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    ひろき

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    ひろき

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    怪談レストラン×あやかしの鏡クロスオーバー
    ⚠️色々間違えてたらすみません
    あやかしの鏡短編集『おそろし箱』の中の「第五箱 代役」を元にしたストーリーです。

    テレビ局で 山桜小学校では、6年生は社会科見学としてクラスごとに色んな職種の現場に行くことになっている。私たちのクラスはとあるテレビ局を見学することになった。全国ネットで放送されている有名なテレビ局ということで、芸能人に会えるんじゃないかとみんな浮き足立っている。あまり興味がないだろうと思っていたショウくんも、意外と楽しみにしているみたいだった。

    「あのテレビ局には、人が消えたりだとか、逆に人が増えていたりだとかっていう噂があるんだ。怖い話を扱う番組もやっているし、何かあるんじゃないかと思ってね」

     ショウくんらしいと言えばらしいけど、そんなことまで知っているのかと驚いた。
     
     一方レイコは、著名なプロデューサーのお眼鏡にかなうようにと、2週間ほど前から徹底的なボディケアに勤しんでいるらしい。最近話題になってきたキッズモデルのサリィちゃんと肩を並べるんだと息巻いていて、その勢いに苦笑いを浮かべるしかできなかった。

     そんなことを思いながらも私はと言うと、テレビ局に行くなんてめったに出来ないことだし、未知の世界だから、今後の小説家という夢の役に立つかもと結構楽しみにしている。

     それぞれが色んな思いを抱えて、ついに社会科見学の日がやってきた。最初は広報担当の人からテレビ局についての簡単な説明と注意事項を受けた後、局内を案内される。一通り見たあとは、事前に決めていたグループに分かれて、色んなエリアを見ていく。壊しちゃいけない機材が沢山あるから、もちろん先生達も一緒に。私の班は、ショウくんとレイコといういつものメンバーに加えて、マリ、ユウマくん、タクマくんがいる。先生は担任であるミチコ先生がついてきてくれた。

    「私、やっぱりドラマの撮影がいい! 今やってるあのドラマ、主演の人がかっこよくてさ〜」

    「マリはミーハーなんだから……。でも、私もドラマは気になるなあ」

    「あらアンコ。ああいう顔が好みなの?」

    「ちょ、レイコ! そういうんじゃないって!」

    「え〜ドラマとかつまんねえよなあ。バラエティだろバラエティ」

    「ユウマくんの言う通りだよ!」

    「はいはいあなた達。もう……見たいところは事前に決めておいてって言ったでしょう。時間的に今ドラマの撮影前だと思うから、そっちから見てきちゃったら?」

     先生の言葉もあって、私たちはドラマ撮影の現場である4階のスタジオに向かうことになった。そこで私は気になったことをショウくんに聞いてみる。

    「ショウくん、前に言ってた噂ってどこのことなの?」

    「詳しくは分からないんだ。テレビ局は中の構造については公言されないことが多いから、具体的な場所まではさすがに僕も分からない」

    「そうなんだ……でも、確かめたいの?」

    「出来ることならね。……でもここで何かあっても助かるか分からないし、なによりテレビ局の人に迷惑がかかるから」

     いつも果敢に噂に足を踏み入れてたショウ君からは意外な言葉だった。でも確かに、いつもみたいに外とか学校とかじゃないし、取り返しのつかないことになっても困るしな……と納得したときだった。

    「あの、すみません。噂ってなんのことですか?」

     後ろから可憐な声が聞こえて振り向くと、センター分けで綺麗なウェーブに巻かれた髪を跳ねさせて、ショウ君と同じくらい背の高い女の子が駆け寄ってきた。キッズモデルのサリィちゃんだ。すごい。テレビで見るよりずっと小顔だし、細いし、可愛い……!

    「え!? あの……」

    「あ、急にごめんなさい! その、もしかして噂って怖い噂のことかなって気になって……」

     サリィちゃんに話しかけられたことに気づいたユウマくんとタクマくんが目をハートにしてるけど、それどころじゃない。

    「噂のことをご存知なんですか?」

     目の前の美少女に全く動揺しない、さすがショウ君。突然芸能人に話しかけられてあたふたしてる私は謎に一歩後ずさってしまう。

    「はい、あの……多分4階の、Aスタジオのことだと思うんです。私、そこで怖い目にあって」

     曰く、撮影前に控え室にいて、見慣れないスタッフに呼ばれAスタジオに向かうと、そこには監督や俳優に扮した異形たちが佇んでおり、追いかけられたという。しばらく走っていると、何故か急に目の前に現れた光を抜けたら、元の場所に戻っていて事なきを得たらしい。確かにとてもゾッとする。しかし、その話ではショウ君が言っていた話と少し噛み合わない。

    「僕が聞いたことがあるのは、人が消えるとか、逆に増えるといった話なんです。実際、消えた側の話は初めて聞きましたね……。」

    「私も、怖い目にあったっていう話はあまり聞いたことがなくて……だからとてもびっくりしたんだけど。もしかして噂ってこれのことじゃ無かったのかな……」

    「いえ、どうやらあなたが消えたというのは本当のようですし、あながち間違いではないのかと。では、もう1つの、人が増えるという話について何か心当たりは?」

    「うーん、あまり……。あ、でも、たまにこのスタッフさんいたっけ? ってなることはあるかもしれない。他のスタッフさんも、同じようなことを呟いてるのは聞いたことがあります。でも、決まってどこでって言うのはなくて。──あっそういえば。さっきの怖い目にあったっていう時、元のスタジオに戻った後、あまり見覚えのないADさんが近くにいました。ただこの話、お祓いをしなかったから起きたんじゃないかって言われてるから、あまり関係ない可能性もあるんだけど……」

     まるで探偵の尋問のような会話は、サリィちゃんからの大きな収穫を残して終わった。ファンサービスの良いサリィちゃんは、私達全員にサインを書いて次の現場へと去っていった。


    「4階のAスタジオか……」

    「まさか行くんじゃないでしょうね?」

     ショウ君の呟きに、レイコが鋭く反応する。ショウ君は、意味ありげに口角をあげた。


     ドラマ撮影の見学が終わった。カメラマンさんや監督などのスタッフが、いかに効率良くそして雰囲気良く仕事を進めているのかが分かって、あまりの凄さにじっと見ることしかできなかった。この撮影にはあのサリィちゃんもいて、さっきのとても人の良い柔らかい雰囲気から、一風変わって活発なスポーツ少女になったのには全員驚いていた。やっぱり芸能人って凄いんだな……。スタッフさんが片付けをしているのを遠くから眺めていると、サリィちゃんが近付いてきた。

    「撮影、どうでしたか?」

    「あの、凄かったです! 雰囲気もガラッと変わってて、セリフも全然つっかえないし……」

    「ありがとうございます! 同年代の子から言って貰えることってあまりないから、とっても嬉しい」


     笑顔がとても眩しい。改めてこちらからお礼を言うと、名前を教えて欲しいと言われたので伝えると、友達ねと言って手を差し伸べられたので、握手を交わした。その後サリィちゃんは、メイクを落とすと言って現場を去っていった。
     
     全員なかば放心状態のまま、じゃあ次はどこに行こうかという話になった。ユウマ君希望のバラエティは生憎やってなかったので、本来は番組出演者が使うという空いている楽屋を見学しようと話が進んだ。楽屋は7階になる。本来はエレベーターで行きたいが、スタッフさんたちを優先ということで階段を使うのが今回の社会科見学での学校が決めたルールだ。
     
     問題なのは、階段の場所。なんとAスタジオの前を通らないと辿り着けないという。さっきの話を聞いたマリやユウマくんは、「絶対嫌だ!」とエレベーターに向かおうとする。ミチコ先生は、渋々ながら、ルールだからと階段で行くよう諭す。そんな中レイコは。

    「馬鹿馬鹿しい。彼女の体験のたかだか1回でしょう。そんなに怖がることはないわ。早く行きましょう」

     と拳を固く握りしめ、先陣を切った。1人で行かせるのは危ないと思った先生や、それに釣られた私とショウ君以外の3人はそれについて行く。私達は、顔を見合わせて呆れた顔をしながら後ろを歩く。

     それにしても廊下は少し薄暗い。どこも明るかった局内では少し異質で、「出る」と言われたら確かに出そうだ。なんだか怖くなってきた。ショウ君は相変わらずビデオカメラを……構えていない。あれ? と思って聞くと、「許可のない撮影は禁止だって」だそう。変なところで真面目だなあ。そこは守るんだ。
     恐る恐る足を進めていると、ついに突き当たりのAスタジオの前に着いた。雰囲気の割には寒気があるわけでもなく、もちろん怪奇現象など起こらず、みんなほっとした様子だった。レイコが振り返り、私と距離を縮めてくる。

    「ほら、言ったじゃない。あんな確証もないくだらない噂、信じる方が無駄なのよ。さあ、行きましょう」

     と言って先に行こうとまた振り返る。すると、前には誰もいなかった。

    「え、あれ……?」

     さっきまで、不安そうにこちらを見るミチコ先生と、マリ、ユウマ君そしてタクマ君がいたはず。なんで? どういうこと? 

    「ねえ、先生たちが消えちゃったよ!?」

     不安になってショウ君を見ると、ある所をじっと見つめていた。そこには、微かに開いたドア。サオリちゃんが言っていた、控え室だ。開いてるドアなんて無かったから、たった今開いたことになる。誰が。しかもおかしいのはそこだけじゃない。なんだかドアノブが異様に錆びているし、ドア全体も薄汚れている。それになんだか、どんどん明かりが暗くなっているような。

    「な、なんで……」
    「先生たちが消えたんじゃない。恐らく、僕たちが消えているんだ」

     おいで。

     ふとそんな声が聞こえた。女の人のような、おじさんのような、色んなものがぐちゃぐちゃに重なった気持ち悪い声。またドアに視線を戻すと、手が、見えるような……。

    「なにが起きてるのよ!?」

     レイコが涙声で訴える。私も泣きたいし、私も知りたい。どうにかしなきゃとは思うけど、恐怖で体がすくんで動かない。……いや、動けない。動かせないんだ、これ。ショウ君にすがりつきたい気持ちでいっぱいだったけど、ギシギシと関節が鳴るだけで、全く動かない。

     おいで。

     もう一度聞こえる。さっきよりも多く、そして大きい声。確実に近づいてきている。そう思っていると、がしりと足首を掴まれる感覚がした。視線だけで足元を見ると、ドアの隙間から黒く煤けた腕が伸びている。距離があるはずなのに、腕の先にあるはずの肩は扉の中だ。

    「あ……ぁ……」

    「いやっなにこれぇ!」

     掴まれた足首が、勝手に控え室へと足を運ばせる。きっとレイコも同じなのだろう。ショウ君は、歯を食いしばって堪えてるけど、そんなのお構い無しに体は動いてしまう。このままどうなってしまうんだろうか。じわりと視界が歪む。

    「だれか、たすけて……っ」

     絞められたような喉から絞り出すように叫ぶ。
     すると、正面から柔らかい風が吹いてきた。

    「悪戯もそこまでだ」

     男性の、少し低く柔らかく、だけども威圧感のある声が廊下に響いた。その瞬間、あのおぞましい声も、引くのを早めていた腕も、ピタリと止まる。
     え、と思い目を開くと、白いシャツにデニムパンツ、そして黒いキャップを目深に被った男性が少し距離を開けて立っていた。覗いている口元は、緩く笑みを浮かべている。

    「まだここに溜まっていたんだな」

     呆れたような声色のあと、男性が指先を振ると、そこから伸びたキラキラした糸のようなものが、腕たちを縛り上げ、そしてそのまま溶けていった。
     その瞬間おどろおどろしい声もやみ、身体も力が抜ける。私たち3人は、放心状態のまま、お互いの顔を見合わせた。するとパタパタと走る音が聞こえる。

    「ちょっと、あなたたち、どこに行ってたの!」

     ミチコ先生だ。マリも心配そうな面持ちで駆け寄ってくる。気づけば周りは、元のテレビ局に戻っていた。まるで夢のような出来事に、そういえばと辺りを見渡す。どれだけ見ても、助けてくれた男性の姿を見つけることは出来なかった。しきりにキョロキョロするものだから、先生から声をかけられる。

    「黒い帽子を被った男の人が助けてくれたんです」

    「お礼を言いたいんですけど……」

     レイコと私で訴えても、周りはピンと来ていないようだった。その中、心配してくれたのだろう、サリィちゃんが声をあげる。

    「もしかして、若い男の人かしら。ほら、私も前に、助けてもらったって話したじゃない。その時も、お礼を言いたかったんだけど、そんな人はいないって言われちゃって……」

     その話に、また顔を見合わせる。確かに、普通の人ではなさそうな、そんな雰囲気があの人にはあった。でも、助けてくれたのだからきっと悪い人ではないのだろう。
     ミチコ先生にはこっぴどく叱られ、スタッフの人からも優しく注意を受けた。肩を落として歩いていると、ショウ君から肩を叩かれる。

    「アンコ、背中になにかついてるよ」

    「え、なに!」

     ショウ君が細い指でなにかをつまみ上げる。それは、キラキラしてとても細い、糸のようなものだった。あの時男の人から伸びていたやつみたいな。

    「これ、蜘蛛の糸じゃない?」

    「え、蜘蛛?」

     蜘蛛の巣に引っかかった覚えなどないので、やっぱり、あの時についたものなのだろうか。

    「土蜘蛛……」

     ショウ君がポツリと呟く。

    「土蜘蛛?」

    「京都の葛城にいたとされる大妖怪さ。色んな伝説があって、とても力の強い妖怪と言われているんだ」

    「でも、そんな強そうな感じには見えなかったし、そもそも、人間……だったよね?」

     不安げに顔を見ると、ショウ君は考えこんでしまった。その話を聞いたレイコが口を挟む。

    「幽霊とか妖怪とか、いるわけないでしょう。さっさと行くわよ」

     頭にモヤモヤが残ったまま、その場を後にする。廊下の奥で、キラキラとなにかが舞ったような気がした。
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