みんなに見守られているエー監シリーズ02ユウがいた世界では、バレンタインデーというものがあるらしい。
なんでも、想いを寄せている人にチョコレートを渡して気持ちを伝える日、だそうだ。
んで、もらった人はその一ヶ月後。ホワイトデーにお返しをする。
先月のバレンタインデーには、ユウから手作りのチョコレートをもらった。
ていねいにラッピングされたその中から出てきたのは、ハートのチョコレート。
「えっと…エースには私のハートをあげたいな~…なんて。」
ユウは真っ赤な顔をしながらつぶやいて、はにかんだように笑う。
それがめちゃくちゃかわいくて。
オレが口に含んでいたチョコレートをのどにつまらせたことは、いい思い出だ。
んで、今日はホワイトデー。
正直この一ヶ月、この日のことで頭がいっぱいだった。
その結果、考えたのが。
「まずはオレの手に、タネも仕掛けもないことを確認して。」
「はぁーい。」
前々から、オレの手品が見てみたいと言っていたことを思い出し、オレはユウに手品をみせることにした。
ユウは指示通り、オレの手に触って何も持っていないことを確認する。
両手でオレの手をとって、ふにふにと感触を確かめたり、つついてみたり…裏返してみたり、指の間も調べてみたり。
あ、ちなみに。他の人にはこんなことさせないから。
ユウはオレの彼女だから、トクベツ。
「っていうか、オレ以外にも同じように言われたら…こうやってベタベタ触るわけ?」
「えっ?!…言われたことないから…分かんないけど…。」
「ふーん。…ま、いいや。もう納得した?」
「うん!大丈夫。何も持ってない。」
ユウはオレから手を離すと、期待のまなざしを向けてくる。
対してオレは、触られた手が熱くて…ドキドキして。
はぁ…調子狂うわ。
けど、ここで手品を失敗したらかっこ悪いし。
さっと頭を切り替える。
「ごほんっ。ではここに、1枚の真っ白な紙があります。これにハートを描いて…。」
「…エース、ハート描くの、上手だね。」
「まぁね。毎朝描いてるし。」
あ、そっか。とばかりにユウはポンっと手を叩く。
多分、オレがハートを描くのが上手いのだとしたら…それは今日のために練習したからなんだけど。
それは黙っておくことにする。
「んで、この紙を丸めて…力を込める、と…。」
「あっ、え?!なくなった…!」
オレが何も持っていない手のひらを見せると、ユウは驚いて目をぱちくりさせる。
それから、まわりとキョロキョロと見回して。
「ど、どこ?どこ行っちゃったの?」
「ふっふっふ。それは…。」
指をパチンっと鳴らして、オレはユウの方を指差す。
ユウは首をかしげてこちらを見てくる。
「ユウ。ポケットの中、見てみて。」
「私のポケット?…あっ!」
ガサゴソとユウが制服のポケットをあさると、そこから丸まった紙が出てくる。
ゆっくりとユウが中を開くと。
「ハート…これ、さっきの!」
「はーい、大成功~。…びっくりした?」
得意気にオレが言うと、ユウは目をキラキラと輝かせる。
なんか子どもみたいだな。
「すごーい!すごいよエース!これどうやったの?」
「ははっ。それはナーイショ。」
ケチー!と言いながらも、ユウはもう一度紙を見る。
描かれているハートを指でなぞって、何かを確かめた後。
「エース、この紙、もらっていい?」
「別にいいけど。…それよりもっといいものやるよ。胸ポケット、見てみて。」
「ん?胸ポケット??」
ユウが不思議な顔をしながら、胸ポケットを探る。
中から出てきたのは。
「ハートの…チョコレート…?」
「そ。それやるよ。」
オレのハート、ね。
オレの言葉に、ユウがみるみるうちに赤くなる。
手品をみせるのもお返しのひとつだけど。
実は本命は、こっち。
「…ちなみに返品不可だから。」
トレイ先輩に教えてもらって、何度も失敗したけど…やっとできた一粒。
ちょっと不格好だけど…気持ちはこめた。
「ふふっ。絶対返さないよ?」
大事そうに両手でオレのチョコを包み、ユウはにっこりと笑う。
「そうして。…オレもユウからもらったのは返さないし。むしろ追加で欲しいくらい。」
「あれ?エース、チョコレート好きなの?それならいつでも作るけど。」
「そーじゃなくて。…こーゆーこと。」
抱き寄せてキスをすれば、ユウも意味が分かったみたいで。
「…ほどほどでお願いします。」
と顔を隠してしまった。
ほどほどなんて、できるわけないんだけど。
ま、いっか。ちょっとずつ、ね。