冬の宣誓 都内に比べると杜王町の冬は寒い。秋口から気温の低さは感じていて、今年はかなり早い時期からコートを着始めた。
ちょうど始めて冬物のコートを羽織った日に、ぼくの家を東方仗助が訪ねてきた。また金でも無心に着たのだろう。あの時の借りを返してやる為に、ぼくは仗助を家に上げてしまった。我ながらとんでもなく迂闊だったと思う。
もてなす気なんてなかったのだが、ぼく自身が屋外で話したくなかったのだ。なにせコートが必要なくらい寒い。風邪でも引いたら仕事に支障が出てしまう。
だが、仗助をリビングに入れるのもおかしな気がして玄関で話を聞くことにした。ひとまず風はないし、外に比べればそれなりに暖かい。仗助相手ならちょうどいいだろう。
「なんだよ」
「突然すいません、その……」
仗助はそこで言葉を切ってから意を決したように口を開いた。
「好きです。露伴先生のこと。俺と付き合ってください」
「断る」
ぼくがそう即答したのに、仗助はへらっと笑みを浮かべる。
「やっぱ、そーなっちゃいますよね」
「ガキと恋愛ごっこする暇はない」
こいつの好意には薄々気付いていた。以前は突っかかってきたところがほぼなくなっている。ぼくが吹っ掛ければ喧嘩を買うこともあるが、自分からは仕掛けてこなくなった。
それと、視線に込められる熱が露骨すぎるのである。だが、動かないなら放っておこうと決めていた。
「平気っス、めちゃくちゃ振られるシミュレーションしてきたんで。まあ、やっぱ悲しいけど仕方ない」
「用事ってのはそれだけか?」
「あ、いや違います」
そこで仗助はスッとぼくの手を取った。あまりに自然な仕草に面食らって反応が鈍る。
「全然諦める気ないんで。これからあんたのこと口説くから覚悟してください」
とどめだと言わんばかりに、ぼくの手の甲にキスをした。なんだこいつ。漫画を読まないくせに、少女漫画の王子役みたいなことをするじゃないか。
「いくら口説かれても変わらないよ」
「落とすまで口説くんで変わると思いますよ」
不敵な笑みを浮かべた仗助は、最後にぼくの手をぎゅっと力を込めて握ってから「じゃあ」と出ていった。
「くそ」
あんなに絵になるキスを、ぼくは見たことがない。振られたくせに自信満々で帰りやがって。内心がどうであれ、あの顔をこの状況で出来るってのが恐ろしい。
これからぼくは口説かれるんだろう。それを宣言されのだ。あんなの、愛の告白じゃなくて宣戦布告である。
「あーあ」
とりあえず、右手がさっきの仗助を描きたがっている。それを実現するために、ぼくは仕事場へ向かう階段を上がった。