降谷零の愛情と風見裕也の献身「警視庁公安部、風見裕也です」
その男は、絵に描いた様な真面目な風貌をしていた。
新たな連絡役、これで何度目であろうか。どうせこの男も長くは持たないのだろう。
第二性は言うまでもなくベータ。これまで僕の下に就いた者達は皆総じてベータであった。曰く、連絡役は従順で在らねばならないと誰かが言っていた気がする。
まぁ、そんな事は些末な問題だ。
上の意図がどうであれ、与えられたものであるなら遠慮なく使わせてもらうまでだ。
「身命を賭して任務を遂行する所存です」
実に美しい敬礼の動作だった。本当に絵に描いた様な真面目な男だ。
身命を賭す、と言っていた。だが気概だけではこの仕事は成り立たない。何よりも、まずは実力を証明してもらわなければ。
「風見裕也警部補」
「はい」
「では、これからよろしく頼む」
形式に則り、僕等は握手を交わす。
彼の掌から伝わる熱は、今も生きている確かな証だ。
「……」
幾度となく零れ落ちていったモノ。
いつか、この男も僕の下から去っていく。
妥協はしない。しかし、過度な期待もしない。
何がどうなろうとも、自分の成すべき事は何も変わらないのだから。
* * * *
風見裕也と言う男は、本当にどこまでも真面目な人間だった。
その仕事ぶりは正直に言えば目を見張るものがあった。始めこそ成果にムラがあったものの、それも許容範囲内だ。風見は何も言わぬまま、僕が求めているものを可能な限り正確に用意してくれる。なるほど、この年齢で警部補になるだけの事はある。
(この調子であれば、任せる仕事を増やしてもいいかもしれないな)
自分の身体によく馴染む感覚は、久しく忘れていたものだ。これは良い意味で期待を裏切られたと言っていい。
近く、潜入先を一つ増やす予定だが、この調子であれば特に大きな問題は発生しないだろう。
風見は、どこまでも僕に対して従順だった。
こちらの都合で随分と振り回していた自覚もある。時やタイミングなんてお構いなしだ。必要とわかればすぐに呼び出したりもした。公に出来ない案件の後始末も任せた数はそれ相応だ。
一度だけ詮索に似た質問をされた事があったが、例の組織が絡む事情をいくら連絡役とは言え易々と口に出来るハズもない。僕はそれを真正面から拒絶した。
「出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
風見はすぐに折れた。それからは、風見は何も言わずに処理を任されてくれる様になった。
組織が絡む案件は、どうしても汚れ仕事となってしまう。加えて、僕は事実上名簿から名前を消している身だ。諸々の負担は連絡役である風見が被る事となる。それ故に、警視庁内での風見の評価は両極端だ。
“君が知る必要はない”
あの日、風見の詮索から逃れる為に言い放った言葉。
それでも、風見が僕の傍を離れる事はなかった。
風見の従順さは、献身のそれに似ている。
彼は僕が呼べばすぐに来てくれる。求めた物は過不足なく用意してくれる。怪我をして動けなくなった時は、何も言わずに手当をしてくれた。手に負えない具合の時は足がつかない病院を手配してくれた。
いつしか僕もそれが当たり前の様に思い込み、これまで以上に風見を酷使し続けた。
今にして思えば、何も言わずに付き従ってくれる風見の献身に胡坐をかいていたも同然だったと思う。
風見は確かに優秀だ。
だけど、そうだとしても。彼は決して特別でも何でもない。血の通った一人の人間なんだ。
そんな簡単な事ですら、僕は気づくのが遅くなってしまった。
* * * *
「いらっしゃいませ――あれ、今日は二人だけですか?」
「こんにちは安室さん。今日はここでお昼を食べようって。ね、コナン君」
「うん。おじさん、今お客さんの対応をしてるから」
IOTテロ事件が解決して初めての週末、ランチタイムで相応に賑わっているポアロを訪れたのは蘭さんとコナン君だった。二人を空いているカウンターの席に案内し、まずはお冷を用意する。
あんな事件があった後だが、二人とも元気そうで何よりだ。特に蘭さんには毛利先生の件で深く傷つけてしまった負い目もある。
(……まぁ、それに僕も関与しているとは思いもしないだろうなァ)
僕は裏から指示を出していただけだ。同じ裏側で派手に動いてはいたが、それが表に出てくる事はない。そうなる様に処理されるからだ。
「ね、コナン君は何食べる?」
「うーんと……僕ランチセットにする。梓姉ちゃんのカラスミパスタ」
「それじゃ私も同じもので。後、食後にショートケーキも二つお願いします」
「かしこまりました。梓さん、ランチセット二つお願いします」
「はーい!」
奥でパスタの準備に取りかかる姿を確認して、僕はセットのドリンクを用意する。
(お客さんと言っていたか)
依頼人だろうか? それならお客さんと言う表現は少し違和感がある気もするが……
「蘭姉ちゃん、あの刑事さん大丈夫かな」
「そうだね……前会った時より明らかに顔色が悪かったし、具合が悪かったら仕事も休めばいいのに」
刑事さん、だって? あの口ぶりでは以前にも顔を合わせていて、しかし見知った捜査一課の人間ではないと思われる。
「警察の方が訪問してきたんですか?」
「はい、そうなんです。えぇっと、この前の事件で父を連れて行った刑事さんなんですけど」
ッ! やはり風見か。このタイミングで毛利探偵事務所を訪れたと言うのは、おそらく。
「ただ、以前会った時より明らかに調子が悪そうだったんです。顔色もよくなかったし、目の下の隈もハッキリ残ってて」
「ご飯もちゃんと食べられているのかなって僕は思ったよ。
おじさんは何も言わずに刑事さんを中に入れたんだけど、お話ちゃんとできるのかな」
「……」
そんなに酷い有様なのか。少なくとも、エッジ・オブ・オーシャンで病院の手配をしてもらった時はそこまで……
「……」
でもそれは、ただ単に僕が風見を顧みようとしなかった結果かもしれない。今回の事件の後処理も酷い言い方をすれば全て風見に丸投げしている様なものだ。表立って動けないと言う理由で。
そのおかげで僕の腕の怪我は想定よりも早く快方に向かっていて、こうしてポアロのバイトも滞りなくこなせている。
(風見)
今ならわかる。彼はただ懸命に連絡役を務めていた。僕の声に応える、ただそれだけの為に風見はどれだけのものを犠牲にしてきたのか。少し考えればわかる事だ、僕が今まで風見に任せてきた仕事量は明らかに個人のキャパシティを大きく超えている。本来であれば上司として部下を気にかけるべきであった。
長くは持たない、どうせすぐに離れていく。
心のどこかで燻っていた感情が、そう言った気遣いすら忘れさせてしまったのか。
今回の事件に限った話ではなく、僕はまず上司として部下としての働きを労った事があっただろうか。
「あ、すみません。ちょっと席外します」
蘭さんはポケットから取り出した携帯電話を操作して耳に当てる。通話しながら端の方に移動する背中をどこかぼんやりと眺めてしまっていた。
「ねぇ、安室さん」
「ん?」
蘭さんがいなくなったのを確認してコナン君が口を開く。
「僕はまだ子供だからさ」
「うん、そうだね」
「謎解きは一人でできるかもしれないけど、事件を解決するにはどうしても大人の力を借りなくちゃならない」
それはそうだろう。謎解きに限った話ではなく、一人の力には限界が――
「……コナン君」
「安室さんだって、そうだよね? ちゃんとわかってるんだよね」
「あぁ……あぁ、わかるとも」
まざまざと思い知ったのがついさっき、などとは口が裂けても言えないが。
いつの間にか、風見が傍にいる事が当たり前になっていた。だけど、彼は都合の良い駒なんかでは断じてない。彼は人間だ、心を持った一人の人間なんだ。
ずっとずっと、歯を食いしばって耐え続けていたに違いない。多くの言葉を飲み込み、感情を殺しながら、あらゆるものを犠牲にしてまで風見は僕の為に在り続けてくれた。
いい加減僕自身が認めなければならない。皆が皆、すぐに離れてしまうワケじゃないんだ。
彼は本当に、本当によくやってくれていた。そしてそれは、これから先も変わらない。そんな確信に似た思いが僕の中には確かに存在している。
「コナン君、ちょっといい?」
電話を終えた蘭さんが戻って来る。その顔つきは心配の色が浮かび上がっていた。
「ご飯食べ終わったら買い物に付き合ってくれるかな」
「うん、それはいいんだけど……何かあったの?」
「電話ね、お父さんからだったんだけど。あの刑事さん、やっぱり倒れちゃったみたいなの。熱はそんなに高くないって言ってたけど、目の下の隈が酷すぎるから無理矢理寝かせたんだって。
一晩様子を見るって言ってたから、何か食べさせるとしたら胃に優しいものがいいと思って。だから材料を買いに行かないと」
限界だったのだろう。いや、もしかしたらとっくの昔に超えていたのかもしれない。
大きな事件が解決して、誤認逮捕に対する謝罪訪問――緊張の糸が切れるタイミングとしては実にわかりやすい。
(風見……)
しかし、場所が場所だ。目が覚めたら無理を押してでも出て行こうとするだろう。確かにあまり目立つのは立場上よくないかもしれないが、相手が毛利先生達に限定されるならその限りではなくなる。
であれば、引き留め役が必要だ。誰が、なんて言うまでもない。
「蘭さん、一つ提案があるんですが」
梓さんお手製のカラスミパスタを彼等の目の前に置きながら、僕は安室特有の笑みを浮かべる。
蘭さんの隣に座るコナン君はあからさまに表情を引きつらせていたが、あえて見ないフリをした。
* * * *
「本当にいいのか安室君? ハッキリ言ってタダ働きになるぞ」
「えぇ、構いませんよ。相手が成人男性であれば僕の方が何かと都合も良いでしょうから」
ポアロの勤務を終えて、僕はそのまま二階の毛利探偵事務所に足を運ぶ。
突然の申し出にも関わらず先生はどこか安心した様な顔を見せた。やはり年頃の娘を持つ父親としてはそれなりに心配もあるのだろう。
「それにしても、先生は本当にお優しい人です。自分を誤認逮捕した刑事を突き返すどころか介抱するなんて」
「馬鹿、ンなモンじゃねェよ。目の前で気を失ったんだぞ、久しぶりに肝が冷えたわ。
病院に連れて行く事も考えたが、向こうの立場も考えるとそれも難しい話でな」
元々は警察官だった故か、公安である風見の立場をこの人なりに考慮してくれている。目に見えて酷い状態であったならそうも言っていられなかったのだろうが、その配慮は素直にありがたかった。
「……と、安室君。不躾な質問をして悪ィが、お前さんバース性的にはやっぱりアルファだったりするか?」
「え? あ、はい。仰る通りですが」
「家に上げてから訊くのもアレだが、身体の方は大丈夫か? 何かこう、香ってくるとかそんな事はないか?」
「いえ、問題ありません。キッチンの方から美味しそうな香りはしています」
そう言えば、眠っている風見は微熱程度に熱があると言っていたか。なるほど、毛利先生の懸念は理解した。
風見のバース性はベータだ。連絡役となる条件の一つであるからまず間違いない。オメガのヒートは発情と同時に熱も上がると聞く。その際に放出されるフェロモンは、基本的にはアルファか同属のオメガにしか感知できない。
「俺は女房がいるし蘭はベータだし、ボウズはそもそもバース性が未発達だから仮にアイツがオメガだったとしても問題ないんだが、アルファの安室君が何も感じないんであればヒートの線もないって事でいいよな。
となると、普通に過労でぶっ倒れたか体調崩して風邪でも引いたか、まぁそんなところだろうな」
「そうだったんですか。働き詰めだったんでしょうね」
僕が言えた台詞ではないが、とにかくしばらくは安静にさせた方がいいだろう。
こうして先生の下を訪れたのであれば、事後処理はある程度目処が立っているハズだ。
「悪ィが、寝床はアイツと一緒の部屋になる。布団は事前に用意してあるから遠慮なく使ってくれ。
今、蘭が俺等の分も含めて夕飯の準備をしてるから、それまでは適当にくつろいでくれて構わんぞ」
「わかりました。差し支えなければ彼の様子を見に行っても?」
「まぁ、流石に起きてるかもしれねェか。言うまでもねェがあんま無茶させんるんじゃねェぞ」
「えぇ、それはもちろん心得ています」
倒れてしまった部下に鞭を振るう趣味など持ち合わせてはいないし、第一に僕が無理を言ってここに留まっているのは出来る限り風見の身体を休ませる為なのだから。
「飯が出来たら声をかけるから、すまんがよろしく頼んだぞ」
「はい、任せて下さい」
風見が眠っている客間まで案内してもらい、毛利先生はそれだけ言うとキッチンの方に向かって行った。
僕は一呼吸置いてから扉を軽くノックし、ゆっくりと開く。
「風見」
小声で名前を呼ぶと、布団に横たわっていた風見はゆっくりと目を開く。
「……ッ!?」
風見は弾かれた様に起き上がった。顔色は目に見えて悪く、目元の隈も健在だ。
「馬鹿、急に動く奴があるかっ」
「あ、ぁぁっ……ち、ちが、これは」
「いいから落ち着け。君を咎めるつもりはない」
傍らで膝を突き、まずは風見を落ち着かせる。相当パニックになっているのか呼吸が荒く、両目からは大粒の涙が溢れて、ボロボロと零れている。
「風見」
本当に酷い有様だった。こんな状態になるまで気づかなかったなんて。
堪らなくなった僕は、自然と両腕を伸ばして風見の身体を強く抱きしめた。自分と同じ体格であるハズなのに、驚く程に痩せ細っている。連日の無理が祟った結果なんだろう。
「すまなかった」
「……え?」
「僕は随分と甘えていたんだろうな、君に」
ただ、ありのまま傍にいてくれた君に対して、今思い返してみれば傲慢もいいところだった。
懸命に務めを果たす部下に労いの言葉一つくれず、此方の都合で散々と振り回していた。今回の事件も必要だったとは言え、かなり辛い役目を任せてしまった形となる。
果ては子供の目の前で腕をひねり上げてしまった。半ば想定していた流れだったとは言え、何も知らない彼にしてみれば自信の喪失に繋がってもおかしくない。時間的猶予がなかったと言えばそれまでだが、その後のフォローもまともにしていなかった。
「後処理の方は?」
「は、はい。大体の目処は立っています」
「そうか、ならいい」
そっと頬を撫でてみる。身体がそうである様にここも随分と痩せこけてしまっている。コナン君が心配していた通り、満足な食事も摂れていなかったんだろうな。
「一晩様子を見ると言っていた。今は彼等の厚意に甘えておけ。
当分の間、君は身体の休息に専念するんだ。いいな」
しかし、風見はいやいやと首を横に振る。ここまで来ると強迫概念染みたものを感じるな。
もしかしたら、僕が思っている以上のプレッシャーもあったのだろうか。考えてみれば、その辺りの事情も考えた事が――いや、知ろうともしなかったと言う方が正しいか。
「いいか、風見。僕は君を外すつもりはない。この意味がわかるなら、君が最優先でやらなければならない事も言わずとも理解できるだろう?
確かに始めは“どうせ長くは持たない”と決めつけていた。扱いはお世辞にも良いとは言えなかった」
「……」
「だけど、君は今も僕の傍にいてくれている。僕の要求に君は全力で応えてくれている。それは間違いなく君の力だ。君が僕を変えてくれたんだよ、風見」
僕の腕の中で風見は声を押し殺して泣いていた。震えている身体を僕も強く抱きしめる。
風見は生きている。思えば彼だけは零れ落ちないでいてくれた。決して無傷ではなかったとしても、風見は必ず僕の下に戻ってきてくれていた。
「なぁ、風見。僕は君が良いんだ。お願いだから、これ以上自分を蔑ろにしないでくれ。
僕の為を思うなら、君には万全の状態でいてもらわないといけないからな」
「……ふるや、さん」
「風見、今まで本当によくやってくれた。今回の事件もそうだ、僕は随分と助けられていたよ」
「う、ぅぁっ……ひ、ぐっ……」
風見が今まで抑制してきたものを涙と共に吐き出させる。
僕が遂行する任務の全てを明かす事は未だできないけれど、これからも風見を部下として据えるのであれば僕自身ももっと変わっていかなければならない。
秘匿された関係とは言え、そこには相応の信頼関係がなければいつか瓦解してしまう。今回の事で僕なりにそれを思い知ったつもりだ。
コンコン。
扉をノックする音がした。風見は両手で口を押えて縮こまってしまう。そんなに怯えなくても誰も取って食ったりしないよ。
「はい、どうしました?」
代わりに僕が応対する。風見の状態は彼等も知るところだし、別に違和感はないだろう。
「安室さん、ご飯ができたよ。刑事さんの分もあるんだけど、食べられそうかな?」
「あぁ、ちょっと待っててくれるかい」
未だに僕の腕の中で緊張している風見の頬をちょいちょい、と突く。それならに緊張が解れたのか、風見は身体中の力を抜いた。
「風見、食事を用意してくれたと言っている。食べられそうか?」
「え、あ、あの……そこまで世話になるワケには……」
きゅるるるる。
風見の言葉とは裏腹に身体は切実に空腹を訴えていた。本人は顔を真っ赤にして俯いてしまうが、僕は堪え切れずに少し吹き出してしまった。何だ、意外と可愛いおねだりが出来るんじゃないか。
「コナン君。食欲は問題なさそうだからありがたく頂戴するよ」
「そっか、よかった。安室さんの分もあるから食べていってよね」
「ありがとう。食事を運ぶのは僕がやるから先に行ってくれるかい」
「うん、わかった。待ってるからね」
パタパタ、と小さな足音が離れていく。そう言う事なら、僕もご相伴にあずからせてもらおうかな。
さぁ風見。まずは食って、ゆっくり眠って、少しずつ身体の調子を取り戻していくぞ。
だからもう、そんな顔をするな。さっきも言っただろう? 君が僕を変えてくれたんだ、僕もそれに全力で応えなくてどうする。
「降谷さん」
「うん?」
「……ありがとう、ございます」
涙目であったが、風見の表情はとても柔らかかった。
初めて見る部下の素面は、これ以上なく僕の感情を揺さぶってくれる。公安と言う鉄の仮面で隠されていたモノは、僕の想像を遙かに超えて――
「降谷さん、どうしましたか?」
「あ、いや……すまん、何でもないんだ。すぐに戻るから大人しくしていろよ」
早口で一方的に言い、素早く扉を開いて外に出る。心臓は結構な早さで鼓動を刻んでいた。
「……」
そうか、君は。あんな顔も出来るんだな。
きっと、アレが本来在るべき姿なんだろう。そう考えたら、改めて堪らない気持ちになる。
“美味しいです、降谷さん”
一瞬だけ、自分のこしらえた料理を頬張る風見の姿を想像した。
ジワリジワリ、と染み出てくる欲求は、確実に僕の心に根を生やしていく。
知りたい、もっと。風見裕也と言う人間を、僕は知ってみたい。
それもまた―――綺麗かどうかは別として――紛れもなく僕自身の感情そのものであった。
※完成次第、支部に載せます。