みんなに見守られているエー監シリーズ05今日は9月23日。
私の大事な大事な彼氏、エースの誕生日だ。
なのにやってしまった。
これは…ピンチなのではないだろうか。
「どうしよう…。」
目の前にはぐちゃぐちゃになったケーキ。
確実に時を刻んでいく秒針の音。
そして、絶望する私…。
つい先ほどまで、それはそれは順調にいっていた。
スポンジはいい色に焼き上がった。
生クリームもいつもよりもふんわりと泡だてられた。
飾り付けだっていつも以上に見映えよくできた。
それなのに…どうしてこうなってしまったのか…。
「ユーウ、来たぜ~。」
「…っ!!!」
無情にも鳴り響く呼び鈴。
続けて聞こえたのは…いつもなら待ち望んだ大好きな声。
でも今日は…今この瞬間には聞きたくなかった。
とはいえ、追い返すわけにもいかない。
私はゆっくりと立ち上がって、ドアに向かう。
その間に必死で言い訳を考える。
実はプレゼント用意し忘れちゃって。
…呼んでおいてこれはないか。
用意したんだけど、グリムに食べられちゃって。
…ごめん、グリム。
失敗しちゃってとても見せられないから、また今度ね!
…半分合ってるけど、見抜かれそう。
ああ…もういっそ正直に全て話してしまおうか。
誕生日ケーキを作ったんだけど、運ぶ時に手が滑って落としてしまった、と。
…笑われちゃうかな。怒るかな。…呆れるかな。
ああ…どうしよう…。
「っと。全然出てこないからいないのかと…って、どうしたんだよ?!」
「…エース。」
ああ…もうだめだ…。
エースの顔見たら…こんな風に心配されたら…。
ユウがオレの誕生日に向けて、何かをしようとしてくれているのは分かっていた。
大方、ケーキでも作ってくれようとしているんだろう。
トレイ先輩となにやら話しているのを見かけるのが多くなったし。
グリムからなんか甘い香りがするし。
デュースなんてクリームつけたまま「な、なんでもないぞ!」とか言ってたし。
本人を含めてバレバレなのに、何で気付かないんだろ?ってくらいだったけど…あえて気付かないふりをしていた。
だって…嬉しいじゃん。
かわいい彼女が自分のためにがんばってくれるんだし。
でもオレより先に他のやつが試食したってのは…正直おもしろくなかった。
チェリーパイはオレが好きだって言ったら、何度か作ってくれて食べたことがあったけど…ケーキはオレだって食べたことないのに。
だから、今日という日を…誕生日を楽しみにしていた。
なのに…どうしてこうなったんだろ。
「うわああああん!エースううう!」
「だああああ!もう!分かったから、泣くなって…。」
「うわわああああ!ごめええええん!!!」
…愛しの彼女はオレの腕の中で号泣中だ。
いや、これも…彼氏特権かもしれないけど。
それにしても、今までこんなに泣かれたことなんてない。
…それだけユウも楽しみにしてくれてた、ってことか。
エースちゃんってば、監督生ちゃんからすっごく愛されてるよね。
不意にケイト先輩の言葉がよみがえる。
おそらくユウから映える盛り付けの仕方を教えてと頼まれたんだと思う。
誕生日当日をお楽しみに!とも言われたし。
監督生を泣かせたら、承知しないよ?
今度はリドル寮長の言葉がよみがえる。
あ、やべ…。このままじゃオレ、寮に帰ったら首をはねられる…!!!
それは避けたいし…いつまでもユウの泣き顔を見ているのも避けたい。
ここは…。
「あー…もしかして。祝ってくれようとしてた?」
「ぐすっ…そ…だよ…。エース…今日、誕生日…だし…。」
「オレの誕生日?…今日じゃなくて、明日だけど?」
「えっ?!」
ぐすぐすと鼻をすすっていたユウが、一気に大人しくなる。
びっくりしすぎたのか涙もひいたようで。
パチパチと大きな目で何度もまばたきをして。
「え?あ…明日?!今日じゃなくて…明日だったの??」
今度は焦りはじめた。
きょろきょろと周りを見て…時計なのかカレンダーなのか。
今日、を確認できるものを探す。
それから何度もオレの顔を見ては、なんとも言えない困った顔をする。
…ちょっとやりすぎたか。
「なーんて、ね。」
「え?…ええ??」
「今日だよ。ちゃんと合ってる。覚えててくれて、ありがと。」
ぽんっと頭を撫でると、ユウの瞳がまたじわりと潤み始める。
それがあふれるのなんて一瞬で。
頬を伝った涙をオレは指先でぬぐう。
「けど、ユウがこんなに泣くなら…もう明日でもいいわ。」
「だ、だめ!すぐ…すぐ作り直すから…。」
「ふーん。材料とか、あんの?」
「っ!!…ない、です…。」
ちらりと見えた台所に、空の袋が見えてついつい言ってしまう。
ユウはまた肩を落としてしまって。
あーもー…いじめたいわけじゃないのに。
ただ、祝って欲しいだけなのに…。
「じゃあ、今日も明日も、祝ってよ。あと…来年も。」
「来年も…?」
「そ。できれば、その先も祝って欲しいんだけど。」
いい?なんて聞けば、少しの沈黙の後。
ユウは泣いていたのがウソみたいに満面の笑みでうなずいた。
…ちゃんと意味、分かってんのか?
まぁ、約束はしたってことで。
「さ、そーと決まれば。まずはこれ、片付けますか。」
「あはは…よろしくお願いします…。」
ぐちゃぐちゃになってしまったケーキをふたりで一緒に片付ける。
その途中でユウがふと手を止めて。
視線を感じたオレが顔を上げると。
「エース。誕生日おめでとう。」
ちょうど目が合ったタイミングで言われる。
改めて言われると…すっごくくすぐったいけど。
オレが小さくお礼を言えば、ユウは嬉しそうに笑う。
「えへへ…明日も言うね。」
「明日はもういいって。」
「えー、祝ってって言ったのエースでしょ?」
「だぁーっ!オレが悪かったって!」
結局この後、何度も祝われた。
けど、何度祝われても嬉しくて。
その度に自分のことのように喜ぶユウがかわいくて。
こんな誕生日もアリだなーなんて。
…思ってるうちに寮へ帰るのが遅くなった。
珍しくリドル寮長が見逃してくれたから良かったけど。
次の日。
一緒に材料を買いに行って、作ったケーキは大成功。(危なっかしかったから、運ぶのはオレがやった)
来年も…その先も作って欲しいくらいうまかった。
Happy Birthday Ace