一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ02「ラギー先輩~。お風呂上がりましたよ~。」
いつもならここで、声が返ってくるはず…なのに。
しーんと静まりかえっていた。
そしてそこには。
「ラギー先輩が…寝てる…。」
ソファで座ったまま寝ているラギー先輩がいた。
今日も今日とて、一緒にお風呂に入りたがるラギー先輩を振り払い、私は先にお風呂に入った。
毎回わざととは分かっているのだが、しゅんと耳を垂れ下げるラギー先輩を見ると、何だか申し訳ない気持ちになる…。
でも、恥ずかしいものは、恥ずかしい。
私とラギー先輩は、NRC在学中からお付き合いを始めて、私が卒業すると同時に一緒に暮らし始めた。
それからしばらく経つけど、ほとんどラギー先輩の方が先に目が覚めているし、寝る時は子どもみたいに寝かしつけられている(何度か抗ってみたけど失敗している)から、寝顔はあまり見たことがない。
聞けば、眠りが浅いのだという。
本当は私の前だけでもいいから、ぐっすり眠って欲しいな…なんて思うのだけど。
だから今のこの状況は、すごく珍しい。
起こさないようにそっと近づいて隣に座り、顔をのぞきこむ。
出会った頃よりもずっと大人の男の人って顔立ちになって…どんどんかっこよくなって。
好きだなぁって気持ちがあふれてくる。
とはいえ、今みたいにすやすやと寝息を立てて眠っているその顔は、なんだかかわいらしくて。
自然と笑みがこぼれてしまう。
…って!いけないいけない!
「ラギー先輩。起きてくださーい。」
こんなところで寝ていたら、風邪をひいてしまう。
確か試合も近いと言っていたから、そんなことになったら大変だ。
そう思って呼びかけてみるけど…返事はなく。
相変わらずすやすやと眠っている。
そればかりか、時おりむにゃむにゃと何かつぶやいていて。
か、かわいいっ…!
って!負けるな!私!!
首をぶんぶん振ってから、拳を握って自分を奮い立たせる。
と、ふと机の上に目がいった。
おそらく仕事の書類だろう。
マジフトの選手といっても、試合や練習以外の時は、普通に仕事をしている。
いわゆるデスクワークというやつで、苦手とか言っていたっけ。
たまにこうやって家でも仕事をしているけれど…真剣なその表情がものすごくかっこよくて見とれてしまう。
…なんてのは本人には内緒だ。
最近は遅くまでマジフトの練習もして、こうやって仕事も持ち帰ってきていて。
きっと疲れがたまっていたんだろう。
だから珍しく、こんなところで寝てしまったのかと思うと…起こすのはかわいそう、かな。
「ラギー…先輩…。」
いつもがんばっているラギー先輩を少しでも癒やせるように。
そう思ったら、自然と手が伸びていて、ラギー先輩の頭を撫でていた。
ふわふわの髪が気持ちいい。
寝てるはずなのに、大きな耳がぴるぴるっと動くのも…なんだかかわいい。
あぁ…大好きだなぁ~なんて。
あれ?私の方が癒やされてる??
ん?というか、耳、動いて…。
「…っ!!」
「もっと撫でてくれていいんスよ。」
もしかして、と思ったときにはすでに遅くて、ラギー先輩に腕を捕まれていた。
ばちっとキレイな青い瞳と視線が合う。
「ラギー先輩っ、起きてたんですか?!」
「んー、途中まで寝てたッスよ。」
「…ちなみに、どこから起きて?」
「んー、お風呂上がりましたよ~のあたりッス。」
「それ最初からですよね?!」
「シシシッ。そーなんスか?寝てたから分からないッスね~。」
あー今!すごい!悪い顔してる!!
その顔も、好きだけど!だけど!
「そんなことより。もっと撫でて。」
「え?」
「ユウくんに撫でられると、癒やされるから。」
そう言ってラギー先輩は、私の手を自分の頭に持っていく。
ちょっとためらったけど…ゆっくりと撫でると、ラギー先輩の喉が鳴った。
なんだかネコみたいだ。
「ん。ありがと。大分癒された。」
「い、いえ…こちらこそ。」
しばらく撫でていると、声をかけられて手を離した。
その言葉通り、ラギー先輩の表情がやわらかくなっている気がする。
少しでも癒やせたのなら嬉しいな。
…なんて思っていると。
「ね、やっぱりもうちょっと癒して欲しいんスけど。」
「え?あ…っ!!」
とんっと体を押されたと思ったら、次の瞬間には目の前にラギー先輩の顔と、その向こうに天井が見えて。
「ラギー先輩、明日も早いんじゃ…。」
「だからッスよ。」
「まっ、待って…ラギー先輩っ」
「こーら。こういう時は、なんて呼ぶんだっけ?…ユウ?」
あ、また…悪い顔してる。
さっきとは違う…少しいじわるな顔。
職場でも部署は違うけれど先輩後輩だからと、未だに「先輩」と呼ぶことを許されてはいる。
でも、こういう…甘い雰囲気になった時は…。
「ラギー…さ、ん…。」
「シシシッ。そろそろ慣れて欲しいんスけど。」
「それは…っ!」
無理です、と言うことが分かっていたかのように。
ラギー…さんは私の頬に手を当てて、親指でそっと唇をなぞる。
逸らそうとした視線も、とろけた瞳に捕らわれて。
ちゅっと優しい音とともに、呼吸も奪われた。
「ね、ユウ…もう1回呼んで?」
「っ……ラギー…さん…。」
「もういっかい。」
「もぅ!…っん。」
啄むようにしていた口づけが、だんだん深くなっていく。
本当にこれで癒やされてくれるのか、なんて分からないけど。
だんだん何も考えられなくなって、私はラギーさんの首に腕を回した。