一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ03ボクのお父さんは、ラギー・ブッチ。
ボクのお母さんは、ユウ・ブッチ。
そしてボクには双子の兄さんと姉さんがいる。
ボクはブッチ家の次男坊。
ボクの得意魔法は…変身の魔法!
「いいー?お父さんとお母さんに、くれぐれもよろしくね!」
「うん!」
「変身の魔法、失敗するなよ!」
「うん!」
そして、兄さんと姉さんの得意魔法は…空間転移魔法!
「ニャー!」
成功した…!何もかもが成功した!
兄さんと姉さんの空間転移魔法で、ボクは過去の時空に来ている。
そして、ボクの魔法で今は猫の姿になっている。
目の前には…。
「あれ?猫…?」
(お母さんだ…!!!)
今よりもずっと若い…って言うと怒られちゃうかな?
幼い?お母さんに出会った。
わぁあああ~かわいい!今も自慢のお母さんだけど、昔もこんなにかわいかったんだ…!
ボクは嬉しくて思わずかけよってしまう。
「ふふっ、すごく人懐っこい。かわいい…。」
「ニャーォ…。」
いや、お母さんの方がかわいいよ。絶対。
って言ったんだけど…あれ?動物言語、まだ分からない頃のお母さんなのかな?
ニコニコしながら、ボクを撫でている。
うん…この安心する撫で方…お母さんだ…。
「あっ!そうだ!えっと…。」
突然、何かを思い付いたのか、お母さんはごほんっと咳払いをする。
そして。
「にゃ…ご…にゃぉ…。」
………お母さん、動物言語、下手すぎ。
今のお母さんからは想像もできないくらい、下手だった。
そうか。なら、ボクが言っていることも通じない…か。
「おかしいな…。これじゃ、ラギー先輩に怒られちゃう…。」
「ニャ~っ??!」
ラギー先輩って…もしかして、もしかしなくてもお父さん?!
えっ?!どこ?近くにいるの?!
と思ってキョロキョロしてみるけど…気配はない。
お母さんはしばらくしゅんとしていたけれど、突然頭を振った。
「だめだめっ!ね、もう一度、いい?」
「ニャー!」
「ふふっ、ありがとう。」
あれ?今の通じたのかな??
お母さんはにっこりと笑ってお礼を言う。
ボクはお母さんのこの笑顔が大好き。
がんばれ!お母さん!!ボク、応援してるよ!
「ニャ…ご…にゃぁ~…。」
あ!最初、ちょっとだけ言えてる!
ってか、あれ?これってもしかして…言おうとしてる言葉って…。
「なぁーにしてるんスか?」
「…!ら、ラギー先輩!!」
「ニャ!」
お父さんだー!!!わ、若っ!あと、なんかちょっとチャラい!
…これは言ったら怒られるから心の中にしまって、カギかけとこ。
どこからかともなく現れたお父さんは、お母さんのそばに立つ。
それから、ボクをじーっと見た。
あ、なんか、嫌な予感がする。
「…この猫、初めて見るッスね。」
「そうなんです!すごく人懐っこくて!それに…。」
どこか、ラギー先輩に似てませんか?
なんて能天気にお母さんは言う。
はい、お母さん、大正解!
ボク、お父さんの子だもん!
「そうッスかぁ?…オレはユウくんに似てると思ってたんスけど?」
「ニャー!!」
はい、お父さんも、大正解!
ボク、お母さんの子だもん!
って…しまった!!!ついつい声が出ちゃった!
慌てて口を肉球で塞ぐけど、時すでに遅し。
「へぇ~…。なるほど、ねぇ?」
お父さんの耳がぴるぴるっと動いて、これは確実に聞こえているとみた!
ひぇぇぇぇええええ!!!これ!怒ってる時のお父さんじゃん!
こわいこわいこわい!逃げなきゃ…!!!
「あ!ちょっと!!」
お母さんごめん!男には…走らなきゃいけない時があるんだ!
ボクはお父さんゆずりの駿足で駆け出した。
後ろは振り向かずただひたすら走っていると、いつの間にか光に包まれて…。
「おかえり!」
「無事に帰ってきたな。で…。」
「「どうだった?!」」
気付いたら、現代に戻ってきていた。
双子の兄さんと姉さんがボクを期待した目で見ている。
そう、ボクたちはイタズラを思いついたのだ。
自分たちの得意魔法を使って、過去のお父さんとお母さんに会いに行こう!って。
本当は3人で行きたかったけど…まだまだ未熟なボクたちは、1人を過去に転移させるのが精一杯。1人を変身させるのが精一杯なのだ。
だから、兄さんと姉さんが過去にボクを転移させ、ボクは変身してお父さんとお母さんに近づいたのだった。
「お父さんもお母さんも、すごく若かったよ。」
「それは当たり前だろ。そうじゃなくて。」
「もっと他にあるでしょ!」
「あ、そういえば…。」
お母さんが練習していた言葉。
あれはきっと…。
「お母さん『好き』って言う練習してた。」
「へ?」
「キャーッ!!!」
ボクの言葉に、ちょっとミーハーな姉さんはテンションが一気に上がる。
兄さんはピタッと時が止まったように動かなくなった。
「おーい、メシの時間ッスよ~。」
と、そこへお父さんがボクたちを呼びに来た。
兄さんと姉さんは何事もなかったかのように、はーいと返事をして部屋を出ていってしまった。
ボクは迎えにきたお父さんと一緒に部屋を出る。
「ねぇ、お父さん。」
「ん~?」
そういえばお父さん、あの時よりもがっしりしてるし、背も高いような気がする…。
ゆっくりと先を歩くお父さんに、ボクは思いきって聞いてみた。
「お父さんとお母さん、どっちが先に好きって言ったの?」
あの時のお父さんとお母さんがどんな関係だったかは分からないけど。
お母さんはきっと、あの時にはお父さんのこと好きだったと思う。
だって…すごく、一生懸命だったし、好きって気持ちがこもってたし。
…動物言語は全然うまく言えてなかったけど。
お父さんは目をぱちくりさせると、シシシッと笑う。
それから、ボクにそっと目線を合わせて、ゆっくりと言った。
「それは内緒ッスよ。…子猫くん。」
「??!」
「さぁ~メシメシ~。」
お父さんはボクを…猫みたいに撫でて、それから立ち上がって行ってしまった。
お父さん…まさかあの時、気付いてたんじゃあ…。
どうやらイタズラは…失敗、だったかも。
…お父さんにはかなわないや。