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    ナンナル

    @nannru122

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    POIPOI 146

    ナンナル

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    ファンタジア。🎪☆前提🎈🌟前回の続き。
    色々ふわーっと読める人向け。

    ム幻のセカイでヨ想もできないギ曲をトモに。1(類side)

    「……ここは、遊園地…?」

    気が付くと、知らない遊園地の中にいた。
    フェニックスワンダーランドとは違うし、セカイの遊園地とも違う。ホラーチックでも、へんてこでも無い、至って普通の遊園地だ。メリーゴーランドやコーヒーカップ、観覧車にジェットコースターと定番の楽しそうな乗り物が色々ある。まさかセカイの鏡に入って、また遊園地が出てくるとは。
    と、そこで二人のことを思い出した。周りを見れば、すぐ近くにえむくんと寧々が倒れている。気を失っているだけのようで安心したけれど、二人が先程と違う格好をしている事に気付いた。

    「……ふむ…先程まで制服だったはずだけれど…、これもセカイの影響かな…?」

    ショーで使う衣装によく似ている。かく言う僕も、どうやら制服ではないようだ。時代劇の衣装にも似ているね。
    とりあえず、二人を起こした方がいいかな。気を失っている二人の肩を揺すれば、えむくんが先に目を覚ました。きょろきょろと周りを見回して、大きな瞳をキラキラとさせ始める。次いで寧々が目を覚ますと、とても驚いたようで、その顔が顰められた。とても二人らしい反応だ。

    「あたしの服、とってもとっても可愛くて動きやすいよー!」
    「…ていうか、なんでわたしだけこんな格好なの? なんか、前にやった人魚姫のショーの時の衣装にそっくりなんだけど…」
    「そうだね。なんというか、衣装の雰囲気がこれだけ違うと、どんなショーになるのか想像もつかないよ」
    「いや、ここでショーなんて絶対にしないから」

    顔を顰める寧々は少し肌寒いのか、自身の手で腕を摩っている。夕方のように少し薄暗いこともあり、陽の光が当たらないから余計に寒いのだろうね。肩にかけていた羽織を脱いで、それを寧々の肩にそっとかける。「ありがとう」と御礼を言ってくれる寧々に「どういたしまして」と返し、もう一度園内を見回した。
    お客さんはいないようで、シンとしている。アトラクションは動いているのだろうか。園内に流れているはずの楽しげな音楽すら聞こえてこない。
    まるで、“誰もいない”かのような、静かで寂しい雰囲気の遊園地だ。

    「ここって、本当に司のセカイなの…?」
    「……まだ分からないけど、少なくとも司くんの想いは多少なりとも反映されているようだよ」
    「ぇ…」
    「あー! 二人とも見てみて! あそこの地面に描いてあるの、司くんの似顔絵じゃないかな〜!?」

    僕が見つけたものを、えむくんも見つけたようだ。
    彼女が指さした先に、司くんによく似た似顔絵が描かれている。どこか見覚えのある星や、虹や太陽の絵も。色とりどりのその絵は、とても可愛らしくて元気のある絵だ。
    近くまで行ってその絵を覗き込めば、えむくんが不思議そうに首を傾げた。

    「この絵、あたしの絵にそっくりな気がする…?」
    「そういえば、えむの描く絵ってこんな感じだよね」
    「……それなら、あのえむくんのそっくりさんが描いたのかな?」
    「おおおおー! それじゃぁ、司くんはここにいるかもしれないね!」

    確かに、えむくんの絵によく似ている。司くんの周りにハートのマークもたくさん描いてあって、なんだかえむくんらしい愛情表現だ。“司くんがいるかもしれない”とにこにこするえむくんの言葉に、僕と寧々も頷いた。
    ただ、この遊園地の中をどう探せばいいか。パッと見ただけでもかなり広いようだけれど…。

    「…いかにもな建物はあるけどね」
    「寧々もそう思うかい?」
    「いや、司らしいっていうか、もうあそこしかない気がする…」
    「ふふ、やっぱり、囚われのお姫様と言えば、お城なのかもしれないね」
    「…一々ツッコまないからね」

    呆れたような顔をする寧々は、分かりやすく溜息を吐いた。
    遊園地の中央に建つ大きなお城。大きなテーマパークなら有り得るお城だけれど、一般的な遊園地にこういう建物は少ないだろう。それがあるということは、いかにもラスボスと思われるような魔法使いと、宝物か囚われのお姫様がいるのが定番というものだ。特に、司くんが好むファンタジーな冒険譚にはよくある展開だろうね。
    僕らの目的は、司くんの奪還だ。分かりやすく連れ去られた司くんは、この“ショー”の言わば“お姫様役”と言ったところだろう。

    「ひとまず、あのお城を目指してみようか」
    「さんせ〜! もしかして、途中でモンスターとかと戦ったりするのかな?!」
    「ぇ、それは面倒いんだけど…」
    「ふふ、ドラゴンと戦ったりもするかもしれないね」

    そうなれば、観客が手に汗握って見守るショーになること間違いないね。
    楽しそうな えむくんとは対照的に、寧々は今にも帰りたそうだ。僕の貸した羽織をしっかり体に羽織って震えている。途中でもう少しまともな上着が見つかればいいのだけれどね。
    そんな寧々に、えむくんが ぎゅ、と抱き着いた。驚く寧々に構わず、ぎゅむぎゅむと力強く抱き締めている。

    「寧々ちゃん、寒かったらあたしにぎゅぎゅぎゅーってしていいからね!」
    「…ありがとう。でも、さすがに動きづらいんだけど」
    「ふふ。とりあえず、建物の中なら暖かいかもしれないし、あのお城に行ってみようか」
    「はーい!」

    こくん、と寧々が頷いたのも確認して、三人で歩き出す。
    抱き締めたままでは歩けないので、寧々と えむくんは手を繋ぐ事にしたようだ。なんだかそれが楽しそうに見えて、僕もえむくんとは反対側から寧々の手を握った。体を出来るだけ三人でくっつければ、それなりに暖かい。寧々の震えも少し落ち着いてきたことに安堵して、おしくらまんじゅうの状態で園内を進んでいく。
    地面には至る所に えむくんの落書きが描き込まれていた。その殆どが司くんの似顔絵と、その周りを彩る絵だ。楽しそうな司くんもいれば、少し寂しそうな顔の司くんもいる。泣いている絵の時は、その隣にえむくんの似顔絵もあった。
    お城へ続く道にあるので自然とその似顔絵を辿るような形になる。三人で一つひとつを見ながら歩いていれば、微かに鼻歌のようなものが聞こえてきた。

    「……この声、誰の声…?」
    「なんだろう? 小さい子の声みたいだけど…」
    「………ちょっと行ってみようか」

    三人で顔を見合わせて、声のする方に足を向けた。
    地面の落書きが、どんどん増えていく。楽しそうに鼻歌を歌うその声がだんだんとはっきり聞こえてくるようになり、近付いているのだとわかった。そうして少し走ると、開けた場所にたどり着いた。休憩スペースなのだろう、ベンチや噴水があって落ち着く場所だ。
    その広場の真ん中に、ちょこんとしゃがみ込む子どもの姿がある。見慣れた金色の髪に、「司くん…?」と思わず声がこぼれた。
    その声で、その子どもがくるりと振り返る。

    「………お兄ちゃんたち、誰…?」

    幼い子どもの声だった。けれど、振り返ったその顔は、確かに司くんの面影がある。宝石のような瞳を丸くさせて、その子が立ち上がった。手に持っているのは、どうやらチョークの様だ。その子どもの足元を見れば、えむくんの絵の側にその子の絵のようなものが描き足されている。

    「……まさか、司…? なんで小さくなってるの…?」
    「…なんで、オレの名前を知っているんだ…?」
    「もしかして司くん、あたし達のことが分からないのかな?」
    「…………とりあえず、彼を連れてカイトさんたちの所へ戻ろうか…」

    一歩踏み込むと、司くんが警戒するように一歩後ろへ下がってしまう。怖がらせないようにしゃがんで、彼に手を差し出した。怪訝そうに顔を顰めた彼は、僕の手をじっと見つめてから、キッ、と僕を睨むように見る。

    「な、なんだ…?! 言っておくが、知らない人にはついて行っちゃいけないから、オレは絶対ついていかないぞ…!」
    「安心しておくれ。僕らは君の仲間だよ。君を迎えに来たんだ」
    「…仲間…?」
    「そうだよ。高校生になった君と、一緒にショーをする仲間なんだ」

    まずはこの警戒心を解かないと。出来るだけ優しくそう伝えれば、彼はパチパチと目を瞬いた。僕の言葉を、よく考えてくれているようだ。ちら、と僕を見て、その彼の視線が寧々やえむくんにも向けられる。
    そうして、彼は小さな声で「そうか」と呟いた。小さなその顔が上に向けられ、意志の強い瞳が僕へ向けられる。

    「つまり、お前たちがえむの言っていた“悪い奴ら”だな!?」
    「…え……」
    「オレを騙そうとしたって、そうはいかないぞ! オレは全て知っているんだからな!」
    「え、待っておくれよ、司くん…?!」

    逃げようと突然走り出した司くんの腕をなんとか掴んで引き止めた。
    まさか、こうなる事を見越して先に“先入観”を植え付けられていたとは…。きっと、見た目に合わせて記憶が退行しているのだろう。そんな彼に、“悪い人”というイメージを持たれてしまっては、彼を助けるどころの話じゃない。
    「離せっ!」と僕の手を振りほどこうとする司くんは、完全に僕を“悪者”だと信じてしまっているようだ。どう弁明すればいいものか。んー、と首を傾けて苦笑すれば、司くんが大きく息を吸い込んだ。

    「えむーっ!! 人攫いだぁあーー!」
    「うっ、…さすが司くん…そんな小さい体でここまで大きな声が出せるなんてね…」

    予想以上に大きな声で叫ばれ、耳がズキズキと痛む。この場合の“えむ”くんは、きっと僕らと一緒にいる、えむくんではなく…。
    ぐぐぐーっと腕を振り解こうとする司くんに、耳だけでなく胸の奥まで痛む気がしてきた。彼の方から、一緒にショーをしようと声をかけてくれた。いつだって、僕らを引っ張るのは座長である司くんで、どんな時でも僕らを信じてくれる人だった。それが、こんな風に拒絶されるようになるなんてね。
    どう信じて貰えばいいかなんて分からないけれど、このままにしておく訳にもいかない。一先ず彼を連れてどこかに隠れなければ…。

    「司くん、少し失礼するよ」
    「ぉわっ…?! な、何をするんだー?!」
    「移動するんだよ。元のセカイに戻れる道があればいいのだけど、僕らもまだこのセカイに来たばかりだし…」
    「……もとの、セカイ…?」

    小さな体を持ち上げて、落とさないようにしっかりと抱える。驚き方まで今の司くんと全く同じで、なんだか面白い。寧々とえむくんが周りを見に行ってくれたけれど、やっぱり出口になりそうなものは見当たらないようだ。鏡から来たということは、帰るにも鏡が必要なのだろう。その鏡がどこにあるのかは分からないけど。
    急に静かになった司くんを不思議に思い顔を覗き込めば、何故か彼は泣きそうな顔をしていた。微かに震える手に気がついて、「司くん…?」と声をかけてみる。
    その泣きそうな顔がさらにくしゃりと歪み、彼は「嫌だ…」と小さく声を零した。

    「っ、…オレは絶対、ここから出ないっ!」
    「ぇ、司くん…?!」
    「嫌だっ、皆とずっとここにいるんだっ!」

    ぼろぼろと泣き出した司くんに、どうしていいか分からなくなってしまった。子どもらしく小さな手で必死に抵抗しようとする彼が、僕の腕の中でまた暴れ出す。落とさないようにしっかりと抱え直し、落ち着かせるために彼を抱き締めた。
    こんなに抵抗されるなんて思わなかった。最後に見た彼は、確かに僕に手を伸ばし、“助けて”と言ってくれていたのに。

    「……司くん、落ち着いておくれ。君がいた元のセカイに帰るだけだから…」
    「行かないっ…! もう一人になるのは嫌だっ! ここでずっと皆と一緒に居たいっ!!」
    「司くん、お願いだから話を……」

    聞いておくれ。そう続けようとして、言葉を切った。「類っ!」と寧々の大きな声に顔を上げれば、えむくんが大ジャンプから着地をするかのように僕の目の前に現れた。
    動きやすそうなオーバーオールには、カラフルな色が所々に付いている。にこ、と笑ったその顔は、紛れもなくえむくんだ。けれど、僕らの知っているえむくんとは違うと分かっているからか、微かにその笑顔が怖いものに見えて背筋に冷たいものが伝い落ちていく。

    「本当に、あたしのそっくりさんだ…」
    『司くん、大丈夫? 迎えに来るのが遅くなっちゃって、ごめんね〜』
    「っ…えむ…」

    ぐす、と鼻をすする司くんが、えむくんのそっくりさんを見て泣き止んだ。小さな両手を伸ばす姿に、つい彼の望みを叶えてあげたくなる。けれど、僕らも彼を助けにここまで来たんだ。今彼を彼女に渡すわけにはいかない。
    司くんを隠すように少し体を横へ向けて、えむくんのそっくりさんを睨むように見る。きょとんとした彼女は、変わらずにこりと微笑んだ。

    『司くん、一緒に帰ろっ! 司くんには、あたしがずーっと傍にいてあげるからね』
    「……ん……」
    『それじゃぁ、ぱぱぱぱーってお片付けしちゃうよ〜っ!』

    小さく頷く司くんを見て、えむくんのそっくりさんが嬉しそうに笑った。彼女が手を横へ伸ばすと、その手に大きなローラーのようなものが現れる。様々な色の着いたそれを両手でしっかりと握ると、彼女はそれを地面につける。くるくると描かれていくカラフルな絵は、えむくんの描くものと告示していた。
    ライオンだろう動物が三体描かれ、腕の中の司くんは目をキラキラとさせてそれを見ている。子どもの心を掴むのが上手い所も、えむくんによく似ているね。
    そんな彼女が片手をローラーから離すと、その手を僕らの方へ向けてくる。

    『さぁ、悪い人たちをやっつけちゃえ〜!!』
    「えぇえええっ?! あたしの描いた絵からライオンさんが出てきちゃったー?!」
    「ちょっと待って、これ逃げないとまずいんじゃないの?!」
    「そのようだねぇ」

    カラフルな絵の具で描かれた絵が光りだし、地面から見慣れたライオンが三体飛び出してきた。えむくんのそっくりさんの言葉通り、三体のライオンが僕らの方へ向かってくる。えむくんが寧々の腕を咄嗟に掴んで走り出した。僕も司くんをしっかりと抱えて強く地面を蹴る。
    無我夢中で走りながら、アトラクションをひたすら避ける。けれど、さすがに動物、それも百獣の王と言われるだけあってライオンの方が移動速度が速い。このままでは追いつかれてしまう。

    「んぇ…?」
    「あっ、司くん!」
    『ふっふーん! 司くんは返してもらったもんね!』
    「えむ…!」

    大きな鳥が、司くんを掴んで飛び立っていく。あっさりと奪われてしまった司くんは、えむくんのそっくりさんに抱えられ、どこか安心しているように見えた。
    司くんがいなくなってしまえば、向こうが手を抜く必要もなくなってしまう。ぐん、と速度を上げたライオンに、距離がどんどん縮まっていく。寧々ももう限界のようで、ふらふらとしている。えむくんがなんとか引っ張ってくれているけれど、このままでは三人とも追いつかれるだろう。

    「る、類くん、どうしよぉおおお!」
    「どうしようねぇ」
    「っ、はぁ、…は、…はぁ……、もっ、…むり……」
    「寧々ちゃんんんんんっ!」

    べしゃ、とその場に崩れた寧々に、えむくんが大きな声で名前を呼んで傍でしゃがみ込む。なんとか立たせようとしてくれているけれど、今の寧々では立てたとしても走れないだろう。アトラクションの中に逃げ込むにしても、そこから逃げ出せなければ袋の鼠だ。
    なら、どうすれば少しでも生存確率を上げられる…?! この状況で、僕が取れる行動とすれば……。
    そこで、はた、と腰に下げられた刀に気付いた。時代劇を思わせる衣装の飾りだと思ったけれど、飾りにしては重すぎる。

    「…っ、…」

    一か八か。鞘からゆっくりと引き抜けば、眩い程に刀身が光る。鏡のように自分の姿を反射させる刀は、以前借りた模造刀とは違うようだ。
    寧々とえむくんの前に立ち、刀を両手で落とさないよう握り締める。本物はこんなにも重たいのか。これを振り回すのは、中々に大変だね。ガリッ、と地面を爪で引っ掻く音がして顔を上げれば、一匹が高く飛び上がった。真っ直ぐこちらへ向かってくるライオンが片手を振り上げるのを見て、思いっきり腕を横に構える。
    腕が振り下ろされるタイミングに合わせて、全力で腕を反対側に振り切った。

    「っ……」

    パシャンッ、とライオンが絵の具に変わって地面に色を付け消える。斬った感触はほとんどない。それでも、目の前で僕らに爪を向けてきた大きな獣が一匹消えた事に安堵した。
    残りの二体が、タイミングを計るようにこちらを伺っている。じりじりと距離を取って僕らを見るその姿は、狩りになれた獣だ。

    (……さっきは無我夢中で振っただけだったけれど、確か、刀が触れなかった所も斬れていたよね…)

    爪を弾くつもりで刀を振ったけれど、確かに本体も斬れていた。ここは現実世界ではないのだから、向こうが絵を具現化させられるのなら、こちらにも多少なりともセカイの恩恵があるかもしれない。それに、こういうのは、“司くんが”好みそうだ。
    ふぅ、と細く息を吐いて、ゆっくりと吸い込む。刀を真っ直ぐに構えて、二匹いるライオンの片方へ向き直った。静かに両手を上げ、一度目を瞑った。
    瞼の裏に、数日前に四人で笑った時の司くんの顔が浮かぶ。

    (絶対に、助けるから)

    そう心の中で彼に宣言して、ぐっ、と刀の柄を強く握った。よくアニメや物語で見るようなものをイメージして、思いっきり刀を振り下ろした。
    ザンッ、とライオンの体が斬れ、また絵の具となって地面にカラフルな色を付ける。確かに発現した斬撃に、こんな状況ではあれど高揚してしまう。面白い。もしショーでこれを再現するのなら、どんな風にすればこの緊張感を出せるだろうか。

    「類くんっ!!」
    「類、後ろっ…!」

    二人の声に振り返れば、最後の一匹が僕の後ろから高く飛び上がってその腕を振り上げている。寧々とえむくんが ぎゅ、と目を瞑って頭を隠すように蹲るのを横目に、もう一度刀を正面に構えた。野球でボールを打つように、全力で刀を振り切る。そうして最後の一匹が絵の具となり、地面をパシャンッ、と色付けた。
    重たい刀を何度も振ったからか、腕がぷるぷると震える。一気に気が抜けて、膝からがくん、と崩れた。
    がくがくと震える体では、すぐには動けなさそうだ。

    「………は、…はは…」

    情けない。けれど、かっこ悪くても、やり遂げた。怪我もなく、三人とも無事だ。
    顔を上げた寧々とえむくんが、呆気として周りを見回し、次いで僕に飛びついてくる。ぎゅ、と僕にしがみついて、ぼろぼろと泣き出した二人は、相当怖かったのだろうね。そんな二人を安心させるために笑顔をなんとか作って、その頭を優しく撫でた。

    「……絶対助けるから、もう少しだけ待っていておくれ…」

    届かない所にいるだろう大切な仲間に向けそう一言零したところで限界がきて、その場に寝転んだ。

    ―――
    (寧々side)

    「類、本当に大丈夫なの?」
    「ふふ、心配をかけてすまないね。慣れない事をして体が疲れているだけだから大丈夫さ」

    少し休んだけど、類は一人で立てない程ふらふらだ。いきなりライオン三匹と戦うことになったんだから、当たり前だけど。
    ちら、と類の腰に下げられた刀を見て、顔をしかめる。さっき触らせてもらったけど、すごく重かった。わたしは、類みたいにこれを振り回したりは出来ないだろうな。

    「……類しか武器を持ってないのは、さすがにまずいよね…」
    「…そうだね。司くんを助けるなら、えむくんのそっくりさんとはまた戦うことになるだろうし、対抗する手段は一つでも多い方が良いからね」
    「あたしと寧々ちゃんも、バババーンっ、ドドドドドドっ、シュババババーッ! って出来る物が欲しいよね〜」
    「いや、何言ってるか全然分かんないんだけど…」

    口を尖らせる えむに、肩を落とす。こんな状況でも えむはえむらしい。
    わたしは、類が立ち向かっていくのが、ちょっと怖かった。類が死んじゃうかもしれないって、思ったから。でも、わたし達のことを護ろうとしてくれて、実際に買ってくれて、すごく安心した。頼もしい幼馴染を、今度は私が護りたい。

    (…それに、司がえむの偽物と一緒にいるのは、なんか嫌だし)

    わたし達のことを“悪い人”と言った小さな司を思い返して、顔を顰める。なんで、あんたがそっちにいるのよ。早く帰ってきなさいよ、馬鹿。
    練習の時のうるさい司を思い出して、余計もやもやしてしまう。これが怒ってるとか嫌悪感じゃないことくらい、分かる。寂しくて腹が立つなんて、子どもみたい。

    「……むむむぅ…、んっ〜〜、…」
    「……………何してんの、えむ」
    「あのね、こう、ぐぉーーっ! ってしたら、武器が出てこないかなぁって!」
    「いや、そんな事で出るわけないでしょ」

    呆れたようにそう返せば、「そうかなぁ?」って言いながら えむはまた続ける。えむには、緊張感って言葉が似合わないな。こういう時は、気持ちが少し楽になって良いけど。
    左手で右手の手首を掴んで、何かの気を送る えむに、つい くすっと笑ってしまう。でも、確かにわたしも武器が欲しいし、ゲームのダンジョンみたいに、アイテムボックスでもあればいいのにな。見た感じ、ゲーム感は無いけど。
    キョロキョロと辺りを見回していれば、隣から急にボンッ、と音がして、えむの驚く声が聞こえてきた。咄嗟に顔を隣へ向けると、何故か えむの手に大きなハンマーみたいな物が握られている。

    「おぉおおおお! ホントに出たよー!」
    「嘘でしょ?!」
    「うん、良いね。攻撃力も高そうだ」
    「いや、そこじゃないから!!」

    両手を上げて喜ぶえむと、そんなえむを微笑ましそうに見る類に、思わず大きな声が出る。こんな時司がいれば、一緒にツッコんでくれるのに。…いや、[おおお、凄いな! オレもなにか出せるだろうか?!]って便乗してそう。
    額を片手で押さえて、脳内の司のイメージを反対の手で振り払う。そんなわたしの方へ、ずいっ、とえむが顔を近づけてきた。きらきらしたその顔に、何を言われるか察してしまう。

    「寧々ちゃんもやってみよーよ!」
    「嫌」
    「えぇー!でもでも、寧々ちゃんも戦えた方がいいでしょ?」
    「ぅっ……、それは、…そうだけど……」

    予想通りのえむの言葉に、視線が横へ逸れる。
    確かに武器は欲しい。わたし専用の。出来れば扱いやすくてそれなりに使えるやつ。ゲーマーの血が騒ぐし。でも、えむみたいに“気合いを入れる”っていうのは、やりたくない。
    きらきらした目でわたしを見てくる えむに、背中を冷たいものが伝い落ちていく。じっ、と視線がそらされることもなく、瞬きすらしないで見つめてくる えむは、わたしがやるのをずっと待ってるみたい。
    ぅう、と眉を下げて唇を引き結ぶ。“嫌だ”と“やってみたい”という気持ちが天秤にかけられて、後者の方の天秤にえむが どかっ、と乗ってきた。

    「……わかった、やる。やればいいんでしょ」
    「やったー!」

    がく、と肩を落として頷けば、すぐさまえむが両手を上げて喜んだ。こういう時に断りきれないのがわたしだな。特にえむのお願い断りづらい。
    意気揚々とわたしにやり方を説明してくれる えむの隣で、見よう見まねでやってみる。説明が分からないところは、類が通訳してくれて、何となくやり方はわかった気がする。

    「…うん。やるからには、成功させないと…!」

    よし、と意気込んで、二人に見守られながら片手に集中してみた。

    のはいいけど、五分経っても十分経っても全然出てこない。「ぐぉーーっ!って掛け声が必要なのかも!」なんて えむに言われて恥ずかしいのに言ってみたけど、それでも駄目だった。なに?何がダメなの?? わたしの意気込みが足りないの?!
    無意識に息を止めていたせいか呼吸が苦しくなって、大きく息を吸ってその場にへたり込む。全く何も出てこないのはなんなのよ。
    そんなわたしを見ていた類が、ぽつりと小さな声で口を開いた。

    「もしかして、寧々には武器がないんじゃないかな」
    「…ぇ……」
    「ほら、寧々の衣装は人魚の様なイメージだからね。もしかしたら、武器がないのかもしれないよ」
    「おおぉ、確かに! それじゃぁ、寧々ちゃんはとーっても泳ぎが上手なのかな?!」

    類の言葉に納得してキラキラの瞳をわたしの方へ向けてくる えむに、グッ、と拳を強く握り締める。

    「やり損じゃんっ…!!」

    司並みに大きな声が出たわたしに、二人が驚いたような顔を向けてくる。
    困ったように溜息を吐く司を思い出して、わたしは今日何回目かの[司に会いたい]を心の中で叫んだ。
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