デジャヴコトの後に身を清めるのはいつもヅラが先だ。
あいつは変に潔癖だし、負担が大きい方の立場だし、注がれたものも早く出さなければよくないからなんだ と、
勝手に解釈して、別に文句もないし それ以上気にしたことは無かった。
疲れていたのだろうかその日は一通りの行為を終えて呼吸を整えているうちにヅラの奴は眠ってしまっていた。
ちょっと久々だったし銀さん頑張っちゃったし?いやーそんなにすごかったかな、悪ィ悪ィ。
微かに差し込む月明りが、整った顔立ちを照らしている。あぁコイツ、黙ってればほんとーに美人だわ。
妬ましい程真っ直ぐで黒い髪は今は少し乱れ、汗で頬や首筋に張り付いている。
「ヅラぁ、風呂入んねーのぉ?」
語りかけるが、返事は無い。
「マジ寝かよ。」
無視されたことへの少々の不満と、珍しいなという関心。とにかくコイツは寝てる。起きない。俺も疲れてるし汗だの汁だのまみれてる。というわけで風呂に入ろう。たまには俺が先でもいーっしょ?
音を立てないようにそっと布団から抜け出した。
このときなにかデジャヴのようなものを感じたが、思い出せなかった。
温いお湯を浴びながら、先ほどまでの痕跡を見つめてついニヤリとする。新八も神楽もいない日に桂が尋ねて来てくれたのは幸運だった。意外とこういう「絶好のシチュエーション」は多い。アイツわかっててやってんじゃねぇの?俺と二人で泊まれる日を狙って来てるとか。情報網は広いから、ウチの家族員の動きなんて見透かされているのかもしれない。おー怖!
脱衣所で濡れた身体を拭いていると、向こうからドタバタと物音が聞こえた。
(……まさか強盗とか?)
残念だなァ強盗さんよ、自慢じゃないがウチに金目の物は一切無い!あるのはいちご牛乳と、あと明日の朝玉子かけご飯にしようと思ってた生卵くらいで冷蔵庫も空っぽだ。また新八に怒られるなコレ…
ってか、ヅラは
普段だったら逆に強盗の身の心配をした方がよさそうだが、今は疲弊しきって無防備である。そんな時に襲われたりしたら…というか、あんな姿のヅラを俺以外に見られるなんて耐えられねぇ!
焦って、タオル一枚巻いただけのまま、脱衣所を勢いよく飛び出した。
と、すぐそこに、息を切らしたヅラが立っていた。
髪を乱したまま思いつめたような表情をしていたヅラは、俺に気がつくと力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
「おいヅラどうしたんだよ!」
「づら じゃ ない…」
思わず駆け寄る。いつもの台詞も弱弱しく、今にも泣き出しそうにさえ見えた。
「ちょ、強盗に何されたの」
俺の胸に顔をうずめて精一杯擦り寄ってくる桂は、着物にとりあえず袖だけ通して、まともに帯も締めてない格好だった。…ちがう、強盗なんかじゃない。あの物音は、ヅラが部屋を駆け回ったものだったのだ。一体どうして?こいつは、ちょっとやそっとのことで乱れる奴じゃない。
「よ かっ た」
「あ?」
「いなく なったか と」
震える声がそう言った。
心臓が 貫かれたような痛みを感じた。
ああ
そうだ、布団から抜け出した時の感覚は…あの状況は、もう何年も前、攘夷戦争が終わり、桂を置いてひとりで去ったときと似ていたんだ。
「っかやろ……」
どうしようもなくて、ただ力任せに抱きしめた。
もう 離さない。もう二度と手放したりなんかしない。何よりも強くそう思っているのに、心の傷はいまだに彼を苦しめているのか。
「いるから…ここにいるから、大丈夫…」
あの時攘夷を捨てたことを悔やんだりはしない。(後悔するならなおさらこいつが救われない。)
だけど、自分がつけた傷とはいえ、あまりにも…勝手すぎるのはわかっているが、
お願いだから 救われてくれ。
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もう二度とそんなことありえないってわかってるのに、いないとただただ不安で仕方なくなる。
小太郎君は銀さんに置いていかれた事がそうとうトラウマになっています。
2007/5/4