い、教室に一歩を踏み入れた彼――乙骨憂太は、呪力のない真希でも解るほどに濃い呪いを纏っていたので、そのお陰で気は紛れたが。
     第二の性別という、染色体とは関係なしに後天的に判明するものがこの世には存在する。アルファ、ベータ、オメガ――そう名付けられたそれは、文字通りの優劣を示すものだった。一番数が多いのがベータで、これは特段優れた点があるわけでも劣る点があるわけでもない。フラットな人間、といえばそれまでだ。対して数えるほどしかいないアルファは才能に秀でた人間が多いとされていて、オメガの方は何かが劣っていることが多い。生来の出来が悪いのは、単にアルファの子供を産みやすくするためのデザインだと揶揄されている。三か月に一度の「発情期」は、周囲に存在するアルファを誘惑して子を成させるためのもの――現代では昔に比べると認識も改まったとは言え、根強い差別が残る場所もある。例えば、真希の実家である禪院家がそのいい例だ。2010年を過ぎても時代錯誤な男尊女卑であるあの家は、女を虐げるのと同じようにオメガ性をも虐げた。呪術師の世界において、呪力が多いほどアルファである確率は高まる。御三家が一角・五条の家に生まれた五条悟がそのいい例だ。特級の位を冠する男はどこまでもアルファだったし、他にも領域展開をモノにしているような術師は大抵アルファ性を授かっていた。
     そんな中で、生まれたときから呪力のなかった真希の第二の性は誰もが予想していた通りのアルファであった。第二の性が発現してからは度重なるヒートに何度苦しんだことか解らない。そんな中で実家を出て、当主を奪い取ると息巻きながら呪術高専に入学して早々に――五条と同等のアルファに会う羽目になるとは思わなかった。
     呪術のいろはも理解しておらず、体術だってからきしの男。どうして憂太がアルファなのかは正直理解できなかったが、オメガである真希には痛いほどよく解る。クラスにオメガがいるにもかかわらず憂太の転入を許した五条には文句の一つでも言ってやりたいところであったが、元より同級生は二人、一学年上の先輩も二人という状況だ。それに万が一のことがあれば五条や家入が間に入ってくれるはずということもあり、真希はひとまず憂太を――自分の天敵に当たるアルファ性を有する男を受け入れた。
     憂太がとびきり嫌な奴であれば、きっとすぐ嫌いになれただろう。しかし生憎、乙骨憂太という人間はどこまでも善人であった。実家にいた男たちと比べるのは彼に失礼過ぎると思うくらい、憂太は真っ直ぐで優しい男だったのだ。最初はビビりながら向かっていた任務も秋が深まる頃には率先して呪霊を祓うようになったし、体術や剣術の訓練も真摯に取り組んでいた。その成長速度は正直言って真希も驚くほどで、「里香」の力を乗せられる分斬り合いになれば憂太の方が有利になるのではないかと思うくらいだ。真面目に里香の呪いを解くために邁進するその姿は、真希の暮らしてきた世界には存在したこともないほど輝いていた。実家の男たちといえば、術式も持たない身でありながら術式を持つ真依を顎で使ったり、訓練と称して体罰をしてきたり、理不尽に暴力を浴びせてきたりするような者ばかりだ。全ての男がそうでないということは、幸いにして五条や棘、秤などと知り合えたことでようやく理解できたが、それでも呪術の世界に身を置いてきた彼らと四月に足を踏み入れたばかりの憂太では少しだけ違うように真希は思えた。その違いがなんなのか、うまく言語化することはできなかったが。


    「……悪い、先に帰る」
    「こんぶ?」
    「野暮用だよ。じゃ、また明日な」
    「しゃけ〜」
    「うん、また明日ね真希さん」
     百鬼夜行での戦いを終え、無事に年を越してから一か月。一年で一番寒い季節だというのに、真希の身体は異常に暑くなっていた。ヒートが近いのだ。真希がオメガであることを知る人間は限られていて、ヒートの期間はいつも五条が「遠征任務中」ということにして説明をしてくれていたのだが、生憎百鬼夜行の後始末だとかで彼はしばらく高専を留守にしている。予定より少し早いヒートに苛つきながら、真希は廊下で立ち止まるとピルケースから薬を二錠取り出した。緩くなった水で喉奥に流し込み、ようやく立ち上がる。家入にヒートが来そうだと伝えてから寮に戻って寝てしまおう。後で棘に風邪っぽいとでも言っておけばきっと彼は察してくれるはずだ。
     保健室に向かって歩き出したところで、ぐらりと身体が揺れる。普段の真希なら有り得ない立ちくらみに、重心が崩れて廊下へと倒れ込んだ。しかしいつまで経っても痛みは訪れず、代わりに背中に触れる手の感触に気付く。
    「真希さん、大丈夫?」
    「……平気だ」
     教室を飛び出してきたのか、憂太が真希の身体を支えていた。飼い主を心配する子犬のような瞳を見ていると、何だか変な気分になる。この男は単身で特級呪詛師の夏油傑を押し退けたほどの実力者であるはずなのに、どうにも身内には情けない顔を見せがちだ。
    「体調悪いなら、僕が家入先生のところまで――」
    「平気だって言ってんだろ!!」
     カッとなって吐き捨てれば、すぐ横で憂太がびくりと肩を震わせた。今更自分に怒鳴られた程度でビビってんじゃねぇ、と言ってやりたいのに、そう告げる元気もない。
     真希は舌打ちを零すと、憂太の身体を押し遣った。近寄るなとでもいうような明確な拒絶に、流石の憂太もそれ以上の言及は控える。
    「……何かあったら言ってね」
     憂太の言葉に小さく頷いてから、真希は弱った身体に鞭打って逃げるように去った。残された憂太を振り返ることもなく、保健室へ走っていく。
     禪院家や知り合いにもアルファ性を持つ者はいたが、番がいようとヒートを迎えたオメガを前にして理性を保つことは難しかった。アルファに向けて放たれる特殊なフェロモンは、時としてベータをも誘惑する。真希は呪力がないこともあってなのか、それが非常に強い方だった。だからヒートの度に家中を逃げ回っていたし、いつだって抑制剤を服用していた。真希のヒートに際して眉一つ動かさなかったアルファは、知っている限りは五条だけだ。彼の術式効果と膨大な呪力によるガードのようなものだと彼は言っていた。裏を返せば、五条と同じかそれ以上の呪力を有していれば、オメガの誘惑を振り払えるということでもある。
     けれど真希は直感的に理解していた。いくら憂太が五条を超える呪力量を有しているとは言え、彼のような繊細なコントロールとオメガに対する抵抗は不可能だろう。それならば何故、彼はヒート寸前の真希に近付いても理性を保っていられるのか――そんなの、決まっている。「運命の番」がもういるからだ。
     アルファにはたった一人のオメガが「運命の番」として生まれてくるのだという。もちろんオメガが先に生まれて運命となるアルファを待つ場合もある。そして運命の番と既に番っているアルファは、他のオメガに誘惑されることはない。もちろん運命の番がすぐ近くにいるとは限らないので、出会える可能性はかなり低いと言われている。恐らくアルファである憂太には、既に番った運命がいたのだ。それが誰かなんて、誰だって知っている。
     祈本里香。
     憂太と結婚の約束をして、11歳という若さで夭折した少女。幼い憂太が無意識に呪い、長い間特級過呪怨霊として憂太の傍で彼を守ってきた、憂太が愛した女の子。
     恐らく里香は第二の性が発現するより前に命を落としただろうから、今となっては彼女が本当にオメガだったかどうかなど確かめる術はない。あくまで真希の予想に過ぎないけれど、それでもきっと、里香こそが憂太の運命の番であるオメガだったのだろうと思うのだ。
     世界中を探せば真希の「運命の番」が見つかるかもしれない。いくらアルファが希少であるとは言え、運命なんて不確かなものに頼らなくてはオメガが生きていかないということはないし、そもそも真希は実家のこともありバース性をも嫌悪していた。アルファやベータに見下される生き方はうんざりだ。ただでさえ男どもに顎で使われていたのに、もう一つの性別でも損をするなんてやっていられない。だから高専に進学して、オメガに偏見のない同級生や教師たちと出会えて本当に良かったと心の底から思っていたのに。
     それなのに――最近はずっと、憂太のことを気にしてばかりだ。
     認められた気になるな、と、自分に言い聞かせた。それでも気が付けば彼を目で追ってしまっているし、里香が本当に彼の運命の番だったのかまで気にしてしまっている。最悪だ、と思いながら舌打ちを零し、真希は保健室のドアを乱暴に開ける。しかし中に硝子の姿はなく、机の上には「外出中。薬は自由に使ってOK」と書かれたメモが置かれている。元々ヒートが近いことを伝えに来ただけだったので、真希は開けたばかりのドアを閉めると今度こそ寮へ向けて歩き出した。先ほど飲み込んだ抑制剤が効いてきたのか、身体はだいぶ軽くなっている。ずっとこの調子であればいいのだが、抑制剤の効果はそう長くない。後はもう、誰も入らない自室に引きこもってヒートの期間をベッドの上で過ごすしかないのだ。
     番がいるオメガであれば、ヒートの期間を正しく使うことができるのだろう。しかし子供を作る気もない真希にとってこの時間はただの拷問に過ぎなかった。オメガの本能なんて知るか、と吐き捨ててベッドに飛び込む。制服を着替えるのも面倒で、明日の自分へ放り投げることにして目を閉じた。体内に篭った熱が真希の身体をぐちゃぐちゃに掻き混ぜて、冷静な判断を失わせる。ヒートのときは余計なことばかり考えてしまうのだ――それこそさっきのように、憂太と里香のことだとか。
     ベッドに飛び込んでからどれくらいの時間が経ったのか解らないが、真希は物音で目を覚ました。汗でびしょ濡れになった制服を鬱陶しく思いながら、ぼんやりと閉め忘れたカーテンの外を見遣る。とっぷりと暗くなった空を確認しながら、とりあえず制服を脱ぎ捨てた。シャツの前も全部開けてしまって、肌に張り付いた下着を変える前に部屋付きのシャワーでも使うかと起き上がる。そこでもう一度、コンコンコン、とノックの音がした。その音でようやく、自分がノックの音で目を覚ましたことを思い出す。
     今寮の女子スペースを使っているのは真希だけだ。三・四年生は不在だし、一つ上の綺羅羅はあの容姿でいて性別は男なので、秤の隣の部屋を使っている。だからこんな時間にノックをするなんて、思い当たる人物といえば硝子くらいだった。五条から何か言われて来たのだろうかと思って、とりあえずボタンをいくつか留めたまま部屋のドアを開ける。
    「スンマセン硝子さん、寝てて……」
    「真希さん、体調平気?」
    「は、」
     フリーズする。
     ドアを開けた先に、お人好しの笑顔が待っていた。憂太の手には山の麓にあるコンビニのビニール袋が下がっていて、中にはパックジュースやらプリンやら色々と詰まっているようだ。真希の視線が袋から憂太の顔に戻った瞬間、ぶわり、と、オメガの本能が牙を剥くのが嫌というほど解ってしまった。目の前のアルファはこの近距離でも気付いていないのか、いつもと変わらない顔をして――いや。
    「ま、真希さんっ、服!」
     なんて、寝起きの真希の姿を見て「普通に」照れている。わたわたと目を隠す憂太を見ているとバカらしくなってきた。抑制剤が切れてこんなにもオメガのフェロモンが垂れ流しになっている中、いつもと変わらない姿を見せる相手にどうして自分が悶々と考え込む羽目になっているのかと嫌気が差してくる。
    「うっせ、寝てて汗かいたんだよ」
     考えるだけ無駄だ。そう割り切って、真希はドアを開け放したまま室内へ戻る。ハンガーからパーカーを外して羽織りながら、ちらりとドアの外を見た。これでいいんだろ、と言わんばかりの視線を受けて、憂太はいつものように――何も知らないまま、部屋の中へ一歩を踏み入れる。
    「あ、ちゃんと学長に入っていいって許可もらったから」
    「おー」
     すぐ近くにいるアルファに反応してか、本能が理性を殺していく。掌に爪を食い込ませながら正気を保ちつつ、真希はのこのこと隣に腰かけてビニール袋の中身を検め始めた憂太を見遣った。一年近く同じ教室に通った「友達」がオメガなんて、彼はまだ知らない。知らないままでいてくれたら良かったのにな、なんて、この状況下では有り得ないことを少しだけ考える。
     ずっと知らないでいて欲しかった。
     本能に負ける姿なんて、見ないで欲しかった。
    「……真希さん?」
     口を閉ざした真希を不審に思ったのか、憂太が顔を上げる。瞬間、彼の丸い目に映り込んだのは――理性が消えている、友達だったはずの少女だった。



    2022.01.08 柿村こけら
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