高杉さんちの子と花火何処からか手に入れたそれはそれは大量の花火で、皆夢中で咲かせては大いに盛り上がっていた。
それは永遠に続く宴のようで、煙に目が喉が痛くなるのも構わず ずっとこのまま続けていられたらと思った。
しかし時は経つ。疲れが出始めた面子は、夜も更けたことだしとひとりまたひとりと帰宅し 残ったのはとうとう晋助 小太郎 銀時の三人だけとなった。
「なんだよ皆帰っちまって… まぁいいや、俺達三人だけでもまだやろうぜ!」
晋助は構わずにまた新たな花火を手にとり、二人に手渡そうとする。しかし、二人の反応は期待に沿うものではなかった。
「もういいんじゃね?俺達もそろそろ戻ろうぜ。」
若干ダルそうに言うのは銀時。晋助は驚き、小太郎の方を見やったが 花火を受け取ってはくれなかった。
「なんだよ…花火、やらねぇの?」
唖然とする晋助。
「さんざんやったろ?お前もう何時だと思ってるんだよ。皆帰っちまったし、もうやめにしようや。」
そういって、燃え尽きた花火のゴミと消火用の水を張ったバケツを持ち立ち上がる銀時。
しかし晋助は納得しない。
「嫌だ、まだ花火残ってるじゃねーか。俺は眠くないし疲れてないし飽きてもない、まだ帰らねぇ!」
「テメーがよくても俺は眠いし疲れたし飽きたんだよ。寝ねぇ子は育たねぇぞチビ杉。」
「じゃぁテメーがひとりで帰れよ。なぁ、ヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ。」
「銀時なんか放っとこーぜ。ヅラはまだやるよな、花火」
食い下がる晋助に困ったなぁという顔をしながら、しかし小太郎は流されることはなく
「高杉、これ以上は近所の迷惑になるし 明日に差し支える。残りはまた別の機会にしよう。」
と。
( なんだよ。
あんなに 綺麗だったじゃないか。皆 一緒に 楽しんでたじゃないか。
なんで、やめるなんて。 )
「……じゃぁ もう いい」
「高杉。」
やれやれわかってくれたかと 安堵し 歩き出すもつかの間
「お前ら帰ればいいだろ。俺は 花火 続ける。」
そういって晋助は動かない姿勢を示す。
「あのなぁ、お前アホか!一人で花火なんかしてもつまんねーだろうが」
「でもお前らはもう帰るんだろ。好きにしろよ。」
「花火が嫌なわけではない。日を改めよう、高杉-」
「うるせぇ、帰れよ!」
そうして新しい花火に火をつけると、静かだった周囲が再び光と熱に包まれた。
「たか「もう放っとこーぜ、ヅラ。」
いよいよ付き合いきれないといった銀時は小太郎の手を引いた。
「高杉、一緒に帰ろう」
そういって晋助に伸ばした手は、簡単に 振り払われた。
そうまでされては小太郎にもなす術はなく、二人は晋助を残して帰路に着いた。
「銀時、」
「もう知らねーよ あんな奴。」
「しかしあのまま捨て置いては、あの花火を全部終えるまで帰ってこないぞ。」
二人の足が止まる。銀時ははーとため息をついた。
「あいつは思いつめたら山火事にでもしかねん。」
「そこまで馬鹿なら…殴ってでも止めるしかねぇな。」
アッハッハッハー
突然聞こえてきたのは頭の軽そうな笑い声。辰馬だ。
「おんしら、何をそげに物騒な顔をしちゅー。」
「っせーよバカ本、お前とっとと花火抜けて何やってたんだ」
「わしゃぁ煙たいのが苦手でのー。さ、行くぜよ金時、ヅラ。」
すると辰馬は、何かが入った袋を持った手で、問答無用で二人をひっぱり進みだした。
「おい、どこへ」
「高杉を連れ戻すぜよ。」
*
円筒から絶え間なく噴出す光
晋助は腰をおろしそれを見つめていた。
花火はきれい、花火がすき。
たとえひとりだって それは変わらないはずだ。
「熱ッ」
飛んできた火の粉が腕に当たった。もっと距離を置けば安全なのはわかってる、だけど、自分の自分による自分のためだけの花火から自分が離れたら自分の居場所がなくなってしまう。 いっそもっと火傷したいと思った。それでも自分には この花火しかないのだから。
シュシュシュ…シュー……
円筒が燃え尽きる。光を失い 辺りが無に包まれる。
嫌だ。早く、次を。
花火が楽しいかなんてもう本当はわからなかった。
「お~~おったおった、ほんとにひとりでやっとるがか 寂しいやつじゃの~」
静寂を破るその声は疑いようもなくよく知る人物のもの。驚き、瞬間びくっと肩を震わし振り向けば、そこには先ほど別れた銀時と小太郎もいて。
「…んだよ、無理矢理止めさせにきたってのか?」
どうしても、つっぱってしまう。闇夜にも映える銀髪はいちいちそれに対抗してくれて
「あぁ?寂しくてわんわん泣いてんじゃねーかと思って笑いにきてやったんだよ。」
またも険悪になるのを、辰馬が止める。
「あー止め止めぃ!ほれ高杉、受け取りぃ」
と、辰馬はもっていた袋を晋助に投げる。反射的に受け取って中を見てみれば、それは 線香花火 だった。
「馬ッ鹿お前、止めに来たんじゃねーのかよ!これ以上花火増やしてどーすんだ、これじゃいつまでたっても終わらねぇじゃねーか!」
「だから、これで 終わりにするぜよ 高杉」
なんだそれわけわかんねーよと銀時にどつかれる辰馬はアッハッハとただ鳴るように笑う。
二人のやりとりに唖然とする晋助。
小太郎は、やれやれと息を吐きながら晋助の元へ寄りその手から一本線香花火を抜き出した。
「…だそうだ。花火 まだやりたいのならこっちにしろ。」
そちらの派手な花火は終わりそうにないし、一人では危ないから。
「この線香花火ならば俺達も付き合う。だから、今日はもうこれで終わりにしよう。」
ようやく意図を理解した銀時が、辰馬に絡んでいた手を止めた。
「そういうことじゃ。高杉、よかろう?」
そうして辰馬も線香花火をひとつとり。
「…しゃーねぇなあ。」
頭をわしわしかきながら銀時もそれに続く。
「さぁ、一緒に花火をしよう」
きゅと手を握られて、蝋燭の元へ導かれて。
その手の柔らかな暖かさに 何故か胸が熱くなるのを感じた。
深夜に灯る 仄かな線香花火
先ほどまでひとりで浴びていた光よりも 断然地味で 消え入りそうなのに。その景色は瞳に焼きついて離れなかった。
消えた瞬間はやっぱり悲しかったけども
皆となら、また次があるから。
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180訓の勢いだけで。
そしたら 己なりの攘夷sの関係を濃縮した感じになりました?(訊くな)
最後は希望です。決裂しちゃった銀桂と杉を結び付けられるのは坂しかいないぜよ!
これが子供時代なら坂本がいるのは多分おかしいし、これが攘夷時代だったら高杉がこんなにガキ臭いワガママなのはおかしいなーと思ったんですが、どっちつかずになろうとも 坂本には登場してもらわないと困ると思い、強行しました。
四人が好きだ!
2007/9/27