一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ14「ラギー先輩!好き!だーい好き!」
「はっ?!」
授業も終わり、部活に向かおうとしたところ。
エースくんに無理矢理連行されたオレが、たどり着いた先にいたのは。
「好きです!ラギー先輩!」
「は?!ええっ?」
オレを見るなり飛びいてきて、えへへと笑ったかと思うと。
好き、を連呼するユウくんだった。
普段は恥ずかしがって全然言ってくれないのに…どういうことなのか…。
困惑するオレをよそに、ユウくんはぎゅっと抱きついてじゃれてくる。
ユウくんにしっぽがあったなら、今ぶんぶんと勢いよく揺れていることだろう。
…ほーんと、仔犬みたい。
「えーっと…エースくん。とりあえず、説明してくれる?」
「あはは…。はい…。」
エースくんの話によると。
ユウくんは「好きという感情を隠せなくなる薬」をあびてしまったらしい。
ちなみにグリムくんの姿が見えないと思ったら、クルーウェル先生の説教中、だそうだ。
「効果はあとどれくらい?」
「長くても1時間って言ってました。」
「…1時間なら保健室にでもいてもらえば良かったんじゃないッスか?」
「いや、それが」
「エース!」
急にぬくもりが離れたかと思ったら。
突然、ユウくんはエースくんの方へと向く。
それに少しさみしさを感じていたオレの耳に、衝撃の言葉が届く。
「私、エースのことも好きだよ。」
「なっ!」
「あーはいはい。ありがと。」
動揺するオレの隣で、エースくんは慣れた様子であしらう。
は?ユウくんはオレの彼女でしょ?なのに…。
オレはガマンできずにユウくんにつめよった。
「何なんスか?!いきなり浮気ッスか?!」
両肩を掴んで言うと、ユウくんは目をぱちくりさせ、しゅんとして視線をそらしてしまった。
「浮気じゃないです。エースのことも好きだけど…。」
もじもじとしながら、ユウくんは消えいりそうな声で言う。
それからすぅっと小さく息を吸うと、顔を上げた。
ユウくんの瞳に複雑な表情をしたオレがうつる。
「一番好きなのは、ラギー先輩ですから。」
「!!!」
少し頬をそめながら、それでもしっかりと伝えてきて…そっとオレにすりよってくる。
オレが反射的に抱き寄せると、背中に腕を回して抱きついてきた。
んんー。なにこれ。かわいい。
…すごくかわいい。
「…って感じで、わりと誰にでも好きって言うんで。」
「オレを呼びに来た、ってことッスね。」
好きという感情…だから、それが恋愛であってもなくても、「好き」と言ってしまうということだろう。
ユウくんはお人好しだし、人を嫌うこともしない。
つまり、この学園には、好きな人だらけってことで。
これは厄介な薬ッスね。
まぁ…オレにとっては、だけど。
「エースくん。…いい判断ッス。」
「あざーっす!ってことで。あとは頼んでいいっすか?」
「もちろん。あー、レオナさんに今日は部活休むって伝えて欲しいッス。」
「うぃーっす。じゃ、監督生のことよろしくお願いしまーっす。」
これ以上ユウくんがエースくんに話しかけたら…オレが困るんで。
姿が見えなくなるまで、オレはしっかりとユウくんを抱きしめる。
幸い抵抗されることなく、むしろぎゅっと強く抱きつかれて…不覚にもドキドキした。
はぁ…。あと1時間もこのかわいい生き物と一緒なんて。
…役得ッスね。
「ユウくん。とりあえず…オンボロ寮行こっか。」
「…はいっ!」
ユウくんはいつも以上に人懐こい笑顔で返事をする。
体を離して手を差し出せば、嬉しそうに指を絡めてきた。
「ふふっ。ラギー先輩、大好き。」
「シシシッ。オレもユウくんのこと、好きッスよ。」
「わぁ~!嬉しい!」
そう言ってユウくんは今度は腕をからめてくる。
オンボロ寮までこんな調子で好きと言われたり体をくっつけてきたり。
最短ルートで人も少ないところを通ったからよかったけど…。
こんな状態のユウくん、もう誰にも見せたくないッスね。
オンボロ寮についてからも、しばらくユウくんから好き好き大好きと言葉のシャワーをあびた後。
「あ!私、ラギー先輩と一緒に食べたくて…ドーナツ用意してたんでした!」
持ってきますねと台所へとユウくんは向かっていく。
ちょうど小腹が空いていたし、オレたちは並んで食べることにした。
「んまいっ!」
「ふふっ。良かった。」
ユウくんの絶品ドーナツを食べながら、いつも通りのなんでもない会話をする。
…といっても、いつもは言わない「好き」って言葉をユウくんは連発するし。
なんだか周りに花がでもとんでいるような、幸せオーラを全身で出してくるけど。
それ以外は今日あったできごとだとか、課題のこととか…いたって普通の会話だった。
と、ふと会話が途切れ、視線を感じてオレはユウくんの顔をのぞきこむ。
本日何度目かの、心の底から嬉しそうに笑うユウくんは…やっぱりかわいい。
「私、ドーナツを食べている時のラギー先輩、好きです。」
「…どーも。オレはユウくんの作るドーナツ、好きッスよ。」
「ふふっ。ありがとうございます。」
ユウくんはオレがドーナツ好きなのを知っているからか、徐々にレパートリーを増やしていて。
チョコやナッツ、おからのものやクリームをはさんだものと、いろんなドーナツを作ってくれるけど…どれも絶品で。
そんな中、今日のドーナツは砂糖をまぶしたシンプルなもの。
それなのに、なんだかいつもより甘く感じるのは…気のせいなのか、この雰囲気のせいなのか。
「ラギー先輩。口元についてますよ。」
「ん?」
にこにことしながら、ユウくんが近づいてきた…と思った時には、口の端を指でぬぐわれていて。
そのままユウくんは自分の指をぺろっとなめると、へへっと笑う。
と、ふとその笑い方に照れを隠したような表情がのぞいて。
あー…もう、そろそろッスかね…。
「ユウくん。…そんな風に他の雄にも近づいちゃだめッスよ。」
「?…ラギー先輩にしか、やらない…です。」
「へぇ…。」
急に歯切れの悪くなって、手で口元を覆うユウくんを見て、オレのカン…というか読みが当たっていると確信する。
時計の針の音が、やけに大きく聞こえる。
「どうして?」
「え…?」
「…どうしてオレにしか近づかないんスか?」
「そ、それは…。」
さっきまでのユウくんなら、ここであの言葉を言ってくれるはずだ。
けど、視線をすっとそらして距離をとろうとするユウくんの口からは…あの言葉は出てくる気配はない。
時計の針が重なるカチッという音と、オレが身を乗り出してソファが軋む音がしたのは…ほぼ同時。
「ねぇ…どうして?」
「…っ!」
逃げようとするユウくんをソファの背へ追い詰めて、オレはその小さな耳元でささやく。
ぴくりと反応したユウくんは…やっぱりかわいくて。
顔をのぞき込むと、ぎゅっと閉じた目をゆっくり開いて、ぷくっと頬をふくらませた。
「ラギー先輩の…いじわる…。」
「シシシッ。…もう元に戻っちゃったんスか?」
こくこくとユウくんは頷く。
耳まで真っ赤にして、顔を見られたくないのか、額をオレの肩に押しつけてくる。
…この様子だと、薬が効いている時の記憶もあるみたいッスね。
「好きってたくさん言ってくれるユウくん。すごぉーくかわいかったッスよ。」
「恥ずかしいので…忘れてください…。」
ユウくんはきゅっとオレの制服をつかんでくる。
ちらりと見えた耳が真っ赤になっていて。
かわいいお願いごとだけど…残念。
「だーめ。忘れない。」
「なっ!…んで」
ばっと顔をあげて抗議しようとしたユウくんの唇にそっと指を当てる。
何度かその柔らかい感触を指先で確かめた後、頬を包んで目線を合わせて。
ユウくんの大きな瞳いっぱいに、オレが映ったのを確認する。
「だってユウくん。…オレのこと、好き、でしょ?」
「…っ!それは…その…。」
たとえ魔法薬のせいだったとしても。
…元々好きという感情がなければ、あんなに言わないってことッスよね?
だから…。
「ね…ユウくん…。」
もういっかい、きかせて?