一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ11「ユウくん。こんなところで何してるんスか?」
教室移動の合間。ラギーは見知った背中を見つけて声をかける。
今日は日差しが強いからか日なたを避け、何かを探しているのかうずくまっているように見えた。
呼びかけに反応してユウは振り向き、ラギーを認識するとにこっと笑った。
もしかしたら体調が悪いのでは…とも思ったが、顔色は良さそうだとラギーは安心する。
「雑用で草むしりをしてるんです。このあたりをきれいにすれば、グリムに高級ツナ缶を買ってあげられるので!」
このあたり、を示すためか、ユウは両腕を広げて説明する。
どうやらここら一帯のようだ。
かなりの広範囲だが…果たして日が暮れるまでに終わるのだろうか、とラギーは思う。
と、もう一つ。気になる点があって。
「そのとった草はどうするんスか?」
「これですか?捨てますけど…?」
ユウの両手にしっかりと握られている草たち。
何の変哲もない、どこにでもあるような草に見える。
草むしりのバイトだから、抜いてしまったらただのゴミ。
もちろん捨てるつもりだとユウが答えると、ラギーはうーんと考え込んだ。
「それならオレに譲ってほしいッス。」
「??いいです、よ…?」
どうしてこんなものが欲しいのだろう?
頭に「?」を浮かべるユウに、ラギーはニヤリと笑って言った。
「それ、毒草なんで。」
「ええっ!?」
ラギーの言葉を聞くなり、手に持っていた草…もとい毒草をぱっと離す。
それはかさっと音をたて、地面へとむなしく落ちていって。
ユウは慌てて手をぱぱっと払い始めた。
その様子を見てラギーは笑う。
「シシシッ。だぁーいじょうぶッスよ。触っても毒はないから。」
「な…なんだ…。」
ひとまず良かった、とユウは胸をなでおろした。
ラギーによると、この草を煮詰めたものに毒があるらしい。
しかも、猛毒。
ただとある薬草を混ぜ合わせれば、保湿力の高い化粧水になるらしく…ポムフィオーレ寮生に高値で売れるそうだ。
化粧水…か…。
ひとしきりラギーの説明を聞いたユウは、ぽつりとつぶやく。
「私も欲しい…な…。」
「ん?」
「その化粧水、私も欲しいです!」
急に元気を取り戻したように、ユウがくいつく。
この世界に来てから、主に金銭的な理由から本当に最小限の肌ケアしかしておらず。
ラギーという恋人がいるにも関わらず…恋する乙女としてどうなのか、と常々思っていたところだった。
「エペルに頼めばもらえるかなぁ?」
真剣に悩み始めたユウをラギーはしばらく見つめる。
そんなこと悩まなくてもいいのに、とラギーは思うが…ユウにとっては重要なことなのだろう。
うーん、でもなー、なんてぶつぶつとつぶやく姿は女の子そのもので、とてもかわいらしく見えた。
「ユウくんには必要ないッスよ。今でも充分キレイだし。」
「そうですか?…さては私を甘やかそうとしてますね?」
「ユウくんのことはいつも甘やかそうとはしてるッスけど。…今は違うッスよ。」
「むぅ。またそんなこと言って…。」
いまいち信用していない様子のユウに、ラギーはゆっくりと近づいた。
不思議そうに見上げたユウに顔を寄せると、ラギーはそのふっくらとした頬にちゅっと唇を落とす。
「………っ!!!」
「ん。やっぱり必要ないッスね。」
するりと肌の感触を手で確かめ、ラギーは甘く微笑んだ。
ユウは目をぱちくりさせて、たちまち顔を真っ赤にさせる。
わなわなと何かを言いかけたユウの唇を、ラギーはそっと塞いで。
「んじゃ、そのとった草は後で取りに来るんで。よろしく~。」
ひらひらと手を振って、ラギーはいなくなってしまった。
ひとり残されたユウはさらに顔を真っ赤にさせ、へなへなと座り込み…草むしりを再開する。
様子を見にグリムたちが来た時には、一面の草をぼんやりした様子で抜いているユウの姿がそこにあったとか。